第19話 幕間②
リードはカルマとともに無事迷宮を脱した。
その途中「歩きにくい」と呟いたカルマは、元の妖艶な美女の姿に戻った。
「それ、自由に姿を変えられるのか」
「自由というわけではないよ。先ほどまでの幼女の姿が、この楔に記憶されている。その姿と、この元の姿、この二つを行き来できるだけさ」
渡した外套はリードの手に返され、カルマは落ちていたドレスを再び纏った。
「人形に対する魔令術の効果を見て分かってもらえたと思うが、やはりあの歳、あの身体の方が魔素との親和性が高いらしい。言わば、私の戦闘形態というわけだな。御伽噺に出てくるヒーローみたいで格好いいだろう?」
「……ああ、そうだな」
適当な相槌を返して、リードは迷宮と地下街を繋ぐ階段の、最後の一段を上がる。
地下街の入江には、既に迷宮調査機関の船が停泊していた。正装を纏いカルマに敬礼する男に片手を挙げて答えると、カルマは船と入江を繋ぐタラップに足を掛けた。
「リードくん、きみとの冒険は実に有意義だった。こうして無事に楔を手に入れられたのも全てきみのおかげだ、感謝する」
胸元から何かを取り出し、それをリードに手渡す。
「これは?」
「私がマーキングした魔素を込めた、特性の鈴さ。私に届くよう魔素に命令しながら鳴らせば、私は鳴ったことと、鳴った位置を確認できる。何かあれば鳴らしてくれ。次は、私がきみを助ける番だ」
「分かった、ありがたくいただこう」
「では、またな。リードくん」
そのまま、カルマは振り返ることなく船へ乗り込んでいった。そして、静かに船を出港させた。
海へ出る船を見送り、リードは鈴をポーチにしまうと、その場に腰を下ろした。
深く息を吐きだし、背中をさする。
泥人形相手の大立ち回りは、少々役者不足だったな。そう零して、リードは背中と腰の痛みを受け入れる。
「よう『森色』、こんなところにいたか」
頭上からの声に頭を動かすと、見知った顔がそこにあった。黒く薄汚れた髪と口髭に、同じく汚れたエプロンと皮手袋。彼は地下街で鍛冶を営む男だった。
迷宮探索に武器は欠かせない。迷宮に潜む魔物相手に、武器が痛むこともあるだろう。そういった背景から、この地下街は鍛冶を営むには絶好の場所なのだろう。事実、リードも何度か利用させてもらったことがあった。
「鍛冶屋か、どうした?」
座り直し、リードは鍛冶屋に尋ねる。
「預かっていた品の研磨が終わった。確認してくれ」
エプロンから小さな箱を取り出し、その中身を見せる。
それは、手のひらよりも少し長いほどの刃だった。槍の穂先のように見える、両刃の金属。
「そうか……」
箱を受け取とって、リードは目を伏せた。
そして静かに、この刃を手に入れたかつてに、思いを馳せる。
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