馬鹿な貴方
「また、屋上ですか。」
このひとつの言葉に、どんな意が込められているかが推測できない。
皮肉を言われているのか。
はたまた、あの時のことが印象的だったか。
「二人でこういう話をするの、人前だと小っ恥ずかしくて。」
逆も同じようで、首を傾げられた。
「君のことが好きだって、皆に露呈するじゃない?」
あまり、表情は変わらない。
好きの二文字を発音するのって熱くなるのに、それで伝わらないのはもどかしい。
「僕を好きなのは、恥なんですね。」
恥。
嘘だろ。
こんなに恋愛に疎い人、世界にまだ居るんだ。
「ち、違うよ。君への気持ちが伝わっても、特に私に害はないよ。」
特にそらされている感じはしないけど、お互いの目線が違うところを指す。
「言い訳は結構です。こんな僕を好きだということ。あまり良くないのは、分かりますから。怒ってもいません。」
文学少年って、こんな固い人しかいないの。
「本当に違うの!」
彼は文学少年だと、学校中で賞されている。
その噂を聞いてから、彼に興味を持った。
いらないことを徹底的に排除し、読書にひたむきになる。
なのに、読書感想文は苦手。
そんな生態が、自分の中で。
格好良くて。
「どういうことですか、説明できます?」
怒ってないっていってたのに、口調は冷たく感じた。
「君も分からないかな。物事に対しての本気を馬鹿にされるってこと。」
正直、この先にいうべき言葉が分からない。
「分かるよ。俺も読書への本気を、冷たい人と酷評されたことがある。」
そんな過去が。
申し訳なくなって、言葉が詰まる。
「……恋っていうのは重いものなの。本気で、その人のことが好きっていうシグナル。だから、大っぴらにその本気を見せられないんだ。冷やかされるのが、怖くて。」
話を聞く姿勢が、すごく嬉しい。
人の話は、ちゃんと聞け。
こういう教育の意味がわかる気がする。
「貴方も持っているんですか。その本気ってやつ。」
うん。
「持っているよ。」
自分の本気を、試した。
「え……?」
文学少年で、冷たいと言われたこともある人が。
抱擁してくることに驚いた。
「抱擁には、ストレスや不安を軽減する効果があります。ストレスホルモンのコルチゾールの分泌が抑制されるからだそうですよ。その本気を持って、堂々とすること。恋は未だに分かりませんが、とても怖いことだったのではないかと思います。」
確かに、不安だったし。
安心する。
でも、それは。
コルチゾールとか関係なしに、認めてくれたから。
「……ごめんね、迷惑かけて。」
やっぱり、私のいうことは伝わらない。
「迷惑なんて思ってないですし、そう思わせる出来事がありましたか?」
凛とした顔が、上辺だけの会話じゃないと思わせてくれる。
「恋が分からない君に恋してるって言って、君に考えさせて。しかも、時間を奪って。好きな人にそんなことして。罪悪感もあるし、情けない。」
涙が零れた。
でも、君に気づかれてはないと思う。
「ひとつの書に頼るのは、違うとは思います。ですけど、僕も好きな言葉なので言わせてください。『世界で一番、意味の籠った液体は涙だ。その液体が出せることを、恥ずかしがる理由は無い。』」
初めて、彼に分かるようにすすり泣いた。
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