Black Fairy 事件簿

星江点火

第1話「Malicious Fairy」

▼登場人物▼

・黒木田マキ(くろきだまき)

・亞曇ヒカリ(あずみひかり)


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永遠の灯火なんてありえない。

手を取り合って薪を焚べ続ければ、この暗濁を払って光を照らしてくれると信じていた。

だけど、その手は私を侵略する。

楽しくない常識で図られた幸福は余すことなく略奪されてしまう。

だから、

幸福は自身で探さないといけない。

生きることは私にとって戦争だ。


"Black Fairy"


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LEVEL:1

ミッション概要

指定されたカメラを破壊する。

(人数・1名)

(報酬・1名あたり10,000円)


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「はぁ…」

「あれ?マキくん…?」

「ん?あ、ヒカリか、久しぶり」

「久しぶりだね!元気、ではなさそうだね、どうしたの?」

「いや、なんでも」

「教えてよ、高校からの付き合いじゃん」

「高校からの付き合い関係あるか?」

「私とマキくんの仲じゃん!」

「話せないよ」

「うーん、じゃあ当ててあげる!」

「…お、おい!」

「触っちゃ嫌だった?脈拍上がってる!」

「嫌じゃないけど、恥ずいって」

「マキくん…悪いことしたでしょ!」

「…え?」

「やった、当たった!」

「なんで」

「脈拍は嘘付けないんだよー!」

「はぁ…」

「ね、マキくん」

「何?」

「話しにくいことがあるのかも知れないけど、1人で抱え込んでちゃ辛いよ、私、力になれないかな?」

「いや…」

「犯罪?」

「…」

「マキくん悪いんだー!」

「そうだよ、おれは金のために犯罪した」

「そっか。全部話して楽になっちゃいなよ」

「ヒカリ、もしかして刑事?」

「アハハ!まさかー!」

「ヒカリって高校出て、今何してるの?」

「内緒!」

「じゃあおれも言わない」

「アハ!この感じ、懐かしいね」

「そうだな」

「私はね、私の楽しいと思えることをしてるの」

「なんだそれ」

「で!マキくんは何したの?人殺しちゃった!?」

「な訳ないだろ!」

「じゃあなーに?」

「これ…」

「"Black Fairy"?見たことないアプリだね」

「このアプリ通して仕事の依頼が来るんだ」

「…」

「なんだその眼差しは…」

「どうやって見つけたの?」

「突然連絡が来た。返事したらアプリを入れるように言われて…足が付かないらしい」

「へぇ〜、なんかアイコンから怪しい感じだもんね」

「アプリ入れたら依頼が来たんだ、それがこれ」

「レベル1、監視カメラ、破壊、10000円」

「…」

「やったんだ」

「ああ…」

「こういうのって詐欺じゃないの?」

「いや、金は入ってた」

「でも、割りに合わないんじゃない?」

「10分で終わったから、時給60000円」

「私もやろうかな」

「本気か?」

「うん!冗談!」

「はぁ…」

「なんで落ち込んでるの?お金入って良かったじゃん!」

「犯罪したから…」

「真面目なマキくんはどうして犯罪しちゃったのかなー?」

「それは…」

「お金に困ってるからだよねー?」

「バカにしてる?」

「してないよ!マキくんの気持ちに寄り添えてないかな?」

「いや、話したら少し楽になった」

「そっか良かったね!マキくん」


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四葉のクローバーを探し続ける日々。

1万分の1の幸福は、濁った瞳にはもう映らないのかもしれない。

私が本当に欲しい物は、いまさらこの汚れた手では取ることはできない。

思い返せば幼い頃に四葉のクローバーを探し当てたことは無かったな。

私は間違っている。

そんなことは言われなくてもわかってる。

そこまで浅はかでもなければ、盲目でもない。

でも私の間違えは一体誰が定めたの?

これを傲慢だと言うのなら、傲慢でない者などどこにいる。


"Black Fairy"


---


LEVEL:2

ミッション概要

指定された工場から指定された部品を回収する。

(人数・3名)

(報酬・1名あたり100,000円)


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「今度は窃盗したんだ」

「よく見て回収、だから」

「言葉遊びでしょ!マキくんのドロボー!」

「やめてくれ…」

「震えてるね」

「震えもするさ、今頃ケーサツが血眼で探してるんだ…!」

「でも痕跡は残してないんでしょ?」

「ああ、だけどさっきニュース見たら一緒にやった他の2人が逮捕されたって…」

「時間の問題?」

「あいつら、名前も知らないけど…しくじったんだ!事前に知らされたカメラの位置に入っちゃって…」

「タグが照合されたんだ!」

「恐らく…」

「でもマキくんは映ってないんでしょ?」

「細心の注意を払ったから…」

「じゃあ大丈夫でしょ!」

「でも!あいつらが口を割るかも…!」

「名前もわからないんでしょ?顔は?」

「目出し帽被ってた…」

「目だけじゃわからないよ、それに今のケーサツは国民番号頼りだし!」

「でも…怖いよ!おれ、捕まりたくない…!」

「じゃあなんで犯罪しちゃったの?」

「それは知ってるだろ…」

「お金だよね」

「ああ…」

「かわいそうなマキくん…」

「ちょ…!お、おい!」

「嫌?」

「嫌、じゃないけど…ヒカリ、彼氏いないのか?」

「いないよー」

「そっか…」

「えへ、どうしたの?また好きになった?」

「…ごめん」

「何が?」

「あの時、助けてあげられなくて…」

「懐かしいね」

「許してくれなんて思ってない、おれは…」

「何も言わないで良いよ、今はこうして、ただお互いの鼓動を感じるの」

「…」

「リラックスしたら不安も無くなるでしょ?」

「うん、おれもう引き返せないのかな…?」

「…」

「あの頃に、もう一度戻れたら…!」

「過去は消えない」

「え…?」

「過去はどんなに願っても変わることはないの」

「…」

「だからマキくんは、私も、進むしかないんだよ、きっと」

「どこに進めばいいのか、もう、わからないんだ…」

「私は見つけたよ、進む道」

「そうか、ヒカリは強いな…」

「…」

「なぁヒカリ、キスしても良いか?」

「え、嫌だよ」

「…悪かった」

「そんなことよりもっと楽しいことしよ?」

「え?」

「行こ!」

「どこ行くんだよ!」

「決まってるじゃん!」


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「それでね!これお注射すると嫌なことぜーんぶ忘れられるの!」

「ヒカリ…」

「怖くなった?」

「いつから…」

「これしてからすると、とっても気持ち良いんだよ?」

「だめだよ、こんなこと…」

「アハハハハ!マキくん、犯罪者のくせに!変だよー!」

「…」

「マキくん、怖い?私も怖かったんだよ」

「…」

「自分でするのが怖いなら、私がしてあげよっか!ね、おいで?」

「…」

「ふふ、偉いね」


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Absorb Babel Crystal=ABC

いけないケミカル。

こんな下品な物が蔓延しているのだから世も末だ。

愚かに自らの意思で使うのならまだしも、

時としてこういった物は、他人の尊厳を破壊するために用いられてしまう。

あの時、無理やり使わされた。

頭がぐるぐるぐるぐるして、正常な判断が出来なくなった。

そんな乱暴な方法で私の当たり前の幸せは侵略された。

離脱症状は心の傷を再起させ、また下品なケミカルに依存してしまう。

そうして負の連鎖が続き、脳の髄までしゃぶりつくされてしまうだろう。

だが私はそうなることは無かった。

もしかしたら私は自覚するよりももっと昔に壊れていたのかもしれない。


"Black Fairy"


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LEVEL:3

ミッション概要

指定された5箇所に放火すること。

(人数・5名)

(報酬・1名あたり1,000,000円)


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「人が死んじゃったら死刑だね!」

「…自分が、こわいんだ…」

「マキくんの量刑がランクアップしていくね」

「放火がそんなに重いなんて…」

「ちょっと考えてみればわかるけどねー!」

「ヒカリ、この前の…」

「またシたくなった?」

「…」

「じゃ、いこっか」


---


「アハッ!ハァハァ…最高…!」

「はぁはぁ…」

「きもちかった?」

「うん…」

「えへ、テレビみよっー!」

「うん…」

「あ、速報だって…」

「!?」

「あー…死んじゃったって」

「そんな…」

「マキくん、4人も殺しちゃったね」

「こんなことになるなんて…!」

「マキくん…」

「ヒカリ…おれ、自首す、んぐぅ!」

「んん、ちゅ…」

「はぁ…はぁ…」

「ねぇ…もっと激しいの、マキくんのために持ってきたの…」

「…」

「マキくん、自首したら死刑だよ」

「わかってる…」

「どうせ終わっちゃうならさ…最後くらい気持ち良くなってもいいんじゃないかな?」

「…」

「腕、出して?」

「ああ」


---


「はぁはぁはぁはぁ…!自首、する…」

「抱き合って懺悔して、なんだかロマンチックだね…!」

「おれは間違ってた…」

「もう切れちゃった?」

「おれは…!」

「腕…」

「…」

「素直なマキくん、好きだよ」


---


「あ、へ…」

「マキくん、壊れちゃった?」

「え…へ」

「マキくんにはもう少し頑張って貰わないといけないの」

「ふぇ」

「自首したら死んじゃうんだよ?」

「…自、首…す!」

「腕出して」

「はひ…」

「偉いねーマキくん、大好きだよ」

「ひ、カリ…」

「なーに?」

「ご、めん…」

「…」

「あのと、き…おれにち、から…あれば、」

「そうだね、マキくんは私のことを見捨てた」

「う…」

「マキくんにはわからないよ、怖い人に囲まれて乱暴されて、自由なんて無くて、されるがままに…」

「…う、う」

「どう?回ってきた?」

「ああああああ!」

「きもちーね?マキくん!」


---


「…死にたくない」

「どうしたの?」

「怖い、捕まったら死ぬって考えるととてつもなく怖いんだ」

「沢山殺したのに?」

「殺してしまった、この手で…おれが!」

「そうだよ、マキくんは人殺し」

「ヒカリ…好きだ、愛してる…」

「…」

「本気なんだ、もう見捨てたりしない、絶対にこの手を離したりしない!」

「…」

「おれの手は汚れてしまったけど…それでも!」

「そっか。もう、マキくんの手を取れるのは私しかいないのかもね…」


---


心も体も壊されてしまった私を、パパとママは味方で居てくれた。

けれど、ただ一つの無償の愛すらも略奪されてしまった。

糾弾した両親に対して、逆上した乱暴者は手を掛けた。

乱暴者は法で裁かれた。

納得出来るような判決では決して無かった。

未成年だからとか初犯だからとか。

そんなことは聞きたく無かった。

いや、どんな判決が下されようと許せる訳が無い。

私から全てを奪っておいて、のうのうと息をしていることを断じて許せる訳が無い。

あの事件に関わった全ての人間。

ううん。それだけじゃない。

私の濁った視界に映る全てのゴミ共。

私をひとりぼっちにして、四葉のクローバーを手にした者たちも同じだ。

私が下品な物に依存しなかったのはきっと、

今もこうして燃え続けているからだ。

永遠に灯る復讐の焔が。


"Black Fairy"


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LEVEL:4

ミッション概要

指定された人物を殺害する。

(人数・1名)

(報酬・1名あたり10,000,000円)


---


いやいや!!

"Black Fairy"から与えられた仕事を確認した。

だけど、殺しなんて。

出来るわけがない!

意図して殺すなんて!

おれは、お問合せ窓口から依頼を拒否する旨を送信した。

直ぐに連絡が来た。

電話だ。

非通知。


「もしもし」

「やぁ、初めまして。私は"Black Fairy"。」


機械音の野太い男性の声が受話器越しに聴こえる。


「あの、今回の仕事は…」

「拒否権があると思っているのか?」

「へ?」

「こっちはお前の個人情報を握ってるんだ。この意味、馬鹿なお前にもわかるよな?」

「そんな…」

「それに、前回の放火で何人も死んだんだ。いまさら1人増えても変わらないだろ?」

「もう殺したくないんだ!」

「ハハハハ!面白いな、国民番号78964795」

「!?なんでそんなことまで!」

「どうしても嫌だと言うなら、証拠と共に警察に流そうか」

「!?」

「もっともその場合、死刑は免れないだろうがな」

「…ぐ!」

「さて、もう一度だけ聞こう。今回のミッション、どうする?」


---

--

-


「はぁ…はぁ…」


やった。

殺してしまった。

自らの意思で。

動転していて気付かなかったが、おれはこの男を知っている。

おれはこの男が憎かった。

あの日ヒカリをおれから奪ったこの男が。

下足痕も、監視カメラも。

毛髪や指紋、あらゆる痕跡は残していないはず。

念には念を入れて、慎重かつ大胆に事を済ませたはずだ。

もしかしたら暗殺の才能があるのかもしれない。

もうこの道で食って行くか。

おれにはそれしか残されていない。

あとは、誰にも見つからずここから出る!


「ビーーーー!!」


警報音が響いた。

セキュリティセンサーに身体が触れてしまった!

迂闊だった。

そうだこの男はセキュリティを部屋中に入れるくらい余裕がある!


「DNA…照合中…国民番号78964795…氏名…検索中」


セキュリティセンサーに特定された。

終わった。

おれはなりふり構わず走り出した。

逃げてもいずれ捕まることはわかっていた。

それでも走った。

あの公園に向かって。

あの公園には、ヒカリが待っているから。

ヒカリ!

会いたい。

会いたい!最後に!

もう一度、ちゃんと!

伝えるんだ。

あの時、恐怖に怯えてヒカリを守れなかったことを謝るんだ。

そして、あんなことやめさせるんだ。

快楽に溺れて自分を見失ってはいけないと。

伝えるんだ。

今度はできる、ちゃんとできるから!

公園に着いた。

いつものベンチには、最期に会いたかった人が座っていた。


「ありがとうマキくん」


---


私の道は幸せな者達が否定するだろう。

多分壊れる前の私だってそうだ。

今更、甘酸っぱい主人公にも、悲劇のヒロインにも慣れない。

だから私は自分を殺した。

自分の存在証明を抹消するのは心が痛んだ。

パパとママが与えてくれた全てを失うような。

中途半端は捨てた。

目的の為に手段は選べない。

私は特別な力も無ければ、愛してくれる人もいないから。

パパとママはきっとこんなこと望んでないだろうけど、それでも。

幸せは歩いてこない。

だから全て摘み取られる前に。


"Black Fairy"


---


LEVEL:5

ミッション概要

罪を償う。


---


「会いたかったよマキくん」

「ヒカリ…!聞いてくれ!」

「うん?」

「あの時!おれはグループが怖くて、ヒカリのこと見捨ててしまった!」

「…」

「情け無いよな、弱っちいよな!だから許してくれなんて絶対言わない!」

「…」

「けど!ヒカリには!自分を見失わないで欲しいんだ!あんなことはもうやめて、真っ当に生きて欲しい!」

「…」

「おれはきっと直ぐに捕まる、そして死ぬ…!だからせめてヒカリには、生きてて欲しいんだ…!!」

「…」

「好きだ、ヒカリ!愛してる…昔も、今だって!だから…!最期にワガママを言わせてくれ…!」


「もう、終わった…?」


「え?」

「言いたいこと」

「…うん」

「そっか!フフフ…アハハハハ!!」

「ヒカリ…?」

「アッハー!ハハハハ!くぅっ、ふふ…!!おっかしいねぇ!マキくんは!」

「は…?」

「馬鹿すぎてさぁ!!」

「ど、どうしたんだよ…」

「まだ気付かないの?お馬鹿さん」

「な、なんだよ!ヒカリ…!」


「「やぁ、初めまして。私は"Black Fairy"。」」


「その声…なんでヒカリが…?」

「はぁ、馬鹿すぎて呆れるわ。私だよ、私が"Black Fairy"だよ!バーカ!」

「は…、ハ?」

「ハハハハ!くぅ!たまんねー!その表情!」

「じょ、冗談だろ?なぁ…ヒカリ!」

「馬鹿だよねー?段々と犯罪を重くしていったら、人殺しまでしちゃうんだもん!」

「ひ、ヒカリ…?」

「どーう?手のひらで踊らされていた気分は?私は最ッ高に気持ち良いよっ!!!」

「本当なの、か?」

「鈍臭いよねーマキくん、昔から。LEVEL1〜4まで自分に関連してると気付かない訳?」

「え…?」

「ホント馬鹿!どうしようも無い哀れな仔羊のマキくんに1つずつ教えてやるよ!」

「…」


「まず、LEVEL1から。まぁ正直、軽犯罪ならどーでも良かったけど、どうせなら後で使える様にした。」

「…」

「あのカメラは、この公園から出入りする人間を捉えるカメラ。」

「…」

「そう、あの位置から出入りする限り、この密会には足が付かないというわけ」

「でも、ホテルは…」

「まあ落ち着けよ!ヘタクソ君!」

「…」


「そしてLEVEL2。あの窃盗自体は、資金調達ね。問題は一緒に行動したあの2人。どこかで見たことない?」

「…あ!」

「間抜けだね、可愛いよ!そう、あの2人は私を乱暴したグループの人間。」

「…」


「LEVEL3。放火した家は、私をグループに売った女の子の家なの!」

「そ、そんな…」

「正直、一番清々したんだよ!?だってあの女!自分可愛さに私をグループに売って、自分は幸せを掴もうとしてたんだよ…!!」

「…」

「あの女の、お腹には赤ん坊がいた。だからマキくんはあの時、5人殺したの。」

「…もう、沢山だ。」


「最後はもうわかるよね?LEVEL4。」

「あの男は…グループのリーダーだ。」

「正解!ノータリンでもわかるよね!どうだった?その手で殺す感触は!!ねぇ!?」

「…最悪だ。」

「ハァ?私は最高なんですけど。まぁいいや!」

「…教えてくれ」

「なーに?」

「何でこんなことを…!いや、恨みなのはわかる、ただどうしてこんな回りくどいことを」

「ハァ。別に恨んで無いよ?」

「じゃ、じゃあ!!」

「言ったでしょ?私は楽しいと思える道を見つけたの」

「たの…しい?」

「そう!ゴミみたいな人間を転がして破滅させるの!」

「…自首しよう」

「は?」

「一緒に罪を償おう、ヒカリ!」

「嫌だよ」

「ヒカリ…!!」

「こんな気持ちの良いこと、やめられる訳ないでしょ?」

「ならおれは自首して、この事をケーサツに話す…!」

「アハハハハ!!くふふふ!無駄だよ!!」

「!?」

「これまでの全て、ぜーんぶ足が付かないようになってるの!おバカなマキくんにはわからないだろうけど!」

「だとしても、おれの証言と"Black Fairy"のやり取りがあれば…!!」

「ねぇ…?気付かなかったの?私の全部を見たのに?」

「…?」

「私の首には国民番号のタグチップが無いことに。」

「あ…そうだ…無い…!」

「アハハ!そう、私はね?法律上、死んだ扱いになってるの、この意味わかるかなー?」

「そ、そんな馬鹿なこと…」

「出来るんだよ!」

「じゃ、じゃあヒカリは…」

「そう。この世の中にヒカリなんて人間は存在していないの。存在しない人間は、当然セキュリティセンサーにも反応しない。」

「ありえない…」

「あり得るんだよ!だからマキくんがケーサツに証言した所で、存在していないのだから意味が無いの。仮に捕まったとしても、私を法で裁くことはできないんだーよ?」

「だ、だけど!おれの網膜記録がある…!ケーサツがおれの視覚データを確認すれば!」

「残念だったね!あの時、脈測ったでしょ?その時、首のタグを弄られていることに気付かなかった!?」

「…!」

「それとね。マキくんがラリってる時に、私の都合が良いように書き換えてあるんだよ?」

「そん、な…」

「お馬鹿なマキくんはセキュリティセンサーに引っかかってドジ踏んだけど。私はあなたと違う。」

「…」

「これが世界の仕組み。弱者はどう足掻いても利用されるだけなの。悲しいね?」

「く…。う、ぅ…」

「アハ!泣いちゃった!」

「こんなこと、許されるわけがない…!」

「だったら!どうして!私のパパとママは!死ななければならなかったッ!!」

「ヒカリ…」

「誰も私を止められない…!止められなかった!」

「…」

「ありがとう、私の許さない存在たちを殺してくれて」

「…」

「ね、マキくん…私たちは自由として生まれたはずなのに、どうしてお互いを縛ってしまうんだろうね?」


「…」


「心神喪失しちゃった?無罪になるといーね!!」

「…」

「もう、行くね…」


「Malicious fairy」~fin~

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