第18話 探究者⑥
打開策も見出せず、永遠に思えた攻防の中──、
「くっ!」
先に崩れたのはリードであった。
振り払う泥人形の腕を捌き切れず、衝撃を殺すこともできずリードは壁に叩き付けられる。
魔素がある限り動き続け、斬撃も打撃も効かない泥人形が相手では当然と言えば当然である。
腕と背中に痺れを感じながら、リードは即座に立ち上がる。脳内で警鐘が鳴り響く。
──不味い。
今までなんとか攻防の均衡を保っていられたのは、万全の状態だったからだ。痺れた腕では、泥人形の次の攻撃を受けることも叶わないだろう。冷静に思考するリードの頬を、冷や汗が流れる。
泥人形がゆっくりと距離を詰める。一歩踏みしめるたびに、泥人形の足が波打つ。
「──待たせたね」
リードと泥人形の間に、小さな影が降り立つ。
足元まで伸びた銀髪を揺らし、短い手足と小さな体には一糸も纏っていない。
「……カルマ、か?」
妖艶な美女、というリードの抱いたカルマの印象とはまったく異なる、生意気そうな目つきの幼女が目の前に居た。
鼻を鳴らして、カルマらしき幼女は自分の胸元に突き刺さる金色の針を自慢げに指差した。
「これが私の探し求めた『刻渡りの楔(ときわたりのくさび)』だよ。模索した結果、この十歳にも満たない身体が、私にとって魔素が最も相性の良い状態らしい」
困惑を押し退けて、リードはカルマの横に並び立つ。自身の腰にも届かないこの幼女が泥人形の攻撃を食らえばひとたまりもない。守らなければ、という意志でリードは両手に持つ武器を握り締める。
「そんな身体じゃあ、戦うことなどできないだろう」
「おいおい、リードくん。聞こえなかったのかな? 言ったはずだよ、この身体が、最も上手く魔素を扱えるのだと」
泥人形が、さらに一歩距離を詰める。右腕を大きく振り上げ、こちらに叩き付けようと準備をしている。
「さて──」
カルマは泥人形を見据えると、深呼吸を一つ挟んで魔令術を行使する。
「爆ぜろ」
呟いた瞬間、泥人形の身体が爆散する。
泥の雨が降りしきる中、カルマは振り返って満足気な笑みをリードに見せた。
「さ、リードくん。人形の核となっていたものを探したまえ。魔石か、札かは分からんが核を放置しているとまた復活してしまうからね」
カルマの指示のもと、リードは泥の中から核を探す。
それはすぐに見つかった。手のひら程度の大きさの魔石が、泥の中で光を放っていた。
長剣の柄尻で叩くと、魔石は粉々に砕け散る。泥の身体を形成し直そうとわずかに蠢いていた泥たちが沈黙する。
「助かったよ。正直なところ、この人形を相手にしながら扉を開錠するのは骨が折れただろう。こうして無事に『刻渡りの楔』を手に入れられたのも、全ては君のおかげだ。感謝する」
「とりあえず……これでも羽織ってくれないか」
全裸で饒舌に語る幼女に、リードは自分の外套を手渡した。
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