第24話 兄弟⑤

 ──翌日。

 リードとライルは酒場の奥の物置部屋を借りて夜を明かした。シルヴェリオとはまた酒場で会う約束をして、リードはシルヴェリオが来るまで地下街の散策に出かけた。

 買い物の目的は、武器だ。

 ライルはアルマブラウ家の剣を携えている。迷宮探索に挑む以上、自分もそれなりの武器を用意するべきだろうとリードは考えていた。

 剣、槍、槌、弓、アルマブラウ家で、一通りの手習いは受けた。ライルの腕前には遠く及ばないものの、それなりに扱える技量には達している、と自負している。

 視界に入った露天が、いくつもの武器を並べていた。リードは店の前まで歩を進め、それらを眺める。

 とても上等とは言えないが、先ほど挙げた武器は全て揃っていた。

「手に取ってもいいか?」

 店主に尋ねると、不愛想に頷いた。

 剣を一つ握ると、リードはアルマブラウ家で行った鍛錬の日々を思い出した。いつだってリードは、ライルに一歩及ばなかった。そう考えると、得物として剣を選ぶ気にはなれなかった。

 ライルより弱い俺が、ライルと同じ武器を持って役に立てるだろうか。

 剣を置いて、リードは次に槍を持つ。アルマブラウ家で握っていたものより、重く、扱うには慣れが必要に感じた。

「槍はやめとけ、迷宮探索には向かん」

 後ろからの声に振り返ると、シルヴェリオが立っていた。昨日よりも大仰な荷物を背負い、腰には剣を二本差している。

「なぜ、槍はダメなんだ?」

「長いからだ。迷宮は階層によって大きく姿を変える。草原のような場所もあれば、狭い通路のような場所もある。前者ならもちろんいいが、後者のような閉所では槍を振り回すことなどできんからな」

「……なるほどな」

 納得して、リードは槍を置いた。シルヴェリオの発言が営業妨害だと捉えられたのか、店主の睨みつけるような視線が注がれていた。

 どうしたものかとリードが悩んでいると、シルヴェリオが武器を一つ拾い上げた。

 『メイス』と呼ばれる、木製の柄に金属製の頭部を取り付けた、打撃力に長けた武器である。斬ったり突いたりはできないものの、金属の頭部を打ち付けることで鎧を着ていようがお構いなしに叩き潰すことができる。

「迷宮の中には、斬り付けると毒性の体液をまき散らすような奴も居る。こんな武器を使えば絶対安全ってわけにはいかないが、幾分かはマシだろう」

 シルヴェリオからメイスを受け取り、リードは一歩引いて軽く振ってみる。

「ふむ」

 思ったよりもしっくりくる。平地での戦いであれば、間合いの管理に一苦労しそうな武器ではあるが、武器を振り回しづらいという言を信じるのであれば問題はないだろう。

「店先で騒がしくして悪かった。これをもらうよ」

 代金を渡すと、店主が無言でベルトを渡してきた。どうやら、メイスを留めるためのものらしい。

 礼を言って、リードはベルトを腰に巻き、買ったばかりのメイスを留める。激しく動き回りさえしなければ、邪魔になることはないだろう。

 そのまま、シルヴェリオと共に酒場へと向かう。酒場の前には、待ちきれないといった様子でライルが立っていた。

「なんだ、シルヴェリオさんも一緒だったのか。それで、リードの買い物は……その腰のヤツか?」

 先ほど買ったばかりのメイスへ視線を下げて、ライルは顎に手を当てる。

「てっきり、剣にするのかと思ってたんだけどな」

「シルヴェリオさんからのアドバイスでな」

「ま、いいんじゃないか。リードは何を握らせても十全に扱えるからな」

 どの口が、という言葉を飲み込んで、リードは乾いた笑いを零した。

「よし」

 ぱん、と手を叩いて、シルヴェリオは背負っていた荷物を足元に下した。

「食料、三人分、約三日分。各々の得物、短刀。応急手当用の薬等々……まぁ他にも細かいものがいくつかあるが」

 荷物を指差し確認してから、シルヴェリオは食料の入った包みをライルとリードに手渡す。

「自分の食料の管理は自分でするんだ。もし落っことしても自己責任だぞ? 施したりはしないからな」

 シルヴェリオの言葉に、ライルとリードは深く頷く。

「それじゃ、出発だ。いざ行かん迷宮へ!」

 ついに迷宮へ潜る。

 その事実に、リードの心はざわめいていた。不安と高揚、様々な感情を綯い交ぜにしながら。

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