第3話 ひかり

ある晴れた日、小さな町に住む少女、凛(りん)は目を開けても何も見えない暗闇の中で日々を過ごしていました。彼女は生まれつき視力を失っていたため、周囲の世界を音や匂い、そして手触りで感じ取っていました。凛には唯一、心を癒してくれる存在がありました。それは、柴犬の「まる」という名前の犬でした。


まるは、凛がまだ幼い頃、両親が近所の保護施設から引き取った犬でした。凛の家族はまるを大切に育て、まるもまた、凛のことを深く愛していました。まるは、凛が困っているとすぐに駆けつけ、優しく鼻を寄せてくれました。その優しい存在が、凛の心をいつも温かく包み込んでいました。


ある日、凛が公園の近くで一人で歩いていたとき、風が強く吹きました。凛はその風の音に耳を澄ましながらも、少し足元が不安定でした。すると、突然、まるが走ってきて、凛の足元にぴったりと寄り添いました。まるは凛の歩調に合わせ、慎重に一緒に歩き始めました。まるの足音が凛にとっては心の支えとなり、彼女は一歩一歩を安心して踏み出すことができました。


その日、凛は公園の隅にある大きな木の下に辿り着きました。木の下で、まるが凛に軽く手をかけるように鼻で触れました。凛は微笑みながら、まるの毛を撫でました。「まる、ありがとう。」彼女は心の中で感謝を伝えました。まるは静かに凛の隣に座り、二人はしばらくの間、風の音とともに静かな時間を過ごしました。


凛にとって、まるはただの犬ではありませんでした。まるは彼女の目であり、心の中で光を灯してくれる存在でした。目には見えない世界でも、まると一緒なら、どんな困難も乗り越えられると信じていたのです。


凛はこれからも、まると共に歩んでいくことでしょう。目の前に広がる世界が見えなくても、心で感じることができること、そしてそれを共に感じる仲間がいること。それが凛にとっての本当の光だったのです。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る