Young Gun Silver Fox West End Coast 2015年作

 一曲目 You Can Feel It からいきなりイーグルス?と言う空気と風景を運んでくれるのは、アルバムのアートのとおり椰子の木が夕方の空にたくさん立ち並ぶ、それそのものだ。LA のちょっと汚れながら空の高い晴れの広がるような。バースのメロディーなどはグレン・フライが歌っているの?と言うもの。サビはティムシュミットにハモらせたら?と言う、一気に1979年から1980年にタイムスリップさせてくれる。

 2曲目も似たような感じだが、少々ソウルがかる、これは主催者のひとりアンディプラッツ氏のバンドMamas Gun から出ているようだ。もうひとりの主催者はショーン・リーと言う人で、彼はLA で活動している。プラッツ氏がUK で英米の2人のバンドだと言える。

 4曲目のDistance Between Us ではイントロでPlayer のBaby Come Back を丸パクリ、そのままBaby Come Back を歌いそうになるが、曲自体はそんなことはなく、爽やかなサビのハーモニーのあるウェストコースト曲。5曲目の See Me Slumber はモータウンから80年代のソウル曲のような男性ヴォーカルのかん高いハイトーンの美しい曲。その筋のファンも気に入る曲だろうが、ここはYGSF、やっぱりウェストコーストサウンドだ。6曲目のIn My Pocket も同じだが、ファルセットのヴォーカルとウェストコーストの合体のサウンドだが曲はとてもポップ。プリンスのファーストに近い感じ。7曲目のSo Bad は明らかにドゥービーブラザースのノリだ。トム・ジョンストン時代の Long Train Running のグルーヴだ。

 ホーンセッション的アレンジはシンセサイザーか何かで行っているようで、機材名がクレジットされているがその辺はわからない。ヴォーカルのからみとコーラスがたのしめる。

 8、9曲目とポップな曲が続き、10曲目の Long Way Back ではスローなソウルバラードの中でも特にうっとりとするような演奏と歌を聞かせる。これを聴いているとスウェーデンの Snake Charmer の Free Floating を思い出す。しかし、こちらの方がずっと雰囲気が濃厚でトロピカル、椰子の木の下の砂浜の傍の平屋の高級ホテルの部屋で、恋人と日の明けた深夜に語らうのに良い曲だ。

 スウェーデンのSnake Charmer の曲を聴いた時は、これは凄いと思ったが、あっさりとYGSFがこれを凌駕したかのような思いにされた。SCの方はメロデックハードロックと言われるバンドなので仕方ないが、やはりもともとはこう言うのはアメリカの音楽なのだ。そこに住んでいないとそこまで本格的にはならないのかも知れない。


 このバンドのこのアルバムはファーストで2015年作だ。ちょうど十年前だが、古い音楽をそのまま形にするアーティストはその頃は大体は非英語圏である。ロックやポップスで言うと第三国の人々だ。前レビューで言ったとおり北欧の福祉スタジオで作られる比重が大きいが、デジタルの低コストがなせる技、英語圏でもAORアルバムは地味に作られていた。ところがYGSF のようにウェストコーストロックを徹底的に追求する人はそんなにいなかったかも知れない。と言うのは、それらの音源がアンダーグラウンド過ぎて表に現れないからだ。

 YGSF にはAOR要素は殆どない。ギターソロがないし、ヴォーカルのアンサンブルなんてとてもAORとは呼べない。楽曲そのものはAORの範疇に入れられるだろうものはあるが、上述の理由からそうでなくなる。

 そう言う理由からこのユニットの存在はとても貴重だと言えるし、続けてほしいと切に願う。ヨットロックのど真ん中の非AORバンドとして世にもう少し認知されたらと思う。

 Led Zeppelen のファンが本家ではなく Greta Van Fleet に移ったように、イーグルスやドゥービーブラザースのファンが YGSF に移るとまで言わないまでも注目すれば、なんて思ったりもする。その価値は十分にある。

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