第4話 女神再び
目を開けると同時に膝から崩れ落ちた。魔力の異常摂取しての魔力行使。さらに恐らく折れた肋骨に、他にも複数折れてると予測される痛みが手や足にある。血を吐いたことから内臓も損傷してるだろう。
ボヤけた視界でなんとか周りを見渡す。さっきまでとは明らかに違う場所。
匂いが違う。さっきまでは生き物や木が燃えて焦げた匂い、血の匂いが充満してたのが無くなり、戦場特有の空気感も今は全くない。
野原が広がり、風が自然の心地よい匂いを感じさせてくれている。戦場とは真逆ののどかな場所に…死んだのかと疑問が頭をよぎる。だが、身体中の痛みから違う事は明らかだった。
どこからともなく目の前に人が現れて警戒する。視界がぼやけてあまりよく見えないが恐らく女性。ただ体がもう言うことをきかない。
急に近づいてきてた彼女に、困惑しながら声を出そうとしたが出なかった。
「治療しますね。」
彼女は徐ろに俺の肩に手を置いた。痛みが無くなっていく。
「凄いな。」
完全に痛みがなくなり、違和感もない。声も何もなかったみたいに普通にでた。
「でも無茶はしないでください。体力も魔力も最低限しか回復できませんでしたから。だいぶ魔官や魔臓器がやられてましたからね。そもそも寿命を復活させるわけですから、女神の私でもかなり力を消費しましたのでこれが限界です。」
確かに立ち上がろうとしたが、体が怠く上手く立ち上がれなかった。それに魔力も微量にしか出せない。
「この度は本当にごめんなさい!!重ね重ねご迷惑をかけてしまって。死ぬ前に回収できてよかったです。では、本当に申し訳ないんだけど、別の世界に転移させますから…「ちょっ!!ちょっと待ってくれ!!どういう状況だ!?ってかあんたは誰だ?」
急に頭を下げて謝る彼女の言葉を遮った。
「私はこの世界の担当の女神アラスファーです☆地球担当の子もやらかしちゃったのに…私まで…ごめんなさい。んー、説明するとですね。あなたの本来の人生は本当なら鬼人族の村が滅ぼされて、復讐を果たすために勇者の仲間になって魔王討伐…その後、生き残りの鬼人族を集めて再建するはずだったんですよ。因みに奥さんは勇者の妹です!!それが予定されていた勇者召喚が2年も遅れてしまったせいで戦況の変化により、本来なら魔王に滅ぼされる予定だった鬼人族が滅ぼされ無かったんです。終いにはあなたが死ぬ運命に変わってしまって…本当にごめんなさい。」
「はぁ!?いや…本来なら鬼人族のみんなが死んでるはずだったんならいいよ。それに覚悟して自分で選んでやった事だ。運命なんかしるかよ。それよりもみんなは無事なのか!?」
女神だという彼女に不信感はあったものの、俺は命をかけたんだ。みんなが無事か知りたくて彼女に迫った。
「あなたって人はもう…。」
ハンカチを出して流れてもない涙を拭く仕草をしながら、感動したことをアピールする彼女に少しイラっと来た。
「大丈夫です。今頃村から逃げて人里をはなれてるでしょう。皆さん、あなたの分まで生きるってガムシャラに助け合いながら頑張ってますよ。あなたの選択により滅ばずに隠れ里をつくるでしょう。」
「…そっか。なら良かった。それで…俺はどうなるんだ?」
「はい。別の世界に転移させます。貴方はまだ生きてますが、この世界ではもう生きては行けない魂になってます。この世界に戻った瞬間に身体から魂が抜けて死にます。だからあなたを別の世界に行かせる事で魂を安定化させて身体に再度、定着させる必要があるんです。…あっ!!時間みたいです。向こうの女神ユスフェルトが準備してくれてるはずですからご心配なく!!では今度こそお幸せにー!!」
「待て!!まだ…。え!?」
急に後ろから物すごい力で引っ張られて、さっきまでいた空間から一気に離されて光が俺を包み込む。
『アズサ視点』
今日は久しぶりに1人でクエスト。基本は3人だが、1人で採取のクエストを偶に受けている。今日は最近見つけた穴場に行けば直ぐに終わる。簡単なクエストだと思っていた。
穏やかな森の雰囲気に採取に取り掛かる。ここはきっとまだ他の人は見つけてないのかもしれない。数日前に来た時と変わっていない。ここがすごいのは薬草以外にも毒消し草や落味草もある。岩壁を登れば他の種類もありそう。岩壁岩同士が重なり合ったようになってるから登りやすそうだ。ここを見つけられて浮かれていたら頭上から小石が落ちて来てきて、咄嗟に後ろに飛び頭上に目線を向けた。
ちょっと夢中になり過ぎたのがいけなかったのか、近づいてきたゴブリンが頭上から見下ろしている。すぐ様槍を構えながら周りを見渡すと既に3匹が私を囲うように戦闘態勢をとってる。
私1人でも対処可能。そう判断して斬りかかる。だが奴らは防御に徹していて攻撃を仕掛けてこない。疑問が頭をかすめた時には遅かった。
何処からともなく矢が私の腕に刺さり、咄嗟に奴らから距離をとったが岩壁。すぐに膝を突き身体に痺れが広まるのを感じる。魔力もうまく流せない…。身体強化も出来ず、奴らによって押し倒される中、最後の力を振り絞り叫んだ。
『ガイ視点』
次に目を開けた時には森にただ立ち尽くしていた。
「キャーーー!!!!」
なんで森?と思ったのも束の間、女性の叫び声に、声がした方向に体を向けて匂いを頼りに一歩目を出すが…やたらしんどく感じた。直ぐに鬼化。走り出す。身体中がいてー。匂いからして人と魔物が数匹。
近づいて、一瞬足を止めた。目の前の光景に唖然とした。女の子が複数のゴブリンに捕まり服は破け胸は露わに、下はこれから…所謂、ファンタジー系のエロ漫画やエロゲーでよくあるゴブリンに捕まって✖️✖️✖️な光景直前状態。首を横に振り、刀を抜いて、全てのゴブリンを切り捨てる。彼女は唖然としたまま、動かない。
「大丈夫か?」
「へ?………。」
彼女の顔がまた恐怖に染まる。
何故だ?怖がらせてる?
困惑した俺は自分を見た。今は俺の格好は鬼人族の戦闘装束の着物に似た上着を羽織っているのと首飾りがあるだけ。下は同じく戦闘装束の袴に腰に太い縄が巻かれている。もちろん鬼化中だから角が一本出て、眼は赤色に染まり口を開ければ犬歯が伸びて牙状態。耳は尖り、爪も伸びている。
俺は急いで鬼化を解除した。彼女の目には警戒は解けてなかったが恐怖が少し和らいだように見える。それでも彼女は少し震えて喋ってるが言葉になっていない。一先ず彼女の今の姿のままはでは俺が落ち着かないから、上着を着させようと脱ぎながら近づく。
彼女はもがいているが動けないようだ。さっきの喋り方からしても麻痺薬でも盛られたかと推測した。
「大丈夫。なんもしないから。上着、上着はを着させるだけだから。ちょっとごめんね。」
彼女にに近づき起こしながら着物を着させる。めちゃくちゃ恥ずかしい。やわらかそうな肌に肌けた立派な胸に意識するなっていうのが難しい。彼女は目を瞑り耐えるように唇に力を入れてる。
罪悪感を感じながらもなんとか着させるために身体を起こしたが……彼女の香りや感触に緊張するし、煩悩が……なんとか自分に打ち勝ちふを着させ終えてから距離をとった。
「終わったよ。ほら…何もしてないだろ?」
俺の声にゆっくり目を開けて自分が着せられた服を見た後に、驚いた顔で俺を見た。しばらく見ていたが急に力が抜けたように意識を無くしてしまった。
「ちょっ…ちょっとまて!何処に行けばいいんだよ!?……はぁー、ダメだこりゃあ。」
完全に意思を離した彼女を見て諦めた。匂いからまた魔物が周りに来てるから、すぐにでも逃げる方向だけでも聞きたかったのに…。
すぐに彼女を抱き抱えてその場から離れる。恐らくゴブリンの血に釣られてきたんだろう。どこに向かえばいいかもわからないから仕方なく魔物が来る反対方向に逃げる。しかし体力もそんなに残ってないのか身体中が痛い。途中、途中歩きながら周りを警戒して進む。
しばらく歩いて囲まれてる事に気づいた。
「ちっ!」
急いで走り抜けていく。崖にたどり着き足を止めた。下を見ると地面が見える。
落胆しながらも彼女を置いて、刀を抜き、彼女の槍を借りて構えた。
しばらくして、二足歩行の黒い狼達が姿を表した。なんか改めて違う世界に来たんだと思いしらされる。手足が以上に長い狼や筋肉量が多い狼等々、後は四足歩行の狼がチラホラ。黒い狼に違いないが大きく区分しても4種類の魔物がいる。
何処からともなく遠吠えが聞こえて奴らが襲いかかり始めた。
どれだけ時間がたったのかわからない。体力が元々少なかったから鬼化せずに身体強化のみを使いまわしながらどんどん切り捨てていく。後ろには行かせない。
…何匹殺したかなんてわかない…多過ぎだ。一匹一匹は弱いがこの数は反則だ。疲れと魔力枯渇状態に意識が無くなりかけるのを必死に堪えながら、掠れて見えづらい視覚と嗅覚頼りに襲いかかる狼どもを次々と切り捨てていたがもう切れ味が悪くなってる。
彼女は庇いきれないと判断して背中に腰に巻いていた縄を使いおんぶ状態で括り付けた。直ぐに鬼化。周りの魔素を取り込んでいく。余計に体力を奪われるがあらゆる方向からくる狼に対処しきれなくなった今は仕方ない。
俺は残った魔力で刀を地面につけて刀に地面から金属成分だけを付着させていく。その間は彼女の武器で応戦。
やっとできた金棒!!俺は一旦奴らに距離を取らせてから離れて彼女を下ろした。手には金棒、に薙刀。二つを振り回しながら残りの奴らは一撃で命を奪っていった。
…多分、始めて人じゃなくて良かったと思う。
『アズサ視点』
服を着させてくれた彼の姿を最後に意識を無くした私が、次に目を覚ましたのは病室のベッドの上だった。
体を起こして身体を眺める。ゴブリンにやられた引っ掻き傷や矢を刺された所に包帯がされていたが…他には一切怪我は見えない。
……助かった。彼が助けてくれた。しゃべってたし、知性は人間堂々。ただ人とは違う種族の彼。
「あーー!!アズサー!!心配したよー!!昨日は大変だったね?」
急にドアが開きメルが入ってくるなり飛びかかられた。
「ごめんね。まさかゴブリンにしてやられるとは…。甘かったです。」
私は肩を落として項垂れた。やられて、産處になるとこだった。
「ゴブリン?何言ってるの?襲われたのはヴァルファントの群れでしょ?よく生きてられたよねー。」
「ヴァルファント!?え!?私見てないけど…。」
ヴァルファントは黒い狼で同じ種族でも役割によって形がちがい王を中心として群れをなす魔物だ。1匹事態はそこまで強くないが、統率力や武器や魔法を使うから厄介。単独だとE級だけどグループの大きさで討伐ランクが変わり、下はB級から上はSS級に指定され、過去最高のグループだと一国を潰したこともある。
「どう言うこと?彼は?…私を助けてくれた彼は一緒?」
「彼?私は救援隊に参加できなかったからわからないけど、ここに運ばれたのはアズサだけだよ。後は何も聞いてないし。」
「失礼します。気づいたんですね。良かった。」
アーサーが部屋へ入ってくると、メルがゴブリンの事と、助けてくれた彼の事を説明してくれた。
「いや、私もいましたが見てませんね。ヴァルファンドがチラホラいたのと、確か…見たことのない魔物がいました。私たちで追い詰めたのですが、崖下に逃げられてしまい追えませんでした。」
アーサーの一言で彼のことか確かめたかったが…もし彼だった場合、アーサーからしたら魔物扱い、意思疎通が出来ると行ったとしても魔族扱いで囚われるのは間違いない。
「…そう。お願い!!私を回収した場所に連れてって。」
「何を言ってるんですか?今日はまだ安静にした方がいいですよ。」
私は傍に置いてあった武器を持ち立ち上がろうとしたがアーサーにとめられた。
「彼が…。」
「私が行った時、周りには死骸が沢山転がっていました。人のがあったとしてもわからない状況です。」
アーサーは私から目線をずらして俯いた。
「それでも…。」
彼が逃げた可能性はある。私は一目散にベッドから這い上がり病室を出た。2人の引き止める声も聞かずに。
すぐ様、商店に行き、上級ポーション、中級ポーションに血止め剤、麻痺止め、毒消し、エクリサーを買って荷物に詰め込む。
「アズサ!まだ完全に回復したわけじゃないんだから!はい、これ飲んで。ポーション。」
店前にメルが装備をして待っていて初級ポーションを差し出される。
「…ありがとう。」
「アーサーは用事を済ませてから来るって。門で合流してから一緒に向かうよ。」
「うん。…ありがとう。」
ポーションを飲みながら門へと向かった。
「え!?私ここにいたの?全然違うとこにいたんだけど…。それに何この光景。」
アーサーの案内で私が回収された場所に来た。私とメルは目の前の光景に唖然とした。全然違う所なのも驚いたが、昨日討伐されたヴァルファントの死骸を焼いたんだとはわかるけど、たくさんの消し炭の山。いったい何体いたのか…。
私はゴブリンだけじゃなくて、その後も彼に助けられていた。なんでそこまで…。
「これはマジですごいね。初めて見たよ。」
「私もここに来た時には腰を抜かしそうになりましたよ。あの魔物の戦闘力は相当なものかと。だからこそ悔やまれます。ただアズサ様を取られまいと私たちが来た時にはほとんどのヴァルファントを殺してくれていたお陰で助けることができた訳ですから結果的には助けられたようなものですが。」
「…そうね。」
アーサーに笑顔で言われたが直視できずに顔を背けた。
「それで魔物は何処に逃げたの?」
「そっちです。」
「「え?」」
アーサーが崖の下を指した。2人して崖の下を指したアーサーに唖然とした。
「嘘でしょ?」
先にメルが声を出した。
「いや、私も見ましたから間違い無いかと。」
なら…やっぱり私を庇って彼は逃げなかったって事だよね。確かに話しかけられた時に感じたのは恐怖もあったけど、心配してくれているとは感じた。
「なら下に行こう。」
「「え?」」
転生…後に転移って俺で遊ぶなよ!!! クロロロ @kysas10
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