第28話 夕暮れの二人

夕方の空気が少し冷たくなり、校舎の長い影が地面に落ちる頃。霧は職員室で押し付けられた雑用――理科室から持ち運んだフラスコやビーカーを倉庫に戻すという、何とも気の進まない雑用を終えたばかりだった。


ようやく帰れると思いながら校門へ向かう途中、ぼんやりと校庭の光景に視線を滑らせると、花壇のあたりでしゃがみ込む人影が目に入った。


その人影は白鷺沙羅だった。彼女は制服の袖をまくり上げ、黙々と手を動かしている。地面には細かい土が散らばり、支柱らしき棒が何本か無造作に横たわっていた。


霧は思わず足を止めた。風に揺れる髪が夕陽を反射して、柔らかな色合いを帯びている。その横顔はどこか真剣だ。

彼女の周囲に漂う、ほのかな緊張感。それが、霧の中に小さな引力のようなものを生み出していた。気づけば足は彼女の方へ向かっていた。


近づくと沙羅がスコップを片手に支柱を土に埋め直そうと奮闘しているのが見えた。彼女の細い指がぎこちなく土を押し固めているが、支柱はぐらりと揺れ、そのまままた傾いてしまう。地面には何本もの支柱が散らばり、作業の途中だと一目で分かる。

夕陽がその肩をオレンジ色に染める中、沙羅の動きには一生懸命さが滲み出ていた。


「何やってるんだ?」

霧が声をかけると、沙羅はハッと肩を跳ねさせて振り返った。驚いたような大きな目が霧を捉え、すぐに気まずそうに笑みを浮かべる。その額には細かな汗が浮かび、頬はほんのり赤らんでいた。

「桐崎君」

彼女は少し息を切らせながらスコップを持ち直す。

「強風で支柱が倒れちゃって……花が傷つく前に直さなきゃと思ったんだけど、上手くできなくて」

その言葉に霧は軽く眉を上げ、呆れたようにため息をつく。

「一人でやるのは大変だろ、それ」

そう言いながら霧は膝を折り、近くに転がっていた支柱を拾い上げた。

「俺もやるよ」

彼の声は素っ気なかったが、その言葉に沙羅は戸惑ったように目を瞬かせる。

「え、でも……悪いし」

そう言いかける沙羅の言葉を遮るように、霧は支柱を土に立てる準備を始める。

「早くしないと日が暮れるだろ」

淡々とした口調で言いながら、霧はもう作業に取り掛かっていた。その背中を見つめる沙羅は、次第に表情を緩め、彼の隣で支柱を再び握り直した。


支柱を押し込むたび、霧の手のひらに冷たさがじんわりと染み渡った。固い地面がしぶとく抵抗し、思わず「結構疲れるな」と独り言のようにぼやいてしまう。腕に力を込め、支柱がようやく地面に固定される頃には肩に鈍い疲れが広がっていた。


その様子を見ていた沙羅が、申し訳なさそうに目を伏せた。

「ごめんね、手伝わせちゃって……」

霧は手のひらについた泥を軽く払いつつ、少し笑いながら肩をすくめた。「いや、俺が勝手にやり始めただけだし。それに、俺がいなかったら、これ終わるの夜になっていただろ?」


そう言いながらふっと笑みを浮かべると、沙羅もつられるように小さく笑った。その柔らかな笑顔が、不意に霧の胸をざわつかせる。夕陽の淡い光に照らされた彼女の顔が、どこかいつもより近く感じられた。気づかれないように軽く視線をそらしながら、霧はもう一本の支柱を手に取る。


最後の支柱を土に押し込むと、霧は満足げに立ち上がった。夕陽に照らされた支柱の列が花壇に整然と並ぶのを見て、「これで大丈夫だろ」とぽつりと呟く。霧の声には静かな達成感が滲んでいた。


隣で沙羅も立ち上がり、泥だらけになった自分の手を見下ろした。そして、ふっと小さく笑って「ありがとう、桐原君。本当に助かった」と礼を述べたる。その柔らかな笑顔は彼女の顔を一層明るく見せていた。


霧はふと空を見上げた。夕陽がほとんど沈み、空は茜色から紺色に変わりつつあった。風が涼しく肌を撫で、花壇に植えられた花々がかすかに揺れている。

霧は軽く伸びをすると、近くの水飲み場へ向かった。蛇口をひねると冷たい水が勢いよく流れ出し、泥だらけの手を洗い流していく。ふと隣を見ると、沙羅が真剣な表情で指の隙間まで丁寧に泥を落としていた。

「そんなに熱心に洗うの?」

霧が少し笑いながら声をかけると、沙羅は顔を上げて小さく微笑んだ。

「桐崎君も、ちゃんときれいにしておかないと。泥って意外と落ちにくいんだから」

そう言いながら、沙羅は自身の手の甲を水でこすり続けた。

霧は「はいはい」と軽く応じながらも、心の中でその柔らかな声の響きを反芻していた。彼女が手を振って水を払う仕草が、なぜか彼にはひどく目を引くものに思えた。

「こういうことって嫌になったりしないの?」

霧は蛇口を閉めながら尋ねる。

沙羅は少し首をかしげ、「こういうこと?」と聞き返した。

「土いじりとか、泥だらけになる作業とかさ。俺だったら面倒だなって思うけど」

沙羅は考えるように目を細め、それから穏やかに笑った。

「確かに、泥だらけになるのは嫌だけど……花が元気になってるのを見ると、それだけでなんだか報われた気がするの」

「そうか。白鷺のおかげで、あの花はあんなに綺麗に咲いてるんだな」

霧が花壇をちらりと指差しながら言うと、沙羅は驚いたように目を丸くした。

「え?私のおかげなんて、そんな…」と、慌てて手を振る。

霧は花壇の花々に視線を移しながら、ふと呟いた。

「白鷺って、花みたいだ」

突然の言葉に沙羅は動きを止め、「え?」と驚いたように彼を見上げた。

「普段は花のことなんて意識して見ていないんだけど、ふと目に入った瞬間、その美しさにハッとするときがあるんだ。なんでこんな綺麗なものに、今まで気づかなかったんだろうって。その感じが、白鷺みたいだなって思うんだよ」

その言葉に、沙羅は動きを止めた。彼の横顔をじっと見つめる。

「え……?」

沙羅は戸惑ったように問い返すが、霧は顔を逸らし、軽く首を振った。

「なんでもない。ただの独り言。気にするなよ」

そう言いながら、霧は立ち上がり、花壇の端に転がっていたスコップを拾うふりをした。けれど、心の中はぐるぐると渦を巻いている。「俺、何言ってんだよ……」と自分を叱責しつつ、沙羅の視線が背中に突き刺さっているのを感じるたびに、じわじわと顔が熱くなるのを抑えられなかった。


沙羅は霧の言葉を受け止めながらも、顔を上げることができず、視線は足元をさまよう。沈黙が二人の間に漂い、薄暗い空がその沈黙を優しく包み込んでいた。

「でも、嬉しいかも」

沙羅がぽつりと口を開いた。顔を真っ赤に染めたまま、絞り出すようにそう言った。

霧は驚き、軽く眉を上げる。

「嬉しいって?」

「……その、そういう風に思ってくれる人がいるっていうのが、なんだか…嬉しいなって」

沙羅は声を小さくしながら、ちらりと霧を見上げる。

胸の奥がくすぐったいような感覚に襲われ、霧は軽く目を伏せた。それを表に出すのはあまりに気恥ずかしく、霧はいつもの調子でごまかすことにした。

「そういう風に思っている人、たくさんいるよ。白鷺って人気者だし」

沙羅は一瞬きょとんとした表情を浮かべ、それからクスリと笑った。

「何それ。そんな人全然いないよ」

「いやいや、謙遜するなって。気づいていないだけなんじゃないの?」

霧が軽く笑うと、沙羅もつられてもう小さく笑った。


「……こんな風に話すの、なんだか久しぶりな気がする」

沙羅がぽつりと呟く。彼女は地面を見つめながら、小さく足先で土をいじるような仕草をしていた。

「そうか?」

「だって桐崎君、最近ちょっと素っ気なかったし……」

沙羅が少し恥ずかしそうに視線を逸らしながら答える。その言葉に、霧の胸がかすかに跳ねた。

「……そんなことないだろ」

「ううん。あるよ。前みたいに普通に話しかけてくれなくなったから……私、何かしちゃったのかなって、ちょっとだけ思ってた」

霧は沙羅の言葉に一瞬だけ黙り込んだ。胸の中に小さな罪悪感がじわりと広がる。だが、自分の本心をさらけ出すのはあまりに気恥ずかしく、少しの怖さもあった。だから、彼は軽く肩をすくめて言葉を選んだ。


「いや、そんなつもりじゃなかったんだけどな……」

霧はわざとらしく頭を掻きながら、視線を空の方に逃がした。

「ただ、白鷺ってさ、俺があんまり近づくと迷惑に思うんじゃないかって、勝手にそう思っただけなんだよ」

その言葉に、沙羅は驚いたように顔を上げる。

「迷惑?どうして……?」

「いや、なんかその……俺みたいな奴がちょっかい出すの、本当は嫌なんじゃないかなって思ったんだよ」

霧は笑みを浮かべながら言い訳じみた言葉を並べた。けれど、その笑みはどこかぎこちなく、沙羅にはそれが分かってしまうような気がした。

「そんなことないよ、桐崎君が迷惑だなんて思ったこと、一度もない」

沙羅は力強く首を振りながら言った。

「むしろ、最近ちょっと寂しかったくらい。桐崎君に距離を取られている気がして……」

霧は沙羅の言葉に心臓をぎゅっと掴まれたような感覚を覚えた。寂しかったという一言が胸の奥で響き、予想以上に自分の中で何かが揺れ動いているのを感じる。


「……そっか、なんかごめん」

思わず漏れたその言葉に、自分でも驚いてしまった。もっと軽く返すつもりだったのに、声が妙に真剣に響いていた。

沙羅は照れくさそうに笑いながら、「そんな大げさな話じゃないけどね」と答える。

「でも、俺もなんか変な感じだったよ」

「変な感じ?」

「……なんていうか、話したいのに、話さない方がいいんじゃないかって勝手に思っちゃったんだよ。そしたら、変な距離を作っていた気がする」

霧は肩をすくめて苦笑いを浮かべた。それが言い訳なのか、本音なのか、自分でもよく分からなかった。ただ、沙羅の瞳が少し柔らかくなったのが見えた。


「話したいって……思ってくれてたの?」

沙羅の声は小さいが、どこか嬉しそうだった。その問いに、霧は一瞬言葉を詰まらせる。けれど、今さら引き下がるつもりもなかった。

「当たり前だろ」

沙羅は霧の返事を聞いて、ほんの一瞬驚いたような顔をした。けれど、その後すぐにふわりと柔らかい笑みを浮かべた。

「……私も桐崎君と話したかったよ、ずっと…」

その一言が、霧の胸の奥に響き渡った。思わず息を止めて、彼女の表情をじっと見つめてしまう。沙羅の視線はまっすぐで、ほんの少しだけ恥ずかしそうだったが、そこには嘘のない気持ちが感じられた。


霧は思わず心の中で自問した。これって、もしかしたらいけるんじゃないか?と。

「それは意外だ。俺、そんなに話してて楽しいタイプか?」

わざと軽口を叩いてみたが、その言葉の裏では自分の心拍音が速まるのを感じていた。

沙羅は霧の方をちらりと見て、それから視線を下に落とした。そして、少しだけ言いにくそうにしながら、ぽつりと答えた。

「だって……桐崎君と話してると、なんか落ち着くし、楽しいし……なんて言うのかな、気づいたらいつも探しちゃうんだよね」

霧はその一言に完全に固まった。胸が高鳴るのを抑えられず、口を開こうとしたが、言葉が出てこない。

「それは…俺がお兄ちゃんみたいな存在だから、そう思うのか?」

ようやく絞り出した言葉に、自分でも情けないと思ったが、どうしても聞きたくなった。

それを聞いた沙羅は「あ……」と短く声を漏らし、霧から目を逸らした。頬がうっすらと赤みを帯び、困ったように靴先で地面をつついている。

「それ、前に私が言ったやつだよね……お兄ちゃんみたいって。でも、なんか……今はちょっと違うかも」

沙羅は消え入りそうな声でそう言った。

「違うって?」

霧は驚きながら問い返した。けれど、その胸の奥では、微かな期待が膨らんでいくのを抑えきれなかった。

沙羅は少しだけ息をつき、霧の顔をちらりと見上げた。

「……なんて言うのかな、桐崎君って頼りになるし、一緒にいると安心できるから、そう思ったんだと思う。でも……お兄ちゃんみたいって表現は、あんまり合っていなかったのかも」

その一言に霧は目を見開きながらも、平静を装おうと小さく笑みを浮かべた。

「……それなら、そっちの方がありがたいな。正直、お兄ちゃんみたいって言われるの、あんまり嬉しくなかったし」

「え……そうだったの?」

沙羅は驚いたように霧を見上げた。頬がほんのり赤く染まり、何か言葉を探すように唇を少しだけ開いたまま固まっている。

「だってさ、お兄ちゃんみたいって、男として見られていないってことだろ?でも、俺はそんなつもりで白鷺と話してたわけじゃないからさ」

沙羅の目がわずかに揺れた。

「……じゃあ、どんなつもりだったの?」

その問いは、恐る恐る差し出された手のようだった。霧は一瞬だけ言葉を詰まらせる。けれど、ここで引き下がるのもなんだか格好悪い気がして、ほんの少しだけ勇気を出してみた。


霧は少し目を伏せた後、軽く息をついた。そして、まっすぐ沙羅を見つめて口を開く。

「どんなつもりかって……普通に、白鷺ともっと仲良くなりたいって思ってたんだよ」

その言葉に、沙羅は驚いたように目を丸くした。けれど、霧は続ける。

「いや、仲良くっていうか……なんて言うんだろう。白鷺とは、他の子とは違う感じで……話したいとか、一緒にいたいとか、そういう風に思ってたっていうか」

自分でも何を言っているのか分からなくなりながらも、霧は話を止められなかった。

「だから、お兄ちゃんみたいって言われたときは正直ショックだったし……俺はそういう風に見られたいんじゃないんだって思ったんだ」

沙羅はじっと霧を見つめたまま、何か言いたげに唇を開きかけたが、声は出なかった。

霧は一歩踏み込むように、さらに言葉を紡ぐ。

「白鷺には、もっと特別な存在として見てほしいんだ。そういうつもりで……ずっと話してた」

静かな夕方の風が二人の間を吹き抜ける。沙羅は視線を下げ、しばらく黙っていたが、やがて、顔を上げた。

「……特別な存在って、どういう意味?」

その問いに、霧は少しだけ微笑んだ。

「そのままの意味だよ。……俺、白鷺のことが――」

霧の言葉が終わる前に、不意に遠くから響いた声が二人の間の空気を切り裂いた。


「沙羅!ここにいたのね」


振り向くと、瑠璃が花壇の脇の通路を足早にこちらへ向かってきていた。その声にはどこか苛立ちと心配が混じっている。

「瑠璃ちゃん……?」

沙羅は驚いたように振り返る。

瑠璃は一瞬霧に視線を向けた後、沙羅の方へ歩み寄った。

「沙羅のお母さんから頼まれたのよ。迎えが来てるのに連絡が全然つかないって、すごく心配していたわよ」

「え……ごめん、私、気づかなかった……」

沙羅は慌ててスマホを取り出し、画面を見るなり「あっ」と短い声を漏らした。何件もの未読着信が並んでいる。

「これ以上待たせるのは失礼よ。急いで行きましょう」

瑠璃は優しく促すような声で言ったが、その目は沙羅ではなく霧を一瞬だけ鋭く見据えた。

沙羅は申し訳なさそうに霧を振り返る。

「桐崎君、今日は本当にありがとう。また、明日……!」


そう言いながら、沙羅は瑠璃に連れられて花壇を後にする。残された霧は、夕闇の中で二人の背中を見送ることしかできなかった。



翌朝、霧は眠い目をこすりながら歩き出した。けれど、昨日の花壇での出来事が頭の中でリピート再生され続けていて、足取りは妙に軽い。沙羅の「特別な存在として見てほしい」という彼の言葉に頬を染めた姿が、何度も浮かんでは消える。


一方で、瑠璃に邪魔をされた瞬間の記憶もまた鮮明で、思い出すたびに眉間がピクリと動いた。「何なんだよ、あいつ……」霧は小声で毒づく。完全に邪魔をしに来たとしか思えないタイミングだ。それでも、瑠璃に対して腹を立てる自分の中で、沙羅の笑顔と嬉しそうな言葉が勝っている。


――脈、あるよな。いや、あの反応はどう見てもいけるだろ。


霧はつい口元に笑みを浮かべた。ついに、自分の気持ちが沙羅に伝わる日が近づいてきたような気がしてならない。昨日の瑠璃の乱入すら、沙羅との距離を縮めるための試練に思えてくる。そうだ、これはちょっとしたハプニングだ。沙羅があんな風に特別な感情を見せてくれたんだから、もう後戻りはないはずだ。


心の中で繰り返される「いける」の確信を胸に、霧は昨日の悔しさを振り払うように歩を早めた。今日こそ、沙羅ともっと進展させてみせる――そう固く決意しながら。


しかし、その日、霧は沙羅と二人きりになれる絶好の機会を探し続けたものの、結局うまくいかなかった。教室でも廊下でも、彼女の姿を目で追うたび、タイミングはことごとく外れた。けれど、霧は楽観的だった。毎日学校で顔を合わせるのだから、機会などいくらでも訪れる――そう自分に言い聞かせた。


だが、その「機会」は予想以上に遠のいてしまう。沙羅とろくに話すことができない日々が、一週間も続いたのだ。その原因は明白だった。瑠璃だ。まるで沙羅のボディガードのように、いつどこでも彼女のそばにいる。しかも、霧が少しでも近づこうとする気配を見せると、鋭い目付きで射抜いてくるのだ。


「まったく、あの目……」霧は心の中で小さく舌打ちをした。瑠璃の視線には、単なる嫌悪以上のものが込められているように感じられた。それは「近づくな」という無言の警告と、「お前の考えはお見通しだ」という冷たい断罪を含んでいるようだった。


一方で沙羅自身は、そんな瑠璃の「盾」ぶりに気づいているのかいないのか、相変わらずの穏やかな表情で過ごしていた。それがまた、霧の胸をざわつかせた。沙羅に話しかけようとするたびに、横から突き刺さる瑠璃の視線に負けてしまう自分が、情けなく思えて仕方がなかった。


そして沙羅は、霧の気持ちを理解しているのかどうかも分からない。少なくとも、あの夕暮れ時、霧が何を言おうとしていたのかを問いただす素振りは見せない。その態度がかえって霧をやきもきさせた。


その態度が沙羅らしいと言えばらしい。だが、あの日の記憶をたどるたび、霧は「もしかしたら」と期待を抱かずにはいられない。あの一瞬は、彼の中では特別だった。それが、沙羅にとっても同じ意味を持っていたのか、それを確かめたくて仕方がなかった。


沙羅とは連絡先を交換している。だから、いざとなればメッセージでも、電話でも、気持ちを伝えることはできる。だけど、やっぱり直接、沙羅の目を見て伝えたいという強い思いが霧にはあった。

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