第20話 兄弟①

 迷宮の存在するメイズ島よりも北に位置する大陸。その大陸の中で、北から西にかけてそびえるガロン山脈。

 その山脈を背にする街、ノースリド。

 リードはその半生をその街で過ごした。

 ガロン山脈の三分の一を私有地として有するアルマブラウ家は、その山の中から鉱脈を発見した。良質な鉄や、銀、色とりどりの鉱石。

 アルマブラウ家は一代にして莫大な利益を出し、鉱商(こうしょう)アルマブラウの名は、他の大陸にまで響き渡るようになった。だが、この功績は、ただ良質な鉱脈を運良く見つけただけではない。何処に、如何にして売るべきか、その判断を間違うことなく行ってきたアルマブラウ家当主、セイル・アルマブラウの手腕あっての成果であった。

 ノースリドに三階建ての大きな屋敷を建て、子供たちも成長し、まだまだこれからだ、という時に、彼を不運が襲った。

 未だ治療法の見つからない病。身体が衰弱し、緩やかに死へ向かっていく奇病に、子供たちや使用人は頭を抱えた。

 セイルの起きている時間は日に日に短くなり、口頭で指示を受けながら商売を行うのも限界が近付いていた。

 そんなある日、ノースリドを訪れた行商人が、こんな話をして見せた。

「ここより南の孤島に迷宮が出現した。迷宮には、どんな病をも治す霊薬がある」

 その言葉を聞いて、アルマブラウ家の長男と次男はすぐに支度を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る