偽物の友達
偽装お友達契約、締結
「クルーエルちゃんの昇段試験日、決まったんだって?」
魔法実技の時間。
早々に課題を終えたフランとシアは、訓練所の片隅で休憩していた。
視線の先では、今日もクルーエルが氷属性の魔法で仮装精霊と打ち合っている。
「この分だと、退学の話もなくなりそうだねえ」
「そうね」
「本当なら第一階梯くらい楽勝だもんね。なんで今、あんなことになってるんだろ」
「さあ?」
フランはすっとぼけた。
クルーエルとの約束だからだ。
†
「しばらく人前では本気を出さない?」
「ええ」
オドの譲渡を申し出た日。
授業の合間に、クルーエルはそう宣言した。
当面の間、全力は出さないままでいくと。
「なんでよ」
「急に魔力が成長したら、色々と疑われるから。この体質は知られたくないの」
「でも、それじゃ退学に」
「安心して。使う魔法の質は、少しずつ上げていくから。黒色への昇段試験も受ける。そうすれば退学にはならないし、貴女と試合もできるわ」
「少しずつって……あんた、そんな器用なことできるの?」
「オドの絞りを緩めるだけよ。このくらい、誰でも出来るでしょう?」
「…………………。そ、そうね……楽勝よね……」
その晩フランは「限界までオドの消費量を抑えて魔法を使う」「そこから少しずつ魔力を上げていく」の両方を試し、そのあまりの難易度に身悶えするはめになった。
とことんむかつく女だと思う。
†
実際、訓練するクルーエルは魔法の威力を上げていた。パッと見、「訓練によってめきめき成長した」としか見えない速度で。
同じことを試みたフランだからわかる。
あれは一種の神技だ。
か細いオドを薄めて伸ばして、最低限のコストでマナを励起している。そこから少しずつオドの出力を上げて魔法の出力を上げすぎない程度に上げている。
針の穴を通すような魔力のコントロール。
あれができる生徒が、他にいるだろうか。
……いや、だからわたしの負け、とかじゃないけど!
その後、最下位とはいえクルーエルは時間内にすべての仮装精霊を撃退した。
「それまで。各自、休憩に入ってください」
導師の言葉に、生徒たちが各々行動を始める。教室へ戻る者、自主練に勤しむ者、友人たちと談笑するもの。様々だ。
「フランちゃん、どこ行くの?」
ぎくり。
シアの言葉に、できるだけさりげなく振り返る。
「……ちょっと、レティシア会長に呼ばれてるから」
「そっか、いってらっしゃーい」
フランは女王の塔へと向かい──途中で道を逸れた。
人気のない学舎裏の藪の奥、ちょっとした庭園のようになっている場所で、大樹の幹に背中を寄せる。
ほどなくして、人の気配が近づいてきた。
クルーエルだ。
元々色白な彼女だけど、よくよく見れば一層肌が青白い。
「遅かったじゃない」
「……ちょっと、面倒なのに絡まれて」
憂鬱な顔に、ピンと来た。
「もしかして、またアメリア?」
「ええ」
入学直後、クルーエルに絡んでいた三人目の特待生だ。
あれ以来自重していると思っていたが、甘かったらしい。
「大したことじゃないわ。それより、お願い」
「ん」
フランは前を向いたまま、クルーエルに左手を差し出した。
おずおずとした手つきで、手のひらが重なる。
皮膚を通して、フランのオドがクルーエルへと流れ込んでいく。
ややあってから、フランは口を開いた。
「……ねえ、まだ?」
「まだ。言ったでしょう。手のひら越しだと、吸収効率が良くないのよ」
確かに、あの根こそぎ持っていかれるような感覚はない。
そもそもクルーエルが、オドをそこまで消費していないせいでもあるだろうけど。
ただ──
フランは硬く握り合わせた手のひらを見下ろした。
少しでも接触する面積を増やすため、指と指をからめるような握り方になっている。
「この姿、人に見られるの嫌なんですけど。あんたと仲良しみたいで」
「同意見よ。だからわざわざ、こんな人気のない場所で落ち合っているんじゃない」
「そうなんだけど……」
フランはさっと周囲を見回した。
今のところ、人の気配はない。二人を見ているのは、咲き誇る春の花々だけだ。
「こそこそするのも、それはそれでちょっといかがわしいっていうか」
「いかがわしい?」
「だって裏庭で密会とか、なんかちょっと……」
「何が言いたいの」
「やっぱりなんでもない」
「言いかけて止めるの、やめて」
お前が言うな。
渋々、フランは続きを口にした。
「いやだから。なんていうか、逢引きしてるみたいだなって」
「あいび──はぁ⁉︎」
「ちょっと、声大きい!」
人が来たらどうする。
赤い顔をしたクルーエルが声を潜めた。
「あ、逢引きって、何を考えているの。これは必要だからしているだけ。ただの取引よ」
「んなことわかってるわよ! 知らない人が見たら誤解されそうだなってだけ!」
「……それは、困るわね……」
「全くよ」
ふん、とフランは鼻を鳴らした。
ここ最近、魔法実技の授業後はいつもこんな感じだ。
二人で学級を離れて、人目につかない場所でこそこそとオドを譲渡している。
レティシアは説得できたものの、もしクルーエルのオド欠乏症が学院の導師にバレたら、今度こそ退学処分が下るかもしれない。
なので仕方なく(本当に仕方なく!)クルーエルの秘密を守るために、こうして密かにオドを回復させてやっているのだ。
クルーエルがぽつりと言う。
「他人に見られたときの言い訳くらいは、考えておいたほうがよさそうね」
「そーね」
「何か良い案を出しなさい、フランドール」
「なんで偉そうなのよ」
と言っても、この状況をうまく説明できる言い訳なんて存在するんだろうか。
側から見れば本当にただの逢引きだ。噂だとルクレツィア、そういうの多いって聞くし……。
そうでなければ。
「普通に、友達って言うしかないでしょ」
「友達って、日常的に手を繋ぐものなの?」
「繋ぐんじゃないの。多分」
知らないけど。
フランだって、ルクレツィアに来るまでは同世代の知り合いなんてケイしかいなかったのだ。
「この前読んだ小説だと、手とか腕とか繋いでたし。そういうもんでしょ」
「そう」
「で、どう? 文句があるなら対案つきでよろしく」
「ない。それでいいわ」
「……言っておくけど、仕方なくなんだからね。表面上っていうか義理っていうか、そう言う感じのアレだから」
わかってる、とクルーエルが小さく頷いた。
「じゃあ、まあ……これからは一応、人前では友達ってことで」
「……ええ。よろしく、フランドール」
「フランでいいわよ。みんなそう呼ぶから」
「……フラン」
飴玉を口の中で転がすように、クルーエルはもう一度繰り返した。フラン、と。
「あの。ところで、フ……フラン」
「なによ」
「その。お友達というのは、一般的に何をするものなのかしら」
「え」
そんなこと真顔で聞かれても。
クルーエルが白皙の頬を赤らめる。
「し、仕方ないじゃない。私、あなたが初めてなの。お友達って、何をどうすればそれらしく見えるの?」
「いや、普通にお喋りとか、あとは一緒に買い物へ行ったりとか──じゃない?」
「お喋りに、買い物」
「そういえば、わたし新しい杖買わなきゃだった」
今は予備の杖を使っているが、元々劣化して買い替えたものなので性能がよくない。
魔法使いにとって、杖は身体の一部だ。杖選びだけは、ケイにだって任せられない。
フランはクルーエルの目を見上げて言った。
「次の休養日、買いに行くけど。あんたも来る?」
「……そうね。行ってあげてもいいわ」
「だからなんで上からなのよ」
そういうわけで、一緒に杖を買いに行くことになった。
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