第6話 ポチが残したもの

私が大切と思う家族は、ポチ一匹だけだった。両親は仕事が忙しく、私も学校があるから、家の中はいつも静かで、どこか寂しい空気が漂っていた。けれど、ポチがいるだけで、私は毎日が楽しかった。ポチは、私が帰るといつも玄関で待っていて、尻尾を振りながら嬉しそうに飛び跳ねていた。何も特別なことはないけれど、ポチがいるだけで、私は心の中で温かい気持ちが広がっていった。


家は貧乏だったけれど、ポチさえいれば十分だった。食事も、服も、何も贅沢を求めていなかった。ただ、ポチと一緒に過ごす毎日が私にとっては最高の幸せだった。


ある日のことだった。学校から帰ると、いつも通りポチが迎えに来てくれると思っていた。しかし、その日は玄関前にポチの姿はなかった。家に入ると、母は泣いていて私にボソリと言った。


「ポチがね…。死んだわ」


その時、私は言葉を失った。ポチが死んでしまったことを信じられなかった。ずっと元気に走り回っていたポチが、もう二度と私を迎えに来ることはないのだと思うと、胸が締め付けられるような悲しみがこみ上げてきた。


私はそのまま玄関前に走り、ポチが横たわっている場所に膝をついた。ポチはもう動かない。穏やかな顔をして、まるで眠っているようだったけれど、確かに彼の息は止まっていた。あまりにも急で、何も準備ができていなかった。心の中で必死にポチに語りかけた。


「ポチ逝かないで一人にしないで」


ポチに何度も言葉をかけて、涙が止まらなかった。


時が経ち、私の生活は少しずつ変わっていった。でも、ポチとの思い出は色あせることなく、私の中で大切なものとして残り続けた。ポチが教えてくれたのは、物やお金よりも、愛や思いやりの大切さだった。そして最後には命の重みを私に教えてくれたのだ。


ある晩、眠りにつく前に枕の横に置いてあるポチの首輪を見ながら、ふと思った。もしもポチが天国で元気に走り回っているなら、私もいつかまた会えるのだと。


「ありがとう、ポチ。待っててね。」


そして、いつか必ず、ポチに会えるその日まで、私は明日も明後日も過ごしていく。だってポチが空から応援してくれる、見守ってくれるから。


「ねぇポチ、私、諦めないで治療続けることにしたわ。親が私のために治療費を稼ぐのに必死なのが嫌だったけど、頑張ってみるからね。」

涙をこぼしながら、私はニッコリした。もう、大丈夫だから……


「またね、大好きだよ!今までも、これからだって!大好き!」







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