月の霜 あはにした照る 冬桜

▼登場人物▼

月ノ宮有朱(つきのみやありす) 



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グシャ


「…」


その者は、その体躯に等しいほどの巨大な鋏を男へ突き立てていた。

刃を抜かれ、男は地に伏す。

その男は、捜査が難航していた無差別殺人事件の犯人だった。


「八咫烏。」


その者が呟くと、月は陰り始めた。

宵闇となった空間に煙のような焔が現出し、

やがて黒い炎は髑髏のような姿を露わにした。


八咫烏と呼ばれた妖怪の黒炎は、地に伏す男を埋め尽くすように覆った。

男の身体は黒い炎に包まれ、燃ゆる。

男を覆う炎が消えた時、その姿は跡形もなく去ってしまった。

"確かに男が存在していた空間"には、塵も残らなかった。

肉塊も、血も。

男を証明していた物質は、始めから存在しなかったように抹消されていた。


「有朱様、余り無理はなさらぬよう。貴女に刻まれた呪いは、今も蝕んでいるのですから」

「…行くぞ。」


その者の名は、月ノ宮有朱。

灰色の世界に残存した"神秘"を持つ彼女は、

蔓延る濁った漆黒を"断罪"するため、闇夜を切り裂く。

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