第3話 プロローグ アズサ

「サー!!!!いつまで寝てんのー!!?さあ、起きて!!起きて!!」


あーまだ寝てたいのにー。


布団を剥がされ、縮こまる私。


んーー寒っ!!


「やめてよ〜母さん。まだ寝たいよ〜。」


「誰が母さんだってー!!?」


ほっぺたをつねられて痛いー!!…あれ?母さんはこんな起こした方しないはず…。


「いふぁいよー。」

 

目を開けてメルに訴えかけた。


「まったくもー。アズサ!寝ぼけてないで早く起きて!!あんたの家族は王都でしょ!?」


「ん〜。」


目を擦りながら起き上がる。


「おはよう。メル。」


「ったく。おはよう。さっ、早く用意して。もう10時だからね!服は用意しとくから早く行く。」


「え!?なんでもっと早く起こしてくれなかったのー!!!」


私は文句を言いながら洗面所へとむかった。


「起こしには来たわよ!アズサが起きなかっただけでしょ?それに私はもうあんたのメイドじゃないんだから自分の事は自分でして。あんたが私をメイドじゃなくて友達として一緒に来てって言ったんじゃない!!」


「そうだけどー。」


私は着替えてる間に洗濯物をたたみ始めるメル。

なんだかんだしてくれるから助かってる。


私は冒険用の服に着替えてからため息を吐いた。なんでこんな格好しなきゃならないのか?兄貴の趣味まっしぐらな服。

脚には鎧、それにミニスカからの着物。中に首輪付きの服、首輪と繋がっている腕輪から巫女さん的な袖がついてる。可愛いとは思うけどちょっと恥ずかしい。


ただ性能は良く、服は魔法循環の補助効果が施されてる。特に凄いのは、振袖に魔力を流すと対魔法、硬化つきで盾になる。能力的にも見た目的にも良いものだ。まあ、他の服に可愛さが一ミリもなかったから仕方ないなと諦めた。


服を着て、最後に杏の花が描いてある赤を基調として周りの縁が白い髪飾りをつける。


今日も仕事頑張るために気合を入れた。


「良し!!!」


「!!?良しじゃなーい!!そこ座って。全く。これで良い訳ないでしょ!!?」


メルは私を座らせて髪をとかしながら寝癖を直し始めた。私は髪飾りを外してメルに任せる。


「いつもありがとう。」


私が彼女を顔をニコニコ顔で眺めてるとため息しながらも微笑んでる。


「アズサもちょっとはオシャレしなよ?せっかく可愛いのにもったいないよ。王都に残ってたら選び放題だったのに。」


「私には無理ー!!それにみんな私じょなくてお兄ちゃん目当てでなんかムカついたし。」


「それだけじゃななかったとは思うけどね〜。まあ、私は別に良いけど。お陰で故郷にも帰れるし。」


彼女は訳あってメイドをしていた。最初はしがない貴族のメイドだったらしいが認められて王城のメイドに引き抜かれたらしい。私がこの世界に来た時に護衛兼メイドとして専属でついたのが彼女との最初の出会いだった。

私が王都を出る時に猛反対のなか、護衛役を付ける事で了承してくれた流れで私が逆指名して付いてきてもらった。気がしれた人じゃないと私が嫌だったのと、そもそも彼女は出たがっていたから利害一致したからでもある。


今は彼女の故郷に向かいながら旅をして経験値を積むためにギルドで依頼を受注しながら向かっている最中だ。

世界を見たい、冒険がしてみたいとの理由で、出たから目的地が決まってなかった訳で…丁度良かった。 


「ずっと気になってたんだけど、その髪飾りいつもしてるよね?確か何個か髪飾りを贈られても変えなかったよね?なんか思い入れでもあんの?」


「ん?お気に入りなだけだよ。私の名前のアズは杏って花の名前のことなの。その杏が描かれた髪留めなんだよ。これ。私の為にあるみたいな…。」


そう言って、髪飾りを見つめた。彼がそう言ってくれたこの髪飾り。まだ小さかった私に嬉しそうに贈ってくれて…でも子供用じゃなかったから、付けると変で…「ごめん。大きくなったらつけてね。絶対に似合うから。」って。


「なになに?黄昏ちゃって。男?男からもらったの?」


「えっ…あっうん。…そうだよ。」


「そっか。…帰れるかわからないもんね。ごめん。」


「ううん。大丈夫。帰れても会えないから。」


「え?それって…どういう事?」


「彼ね。これをくれた後に亡くなって…もういないんだ。酷くない?私の初恋。貰って舞い上がって…次会う時を楽しみにしてたのに…それっきり。」


「そっか。向こうの世界でもあんだね。」


「この世界でもあるの?」


「ザラだよ、ザラ。特に冒険者はね。だから冒険者の間じゃあ告白や婚約、結婚を約束したら1か月は採取の仕事か仕事自体しないようにするんだよ。」


「そうなんだ。確かにこの世界のみんな命懸けだもんね。」


「そうそう。」


「久々に思い出したな。結城兄のこと。…その人はね。私の兄貴の親友で、よく遊びにきてたんだけど、私ともたまにだったけど遊んでくれてね。誕生日なんかでも毎年一緒に祝ったりして…多分彼からしたら妹ができた感覚だったろうなー。私も最初はお兄ちゃんがもう1人増えた感じだったし。でも、これを貰った14歳の誕生日の日に好きなんだって自覚したんだ。」


「そっか。確かにその頃は特に年上はカッコよく見えるもんね。」


「それもあったけど、結城兄はカッコよかったし!!それに優しくて、でもふざけるのが大好きで、お兄ちゃんに2人でよく悪戯しかけたりドッキリしかけたり…一緒にいて楽しかったんだ。」


「拗らせてるねー。…だからか。」


メルがため息出して私を見た。


「そうかもね…自覚はあんま無いけど。どうにもならないってわかってるし。」


愛想笑いで誤魔化した。


結城兄。私…もう似合うくらい大きくなっちゃったよ。

 

自然と髪飾りに触れた。


「さあっ、これで良し!アーサーも待ってんだろし。行こうか。」

 

「うん。アーサーさんには悪い事しちゃったかな。」


「そう思うなら自分で起きて準備できる様になってよね!」


「うー、はい。善処します。でもスマホも目覚まし時計も無いんだから難しいよー。」


「スマホ?目覚まし時計?…何それ?便利なの?」


「便利だよ!スマホは無理だから良いけど、目覚まし時計は作れないかなー。えっと時計に小さいベルがついてて、指定した時間になるとそのベルを叩いて知らせてくれるんだよ。」


「それは確かに便利かも。…あっ、アーサー!お待たせ〜。」


「お待たせしました。おはようございます。アーサーさん。」


2人で話しながら階段を降りると食堂にいた私のお供の片割れのアーサーさんが座って読書しているのが見えた。


「おはようございます。アーサーと呼び捨てで構いませんよ。私も様をつけないように注意いたしますし。」


「そうですか?…わかりました。アーサー。」


私はなんかぎこちない感じに返した。


2人が話してる間にメルが朝食を頼んでくれて、私達はアーサーと同じ席についた。


「さっき言ってたベルついた時計だっけ?父親に相談してみれば?」


「なんの話ですか?」


メルが先に私が話した事をアーサーにも説明してくれた。その間に朝食がきたから食べながら2人の話を聞いた。


「なるほど。確かにそれは便利そうですね。」


「でしょー。アズサの父親ならできるんじゃない?馬車のスプリングを考えたんだし。」


「あれは元の世界ではみんな知ってる事だから出来たんだよ。時計の仕組みまで知ってんのかなー。まあ、一応手紙に今度書いてみるね。」


「そうして。私も助かるから。」


さらっと嫌味を言われて見を縮こませた私。


「耳が痛いです…本当。」


「2人は本当に仲良いですよね。」


「「まあ、確かに。」」


2人の言葉が見事シンクロして笑っちゃった。

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