第2話プロローグ ガイ②

「わかりました。それでバルクさん、お願いというか村長命令で、俺を補佐にしてください。」


「はぁ?」


「ちょっと待て!俺じゃあ不満だってか?」


バルクさんは唖然として、現補佐のドルさんがいきり立った。


「いいえ。不満がある訳ではありません。ただ俺は村長より命を受けています。それを実行するには補佐でなくては出来ません。」


「何を馬鹿な…。」


バルクさんは詰め寄るドルさんを止めて俺を見つめた。


「はぁー。わかった。ガイは俺と残れ。他は追加召集をされた奴らの安否確認してきてくれ。30分後にここに集合だ。」


「え?」


ドルさん始めみな唖然としてバルクさんを見た。


「いいから動け!!決定事項だ。文句は言うな!!」


渋々皆ちっていった。


「それで…あれだろ?実際の指揮権はお前なんだろ?ガイ。」


「話が早くて助かります。そうなります。俺とザンが中心に動いてバルクさんに補佐してもらいます。もちろんみんなにはバレないようにお願いします。」


「当たり前だ。…にしても世代交代早くねーか?」


「今回が特殊な状況だけらですよ。勇者がいるんですから。見ましたか?」


「ああ。ダイはアイツの仲間にやられた。実際にアイツらと戦って生き残れたのはダイのおかげだ。アイツらは気狂いだ。」


「そうでしょうね。」


「なんだ?知ってる様な口ぶりだな。」


「実際には知りませんが、俺って多分、勇者と同郷の可能性があるんですよね。確かめた訳じゃないし、あくまでも俺として生まれる前に生きていた前世ですけど。」


「…?言ってる意味がわからん。お前はうちの出身だろ?」


「俺にはガイとして生まれる前の記憶があるんですよ。そこで勇者の情報を知ってるんです。だから今回は俺がでしゃばる形になったんです。」


「そんなことがあるんだな。確かにお前は鬼人族には珍しい天才ではあったが。まあ、ちゃんと理解はしてないがわかった。お前には策があるってんだな。親父はそれにのったと。」


「そういう事です。俺、ちょっと情報を集めてきますね。」


「ああ、頼んだ。」


その後、皆合流して無事も確認できて一安心した。その後は俺を含めて3人が基地に残り、残り全員が2チームに別れて前線へと向かった。


事態が動いたのはそれから2日後。俺たちは匂いから前線から濃い濃度の魔力を感じ、皆に退避を叫んだ。すぐにどデカい光線が基地を襲い、直ぐに極級魔法インフェルノまで放たれて前線の場所には大きなクレーターが出来上がった。基地は半壊にまでもってかれ、たくさんの犠牲が出た。前線も酷い状態が推測された。俺はすぐ様、遊撃隊長に相談。10分後には撤退命令が出て近くの基地まで交代を余儀なくされた。


途中、皆と合流して、1人の犠牲が出たと聞いた。すぐ様、後退部隊からザンとバルクさんだけを連れて少しずらした。


「おそらく、このタイミングで勇者達は動くはずです。魔王城まで後、1つ基地を潰せばつける状況。次の基地まで来れば魔導砲の射程に入る訳ですから、魔導砲を狙いに直接向かうはずです。少数先鋭で動くでしょうから勇者の部隊が濃厚です。


これを機に、負傷者優先の若い子入れてザンを筆頭に追う形をとり離脱。魔王軍からも追撃部隊が出るでしょうが全滅は間違い無いでしょう。共に死んだ事に出来るはずです。だから後は身を隠しながら村を目指して下さい。俺とバルクさんと残りは魔王城まで後退するか魔導砲が壊されたタイミングで離脱します。」


「俺が先か?」


ザンが俺を睨んだ。


「ああ。この3人の中ならお前が適任だ。わかってただろう?それにお前は負傷してるからな。」


「チッ!」   


左眼を包帯で巻かれているザンは目を逸らした。


「これが作戦か?」


バルクさんが少し怒り気味に聞いてきた。


「はい。間違いなくこの戦は負け戦です。だから俺たちの村が生き残る為に動くと村長と話し合いました。共に滅んだって仕方ないでしょ?俺たちが戻れば直ぐに村を捨ててヒト族に関わらない様に生きていく。できたら共存したいですが、すぐには無理ですから一時は見を隠すべきです。」


「確かに魔王に付き合う道理はないが…。」


「後退とはいえ、今も逃げてる訳です。変わりない。これは村長の決定です。」


「…ふん。確かに世代交代すべきなんだろうな。…わかった。」

 

「しかし、勇者は本当に動くのか?今から進言して向かい撃ったほうが…。」


「魔王軍の幹部が俺たちなんかの言葉を聞く訳ないし、指揮官達だってわかってるはずだ。それでも勇者が残るのか、遊撃隊として向ってくるかわからない状態では対処できないんだよ。先行部隊に勇者がいなかったら次の基地での戦が劣勢になりかねない。魔導砲も連発できるわけでは無いだろうしね。」


「確かに。動きたくとも下手には出来ないと。」


「そういう事だ。最悪、先行部隊に勇者がいなくても段取りは変わらない。ただ離脱する一陣の人数は減らすしか無いけど。」


「だろうな。」


3人の話し合いを終えて皆で次の基地へと入っていった。次の日には先行部隊が既にこの基地を避けるように魔王城に向かっていると報告が上がった。正直早いと思った。が、作戦通り動く。どうやら勇者自体は確認できてないらしいが部隊は勇者の部隊には間違いないということで予定通りの人数とザンで追撃部隊を出した。


「死ぬなよ。」


ザンは俺に握手を求めてきた。俺が握ると力を入れられた。


「ああ。待ってろ。」


更に握り返した。


「わかった。お前の友である事が誇らしいよ。」


「それは言い過ぎだ。」


フッとザンが笑いお互いに握りしめてお互いを讃えあった。こうしてザンの部隊は離脱目的の追撃に出て行った。


その日は攻めてくる事なく嫌な静けさだけが基地を覆っていた。みななんとなくわかっているんだろう。だが指揮官達は声を張りながら陣形の配置を指示して回っている。魔導砲の射程に入るわけだから今までとは違う流れになる事で劣勢を跳ね返すつもりなんだろう。しかし、この戦に勝ったとしても攻め込める程の戦力が残せるのか…。そもそも勇者の部隊をやれなければここの前線を上げることは無理だろうに。未だに姿を見せない魔王は何を考えているのか…。周りを観察しながら情報をかき集めた。


朝がまだ開ける少し前。事態が動いた。魔導砲がヒト族の駐屯基地に放たれた。少し前に起こされて配置していた俺はその光景に絶句した。不意打ちである先制攻撃の魔導砲が光の壁によって塞がれていた。本来の射程より伸ばした分威力がなくなっているかもしれないが、そう簡単に防御は出来ないはずなのに。

それは駐屯基地に勇者か聖女が残っていたことの証明。

 

魔導砲と共に攻め入ろうとしていた部隊が後退してくるのを見つめながら舌打ちをして先を見た。


「隊長。勇者が残ってる可能性がでてきました。これでも鬼人族なんで俺は前線に行きます。人手が足りなくなる可能性があるんで。」


「…あっああ。頼んだ。」


絶望的な顔をしていた遊撃隊長は首を振って気持ちの切り返しをしてから了承してくれた。


俺は急いで後退して陣形を立て直しにかかっている群集に混ざり、バルクさん達と合流した。


しばらくは長距離魔法の撃ち合いに終始し、魔導砲の本来の射程には入らない位置以降攻め入ってこない。 

先頭に勇者の姿が見えた。恐らく格好からして聖女も後続部隊に見えた。聞いていた他の仲間たちらしき姿が見えない事から遊撃隊に何人かついてったのは間違いなさそーだ。


俺は鬼人化して周辺の魔素を取り込んでいく。すぐに風魔法で吹き上げ、重ねて水魔法で渦巻き状に…最後、雷魔法を浴びさせて、風魔法でヒト族目掛けて放つ。俺が出来る魔法で重ね技により威力を底上げした最大級の広範囲攻撃をぶっ放した。周りから驚嘆の声が鳴り響き、魔王軍の士気がグンと上がる。衝突間際、また光の壁が邪魔をする。仕方なく風魔法で雷を分散させた。光の壁を避けるように雷が雨を伝ってヒト族の群衆に襲いかかる。ランダムに兵士達が倒れていく。


勇者が叫びながら後退させていく。更に士気が上がるが前にはいかない。いや、行けない。勇者がいる以上下手には攻められないんだろう。俺も逃げる事を考えると連発は出来ない。


「ガイ…お前マジでスゲーんだな。」


「最近やっと身になったばかりですけどね。役には立たないと。」


バルクさんと2、3会話をした後はただ相手の動きをまった。

どれ位の時間が過ぎたかわからないが、急に勇者筆頭にヒト族の兵士達が雪崩れ込むように攻め込んでくる。すぐ様魔導砲が撃たれた音が鳴り響く。射程内距離の魔導砲を勇者がまた光の壁で防ぐ。俺は直ぐにさっき放った魔法を展開させ始めた。直後、勇者の光の壁が光り輝き魔導砲を押し上げる。


少しして共に粉砕され消えた。が既に俺が放った風魔法の渦と雨が周辺を覆っている。魔王軍はもちろんまだ動いていない。


「雷魔法ができる奴は一気にたたみかけろー!!!」


大きな号令と共に俺含め、遊撃隊の雷魔法が相手に放たれた。


が…その瞬間、目の前に眩い光りが爆発音と共に雨も風も雷魔法ごと跳ね除け全てを吹き飛ばしながらこっちに向かってきた。


ズゴゴゴガゴゴゴコゴガゴゴゴ


「退避ーー!!!」


今までに感じたことのない濃い濃度の魔力に寒気と恐怖が俺を包み込み、取り込んでおいた魔素を全開に使い防御結界を周辺に出現させた。


巨大な爆発音と衝撃が体を襲い意識ごと持ってかれた。


「ガイ!!ガイ!!!しっかりしろ!!!」


バルクさんの声が遠くから聞こえてきた気がする。

ゆっくり目を開けると雲ひとつない青空が目に入る。


「大丈夫か!!?お前さんのおかげで助かった。皆無事だ。」


胃の中から何か吐き出しそうになり体を起こして抵抗せずに吐き出す。


「ブフゥーー。ゴホッ…ゴホッ…。」  


大量の血が口から出て身体中が痛い。


「大丈夫か!!?…おい回復魔法使える奴はいるか!!?」


俺は苦しいのを我慢しながら目を無理やり目を開けた。

 

バルクさんが周辺でただ呆然と立ち尽くしている兵士たちに話しかけているのが見える。その先には何も無かった。ヒト族の兵士達が押しよってきているが遠いい。位置関係から間に防壁があったはず…なのに。巨大な平地が出来上がっていた。


魔王軍は魔王城へと退散を始めている。魔導砲は放たれる様子がない。バルクさんに肩を借りながら城に向かうように見せかけながら戦場から離脱していく。魔王城からは煙が上がってるのが見えた。俺達はひたすら逃げ始めた。


逃げる最中、運命の悪戯なのか本当にタチが悪いと思い知らされた。


横から勇者の部隊の魔法師、弓師達が俺達に気付いて攻撃を仕掛けて来た。咄嗟に防御に徹しながら逃げ続ける。奴らも追いかけるまではしないと踏んだ。


だから、そこに残ってた勇者達が迎えに来るなんて思いもしなかった。逆方向からも攻撃が来た時にはマジで焦った。


「バルクさん!他のみんなも!後ろを振り向かず真っ直ぐ走って下さい!!いいですか?後ろを振り返らずに真っ直ぐですよ!!!」


「何をっ!!!」


俺の言葉にバルクさんが直ぐに後ろを振り向いた。俺は頭を下げた後に、地面にできる限りの魔力を流した。土が盛り上がりバルクさん達の方に向かって大きな波のようにうねり上へと上がり巨大な壁が出現した。作る間に炎魔法や矢が俺の背中に当たるのを我慢しながら注ぎ続ける。


やり遂げて双方に向き直して竜巻を発生させる。水を含ませて中で雷が自然発生させる。二つの竜巻が勇者側と魔法師側を襲う。巨大な光が俺を薙ぎ払い吹っ飛ばされて自分が作った壁に激突させられた。


「勝負はついた。降参しろ。」


勇者だろうか?叫んでいる。降参しろと?


だが彼の声を無視して魔法を帯びた矢や魔法が飛んでくる。

 

「なっ!!みんな!!?何をするんだ!!?彼はもう…」


戸惑い止めようとする勇者の声が飛んできたおびただしい数の魔法の音に消された。


今までにないくらいにツノを巨大させて魔力を集めて魔法壁を展開させる。


時間さえ稼げればいい。バルクさん達が逃げる時間さえ出来れば。 


身体中の傷から血が噴き出した。全てを通さずに逆に反転させる。


だが光の壁で全てかき消された。


奴らがジリジリと距離を縮めてくる。俺は後ろの壁に更に魔力を流す。できた壁は更に横に大きくお扇状に広がる。角の光る輝きが増していく。最後に奴らとの間に雨雲を発生させる。


もう意識を保つだけで精一杯だ。今、息をかろうじでできているが息するのも苦しい。雨は降らせたが雷はもう出せない。…膝をついた瞬間に俺は光に包み込まれたことに驚愕しながら目を瞑った。













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