最終話:雪の記憶

数日後。


地元の新聞に、小さな記事が載った。


「10年前の火災事故、ついに最後の遺体が発見される」


山奥の雪の下から、焼け焦げた骨が見つかったという。


記録によれば、その身元は——


「森山敬介」


そして、村人の間でこんな噂が囁かれた。


——雪の降る夜、あの旅館の跡地を訪れると、時折、白い着物を着た少女が佇んでいる。


——彼女の隣には、いつも誰かがいる。


——二人で、雪の中へと消えていく。





……… 雪の降る夜にだけ、現れる旅館があるという………


山奥の吹雪の中、道を失った者たちが見つける、古びた木造の建物。


暗闇の中に浮かぶ、仄かな灯り。


そして、その戸を叩いた者は、二度と戻らない。



それは、"罪を抱えた者だけ" がたどり着く宿。



殺人者、裏切り者、己の過ちを覆い隠した者——


彼らは何も知らずにその旅館に足を踏み入れる。


暖かな灯り。出迎える女将。静かな客室。


そして、彼らは思う。


「ここなら、しばらくの間、安らげるかもしれない」と。


だが、彼らは気づかない。


この宿が、ただの宿ではないことに。


ここは、罪人のための"終着点"。


『悠久の宿 雪女亭』


(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雪深い旅館への誘い 苔葉 @kokeha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る