紙飛行機

むー社長

紙飛行機

 幼い頃から隣に住む菜月なつきは、僕のかけがえのない友達だった。体が弱く、外で遊ぶことがほとんどできない彼女の部屋は、いつも静かで、太陽の光が柔らかく差し込んでいた。僕が外での出来事を話すと、菜月は笑顔で耳を傾け、まるでそこにいるかのように目を輝かせた。


 誕生日にはいつも手紙を交換していた。僕の誕生日であるクリスマスには菜月が、菜月の誕生日の3月31日には僕が手紙を書く。手紙は僕たちにとって特別な贈り物だった。言葉にするのが照れくさいことも、手紙なら自然と伝えられる気がした。


 しかし、高校に入ると、菜月の病状はさらに悪化した。学校に行けなくなり、家から出ることもほとんどなくなった。そして高1の夏、菜月は入院生活を余儀なくされた。僕は学校帰りに病院を訪ね、いつものように外の話をする。菜月は変わらず笑顔で聞いてくれたが、その笑顔は少しずつ薄れていった。


 クリスマスの夜、菜月の母親から電話がかかってきた。急いで駆けつけたときには、菜月はもう眠るように息を引き取っていた。病室は静まり返り、彼女のベッドサイドには一通の封筒が置かれていた。宛名には僕の名前が書かれている。


 震える手で封を開けた。そこにはたった一言だけ。


「あなたが好きです」


 言葉が胸に突き刺さり、涙が止まらなかった。僕も同じ気持ちだった。でもその思いを伝える機会は、もう二度と訪れない。


 季節が巡り、3月になった。菜月の誕生日に、僕は菜月の部屋で2人の思い出を辿っていた。机の上には、彼女が使っていた1本のボールペンと白い紙が置かれている。それを見て、ふと思いついた。


 僕は紙を1枚取り出し、菜月への手紙を書いた。


「菜月、君がいなくなって寂しいよ。君の笑顔、君の声、全部恋しい。僕も君が好きだったよ。僕と出会ってくれて、本当にありがとう。」


 書き終えると、それを紙飛行機に折り上げた。そして菜月の部屋の窓から空へ飛ばす。風に乗って高く舞い上がり、どこかへ消えていく飛行機を見て、少しだけ心が軽くなった気がした。


 それでも、机に置かれた菜月のボールペンを見るたびに、僕は彼女のことを思い出すだろう。そして、彼女への思いを胸に生きていこうと誓った。


 空のどこかで、この紙飛行機が菜月に届いていると信じて。

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紙飛行機 むー社長 @MuPresident

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