第8話 追跡者⑧
──第二階層。
植物と昆虫が支配する第一階層とは異なり、第二階層は迷宮と聞いて万人が思い浮かべるような景観をしている。
一面石造りで、低い天井に狭い通路。道は細かく直角に折れ曲がるものばかりで、曲がり角を迎える度、曲がった先に何があるのかを警戒しなければならない。
リードとアルヴィスが並んで歩くのがやっとという狭さであるため、必然的に一列になって歩く必要がある。
「これはまた……ずいぶんと趣(おもむき)が変わったな」
ひんやりとした石の壁に手を添え、アルヴィスがそんな感想を漏らした。
「リード、この第二階層で気を付けることはあるか? 第一階層のように、不注意で身を危険に晒すような真似はしたくない」
「……第一階層に比べたら、第二階層は分かりやすい。道の先から魔物が襲い掛かってこないように祈りつつ進むだけだ」
「魔物が現れたら?」
「撃退するだけだ」
「分かりやすくて良いな」
分かれ道もなく、ひたすらに一本道をしばらく歩いたところで、リードは足を止めた。ハンドサインで後ろのアルヴィスにも足を止めるよう指示する。
曲がり角の手前で、リードは耳を澄ます。
道の先から、石造りの床を固いものが引っ搔くような音が聞こえる。
「来るぞ」
小声で後ろに伝え、リードは外套の下に手を入れる。そして、腰のベルトに取り付けていた得物を取り出す。
一端が共に金具で覆われた二本の木製の棍。その金具は棍を折りたたむ役目を担っており、リードが勢いよく振り下ろすと、金属の軋む音を立てて一本の長い棍となる。
臨戦態勢を整えると同時に、曲がり角から魔物が姿を見せる。
銀色の毛並みを持つ狼が二匹。鋭利な牙と爪は魔石を思わせる青白い輝きを放ち、地上に生息する狼とは異なり、細長い尾を鞭のようにしならせている。
「爪と牙はもちろん、尻尾にも気をつけろ!」
簡潔に伝え、リードは飛びかかってきた先頭の狼に向けて棍を振り下ろす。
その隙に、二匹目の狼がリードの脇をすり抜ける。
「了解した!」
腰の剣を抜き、アルヴィスは狼と対峙する。
「キリ、下がっていろ」
アルヴィスは決して自分からは斬りかからず、狼の動きを観察する。冷静かつ、相手の動きに対応できるという自負から来る構えであった。
そして、痺れを切らした狼が床を蹴る。隙の無いアルヴィスに対して正面からは襲い掛からず、狼はまずアルヴィスから見て左側の壁へと跳んだ。そして壁を蹴り、アルヴィスの左側面へと爪を立てる。
が、アルヴィスの方が何枚も上手であった。跳んだ狼の軌道を把握し、そこに剣を置いておく。最低限の動作で、狼の右前足を切り落とす。
空中でバランスを崩し、かつ前足を失って着地もできず床を転がった狼に対して、とどめの一撃を振り下ろさんと一歩踏み込む。
「くっ!」
その瞬間、地面に横たわる狼の尾が鋭く伸び、アルヴィスの持つ剣に絡みつく。剣を奪い取ろうとする動きに対し、アルヴィスは剣を両手で掴んで抵抗する。
「はいご苦労さん」
アルヴィスと自らの尾で綱引きをする狼の頭部を木製の棍が叩き潰す。リードがその棍を持ち上げるとほぼ同時に、狼の身体が塵となって消えていく。
「すまない、助かった」
「いいさ。背中を預ける仲間だからな。騎士団の人間なら、魔物との戦いの経験もないだろうし」
金具を操作し、リードは棍を二つ折りに畳み、外套の下へと仕舞う。それを見てこれ以上の戦闘はないと見たアルヴィスも、剣を鞘に納めた。
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