序章の音がする

 地を這うような振動によって目を覚ました。ここは私の部屋。普段となんら変わりはない。そして、今の地震も特に大きな災害をもたらす程のものではないだろう。


 そう確信しているのに、胸の奥でざわついている黒く禍々しい何か。今朝起きたときに唐突に感じた違和感。


 何かが始まる。


 そう言っているようで、心底不気味だ。ひとまずベッドから起き上がり、朝食を済ませた。今日は普通に学校がある。制服を着て、歯を磨いて、入学の前に買ってもらったローファーを慎重に履いて家を出た。


 そうして普段と何ら変わりのない作業をしている中でも、違和感は絶えなかった。


 あの交差点はいつも通り混雑している。


 あの家の犬は今日も吠えている。


 あの家の窓は今日も割れたまま。













 一つだけ、普段と違うことと言えば。


 穴が、空いていた。


 周囲には、私が通っている私立高校の生徒であふれていた。よく見ると、教員もいるようだ。


 高校があった場所に、穴が、空いていた。



 テレビ局の人が取材をしていた。しかし、どの人も変わらず、「分からない」としか言えなかった。誰もが困惑の表情を浮かべ、自衛隊までが駆けつけてきた。


 結局というより、やはりというべきか、高校は臨時休校となった。


 耳鳴りがした。


 キーン……と鳴り止まない騒音に思わず耳を塞いだが、もちろんそんなことに意味はなく、気を紛らわすために身をベッドに投げ出した。




 夢を見た。


 ノートに筆記する夢を見た。


 ノートのタイトルは追想ノート。


 追想ノートに筆記する夢を見た。


 一心に筆記具を動かし続けていた。何を書いたのかも、これから何を書くのかも分からないまま、無意識に似た状態で、ペンを走らせ続けた。




 浅い眠りだったのだろう。1時間程度で目が覚めた。


 ふと、机を見ると、昨日投げ出したままになっていたノートが置かれていた。


 タイトルは、追想ノート。


 耳鳴りは鳴り止まない。


 心臓を打つスピードが心なしか速くなっていくようだ。深呼吸をするも、未だそれは収まらない。




 体が危険を告げていた。




 そんな警告も耳に届かぬほど、目の前のノートに魅入られたように目を奪われていた。


 衝動的にノートを開いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2025.1.28(埼玉)――2025.1.28(埼玉)


道路が陥没する。ライフラインが止まる。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 今度は逆に、衝動的にノートを閉じた。何か見てはいけないものを見てしまったような、そんな気がした。


 心臓を打つスピードは、より一層速くなった。耳鳴りで耳が痛い。


 私は恐る恐る次のページを捲る。


 駄目だと分かっていた。でも、そもそもこのノートは何なのか、知りたかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2011.3.14(東北)――2026.3.14(東北)


大規模な地震。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ノートには一言だけしか書かれていなかったが、3.14の大規模地震。これは東日本大震災……???


 だとしたら、それが来年の3月14日に何があるというのか。


 もう一度先ほどのページを捲る。


 2025年から、2025年、とある。


 今のページに戻る。


 2011年から、2026年、とある。


 これは一体……?

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追想之音 K.M @KeyandKey

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