ある文学少年に恋をした
嗚呼烏
文学少年
「好きです!」
意を決して、恋心を告白した。
発言、おかしかったかな。
少し、不思議な顔に見える。
正直。
交際してくれないのは、予想できている。
だけど、この気持ちをぶつけたかった。
まあ。
こんな気持ちで告白なんて、後ろめたいけど。
「僕も好きだよ……?」
彼の言葉に、思考が止まる。
風の音が、はっきり聞こえる。
え、嘘。
両思いなの。
え、でも。
好かれるきっかけなんて、心当たりがない。
私って。
もしかして、可愛いのかな。
なんて。
心当たりがないせいで、血迷った。
頭に出てくる、あらゆる恋人像。
交際することは、内緒にした方がいいのかな。
デートは目立たないところの方がいいかな。
どちらかの家に、かも。
妄想だけで、顔が熱くなる。
「……もしかして、興奮してますか?」
どうやら、顔が赤くなっているらしい。
興奮、しているのかな。
「それはそうだよ。好きな男に好きって言われちゃったら、舞い上がっちゃう……」
告白の勇気を一回だけ出したら、もう後の発言は楽みたい。
きまりが悪い。
いや、両思いだったから。
嬉しすぎるから、発言に気が使えなくなってるのかもしれない。
「貴方を好きな人なんて、五万といるでしょう。貴方は危害を加えそうな強気な人物でもないですし、人間の防衛機制が働くことも少ないでしょう。まあ、細かく言うと。防衛機制が働くと嫌いは、違いますが。」
防衛機制、あれ。
なにを言っているのか、分からない。
「防衛機制ってやつが働かないことが、恋ってことなの?」
涼しい顔が、固まる。
「恋、ですか。都市伝説かと思ってました。」
恋が都市伝説って、すごい思想だな。
「すみません、友情があついってことかと思ってました。恋ですか、そうですか。正直、貴方に恋はしてないのではないかと思ってますよ。」
屋上に呼び出して、友達として好きだよなんて。
わざわざ、言わないよ。
妄想の交際に胸を踊らせてたから、反動で胸が痛い。
「ちなみに、曖昧な言葉はいらないよ。貴方は私のことが恋愛的に好きじゃない。なら、はっきり言ってほしい。」
本当は、言ってほしくないけど。
でも、断られる時にはっきり言われないと。
心に、おもむろに残って辛い。
「はっきり、恋してない。とは言えないです。」
涼しい顔にあった、やさしい声。
でも言ってることは、やさしくない。
気持ちを考えて、って思ってくれるのは嬉しいけど。
結構、辛いから。
絶対に今じゃない。
「なんで?」
もう、この場から去りたかった。
私情で、時間をとって。
それが結局、何にもならないのが。
馬鹿馬鹿しくて、辛い。
「恋が分からないんです。僕だって勿論、色々な感情を持ち合わせてますよ。ですけど、恋心ってのを持ったことがなくて。」
要は、恋愛に興味がないと。
私はこの空気に耐えられなくて、彼に背中を向けた。
「ちょっと待ってください。」
これ以上、何があるの。
今、次の章に行くところだったのに。
「ごめんなさい。会話が変に途切れた気がして、声をかけました。」
はい、変に途切れさせましたけど。
それが、どうされました。
「……恋愛に興味無いのに、丁寧に断ろうとしてくれる方が辛いよ!」
よくよく考えたら。
告白して、思うようにいかなかったら怒る。
気狂いかも。
「落ち着いてください。僕は、丁寧に断ろうなんて思いません。」
真っ直ぐな眼差し。
でも脱力していて、力を加えていない目。
丁寧に断ろうと思ってないって、はっきり言われるのも。
また、嫌なんだけど。
「むしろ、恋心。それを持っている者として興味があります。しかも、こんなモブキャラクターの僕に。」
研究者みたいな、凛とした佇まい。
この感情について、本当に興味があるのか。
「良ければ、恋心ってものを教えてください。僕の読んでいる書の範囲だと、明確な定義が書かれていなくて。」
変な人。
「……ネットで調べれば、いくらでも出てくるでしょう。本当に可愛い人。」
こんなに生真面目なら、可愛い人って思われる意味もわからないかな。
「ネットの情報なんて、信用に値しないので。」
貴方らしい。
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