第34話
三者三様の武器の対応にキルシマは忙殺された。三対一の鋭い攻撃の応酬に、ジャゴも中々入り込む余地を見出せないようだ。
俺は自分の身体に力を込めた。動け動けと何度も念じた。ジャゴですらなにもできない状況に、俺が動けるようになったところでできることなどないだろうが、ひたすら動けと念じ続けた。このままではキルシマが殺されてしまう。
「ゆう」
ユーリップ、助けてくれと俺は声にならない声を上げた。しかし頼みの綱であるユーリップもまたその身を封じられていた。
そうだ。人のことを云えないが、ユーリップもまた、基本的には素直だった。フィの硬直魔法が効いてしまっている。
似て非なる三人の戦士と彼らを従える賢者。打破する方法はあるのか。俺は必死に考えた。考えることしかできない俺は非力だ、いつも非力だ。
ユーリップは多少ふらつきながら俺の肩を掴んだ。
「あら、さすが吸血鬼。魔法を自力で解いたのね」
それだけではない、ユーリップが肩に触れた途端に俺の身体は軽くなった。フィは再び硬直の魔法を放ったが、ユーリップは一言しゃらくさいと云って、派手さはないがかかると致命的な魔法を撥ね返した。
涼やかだったフィの顔に、ごくわずか翳りが差した。
俺は劣勢のキルシマを見てジャゴに指示を出す。松明用に油を染み込ませているぼろきれを鉄槌に巻き付けさせ、タイミングを見計らいキルシマの助勢に向かわせた。ジャゴは、俺では持ち上げることすら困難な鉄の塊を振るい、斧のマンスズと打ち合った。入れ替わりにキルシマが距離を取って一息つこうとする。剣のウモンがそうはさせじと前に出た。
「ジャゴ、上に跳べ!」
云われるがままジャゴは跳躍した。ウモンの後ろから槍のネレイドが迫っていたからだ。
「鉄槌を振り下ろせ!」
俺は松明から火種を取り、振り下ろされたジャゴの鉄槌目掛け投げつけた。鉄槌に巻き付けた布に引火し炎が上がる。さらに俺は小麦の粉を入れた袋の口を開け、同じように鉄槌目掛け投げつける。飛び散った粉末に火が移り、ダンジョンの中で花火が炸裂したようになった。目くらましだ、こんなことぐらいしかできない。それでも相手の攻撃の手を緩め考える時間を作らなくては、やっとC級に昇格した俺たちは、あっという間に上位の冒険者に飲み込まれてしまうだろう。
キルシマが槍を握るネレイドの指を切りつけた。
「畜生、何てことしやがる!」
「首を切り落とした方がよかったか!」
仲間の危機に剣のウモンが動く。フィが回復の呪文の詠唱に入る。
「カザン殿、回復されると厄介だ、また三位一体の攻撃がはじまる!」
それはわかっている。俺は床に落ちた槍を拾い上げた。
「返せこの野郎!」
槍の柄でウモンの横面を殴りつけた。ウモンは鼻血を出しながらも怯まない。
「どいていろ」
ジャゴが火のついたままの鉄槌でウモンの剣を払った。ジャゴの背中を台にして、キルシマが跳んだ。身体を丸めて上下反転し、天井を蹴って加速をつける。
「キルシマ! 武器を破壊するんだ!」
「承知!」
どうせ回復されてしまうのならば攻撃手段を封じるしかない。回復したネレイドが俺から槍を奪い返そうと迫った。俺は槍に油を掛け火を放った。
「てめえ!」
戦士と料理人では感覚が同じなのかわからないが、愛用の道具が壊れる哀しみはわかる。
キルシマはフィの火の魔法に因り撃墜された。
即効性のある回復の術を持たない俺たちは次第に追い詰められていく。いよいよユーリップに頼るべき時が来たかと俺は腹を括る。しかしユーリップに、相手を殺さず戦闘不能にするような小器用な真似を期待するのはやはり無理があるように思える。
「いや」
強い連中だから死にはしないかもしれない。
俺は首を振った。そんな中途半端な思いを預けられてもユーリップが迷惑だ。
マンスズの斧が俺の盾に突き刺さった。俺は構わず盾を押し込み身体を捻る。どうにかそれで斧を絡めとろうとするが体格も腕力も違うため、びくともしない。
ジャゴが鉄槌で横から殴りつけ、マンスズを昏倒させた。
「ジャゴ! 止めを刺せ!」
ジャゴは一瞬ぽかんとした。そして俺の表情を見て意を介し、鉄槌の先で倒れたマンスズの胸を突き刺そうと馬乗りになった。ウモンが飛び出る。
そうだ、それでいい。
俺はユーリップを引っ掴み、ウモンの鼻面に突き出した。
ユーリップはよくわからないままにっこり笑う。なにもさせない。ただのこけおどしだ。翡翠のように美しい吸血鬼の圧に固まったウモンの頭に鉄槌が振り下ろされる。加減されているとはいえジャゴの力で振り下ろされるのだ、俺なら一撃で死んでしまうかもしれない。
ネレイドは昏倒したウモンの剣を拾い上げジャゴに切りかかった。キルシマが剣を受け流し、返す刀で装備の薄いネレイドの内腿を切りつけた。
ネレイドはその場に転げた。
「まだ戦うかつもりかッ!」
俺は賢者フィに問いかける。確かに非戦協定など結んでも無駄なのかもしれない。最後にはまた殺し合うことになるのかもしれない。それでも人である以上、俺は悪足掻きをしたい。
「不服なのはわかるが、これ以上戦っても無為だと思う」
フィは何も云わずに項垂れている。俺は消耗しきっているキルシマやジャゴを立たせ先に進もうと云った。俺にはやるべきことがある。何を差し置いても連れ去られたライホを探し出さなければならない。生き残りや勝ち残りを考えるのはその先だ。本音を云えば戦闘は一切したくない、冒険者同士殺し合うなんて本当に馬鹿げている。狂気の沙汰としか云えない。
とにかく先を急ごうと俺は歩き出す。うなじがぞくりとした。その感覚に後ろを振り向くと、小指の先ほどの小さな火球がフィの手のひらから放たれたのは同時だった。
青白く輝く蛍の明かりのような幽かな光に、俺は思わず足を止めた。
「カザン!」
ユーリップの声が響いて、俺は突き飛ばされた。
小さな火球は瞬く間に膨張し、触れたものすべてを焼き尽くしていた。
焦熱と云われる上位魔法。
俺は声が涸れるまで叫び続けた。仲間の名前を呼び続けた。
ジャゴが喚く俺を抱える。
「ジャゴ!」
「逃げる」
「キルシマは? ユーリップは……ッ?」
「呪われたかつての仲間を助けるのだろう?」
「だけど!」
ジャゴは歯を食い縛っていた。
ダンジョンの中はフィが放った魔法の影響で煙と埃でなにも見えない。たしかに逃げ出すなら今なのだろう。
賢者フィは歌うように云った。
「あなたたちは遅かれ早かれ死ぬ。生き残れはしない。だから私が今引導を渡してあげます」
「ま、待て!」
俺は叫んだ。ダンジョン内の僅かな気流に乗って煙が動き、その隙間に倒れたキルシマを見た。
「き」
俺はジャゴに担がれ、無理矢理その場を脱出させられた。
「だめだあああああああああああああああッ!」
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