第3話 異世界

子供時代なんて要らないでしょ?とそのままの体で転生させて貰えることにしていたので、異世界に降り立った時、もちろん体はあの現世の私そのものだった。


どうやらここは森の中らしい。

このままモンスターに喰われて終わりなんてエンドは嫌なので、まずは人が生活している場所を目指すことにする。

なんとなく数百メートル先に町がある気がするので向かうことにした。


町に入る前に目標を整理すると、まず目指すべき大目標は『この世界にノーベル賞を創設する』である。そしてもちろんただノーベル賞という名前の賞を作る訳ではなく、その『ノーベル賞』の持つ権威も再現するのが目標である。『すごい賞』としてのノーベル賞を創設する訳だ。

そのためにも私がまず凄くなる必要がある。

とにかく頑張らなければ。


そんなことを考えつつ町を目指して歩いている内に何となく頭に流れ込んできた情報によると、自分の能力が見られるらしい。オタク文化が盛り上がっていた現代日本に居た身として、『ステータスオープン』は胸が踊る。

早く自分のステータスを見たい。

「ステータスオープン」と言うと自分の前に半透明の板のようなものが現れた。

それによると私の職業は探究者、レベルは3、

そして身体能力は

こうげき D

ぼうぎょ G

すばやさ D

かしこさ B

魔力 E

運 F

といった感じで、Aが最高値、Cが中央値、Gが最低値らしいので纏めると賢いだけのやわらか戦車ということになる。

というか現代日本でそこそこ勉強していたはずなのにかしこさBなのは悲しい。理系が苦手なだけなのに。

そしてあの女がくれたという能力は

【ボーンヘッド】

『売れ残りを無料で手に入れることが出来る』というものだった。

これでどうピンチを乗り切りゃ良いのか。

もうちょい異世界転生によくありそうなチート能力をくれても良かったのに。


俺ツエー展開が潰えたことを残念がっていると、小学2年生ぐらいの背丈のモンスターと出くわした。気付かれないように足音を殺しながら歩いたが、結局追われてしまった。


武器もないし、そもそも私は前述の通りやわらか戦車なのである。戦うのはやめておきたい。

すると本能が「来い」と言えと自分に伝えてきた。

従うと手にいきなり錆びた剣が現れた。

売れ残りとはっきり分かる代物ではあったが剣は剣。

もはやこれまでかと思うほど近づかれ、やけくそでモンスターをその剣で切るとあっけなくそのモンスターは倒れ、その瞬間体が光った。それはレベルがアップしたことの合図で、それに伴い防御もG+にアップした。


そしてモンスターに出くわすたびに同じことを繰り返した。なぜかモンスターを倒すと武器が消えたが、気にしている暇はなかった。


なんとか森を出ると、ようやく町を見つけた。

宿らしき建物に、市場や民家など、人がそこで生活してるのだと感じられ、モンスターと戦うだけで人を見ることのなかった森から出ることが出来たのだと感じ、なんとなく安心した。


しかし安心し過ぎてもよくない。そもそもあの剣はどこから来たのか、『売れ残りを無料で手に入れることが出来る』という【ボーンヘッド】の売れ残りとは何を指すのか、そもそもこの世界はどういう構造なのかなど、分からないことだらけなのだから。


まずは【ボーンヘッド】の検証から始めることにした。


埃を被っていた商品を指差し、

「おじさん!このネックレス売れてる?」と聞くと「いやまあ売れてないな。」とぶっきらぼうに店主は応えた。


一応このネックレスは売れ残りということになる。ならばと【ボーンヘッド】を発動させてみるが、しかしこのネックレスを手に入れることは出来なかった。色々試行錯誤してみた結果、「売れてるか」と聞いて、「持っていってほしいぐらいだよ」と言ってきた商品は無料で手に入れることが出来た。他にも客が「こんなん誰が買うんだよ」と笑っていた商品も無料で手に入れることが出来た。

つまり【ボーンヘッド】の売れ残りとは、単に今売れてないものという意味ではなく、『売る側が買われることを諦めている』か、もしくは『買う側に全く需要されていないもの』ということになる。確かに考えてみれば売れてないだけで売れ残りということになるなら、買われる前のあらゆる商品を無料で手に入れられてしまうのだから、そんな訳ないのだが。

この試行錯誤の結果、薬草二つと、錆びた剣、そして穴だらけの鎖帷子(鎖を服に縫い付けたもの)を手に入れた。はっきり言って心許なく、こんなものに命を預けるなど自殺行為だ。速やかに新しい装備などを整えなければいけない。


何か掘り出し物はないかと色々見ていると、奴隷市を見つけた。ここに入れば、一応仲間を増やせるだろう。だが、現代日本に居た身としては、こんな醜悪なものが存在することに、やはり嫌悪感を覚えてしまう。奴隷制自体に良いイメージを持っていないのに、奴隷売買の場に行き、ましてやそこで売られている奴隷を手に入れるなんて、とてもじゃないが耐えられる自信が無かった。


だが、お金を稼ぐ手段が見つかっている訳でも、この世界で生き抜けるだけのチート能力を手に入れている訳でもない。この世界の『ノーベル』になるためには、こんな所で足踏みしてる暇などない。今だけは、この漂う腐臭を見て見ぬ振りすることにした。


「ここには色んな奴隷がいる!愛玩用から戦闘員まで、どんな目的にも対応出来るよう様々な奴隷を取り揃えているよ!」と奴隷商の男は言う。


その男に「戦闘員が欲しい。安めの奴隷が良いな。」と言うと、色々と見せてくれた。見せてくれた奴隷たちの価格の平均は20万スクエアといった感じで、1円が1スクエアだとしたら、20万円ほど。この世界の奴隷は、現世のペットぐらいの感覚なのだろう。とりあえずこの世界の通貨価値を知れたのは良いが、そもそも金がないのだ。こういう値札が付いてる奴隷を見せられてもどうしようもない。『売れ残り』を探さなければ。

キョロキョロ見て回っていると、値札の付いてない奴隷を見つけた。衣服はボロボロで、髪はボサボサなのにどこか高貴な印象を受ける銀髪の少女で、耳が尖っているところから察するに現世でエルフと呼ばれる種族なのだろう。気になって奴隷商の男に色々聞くと「こいつはエルフでね、とても安かったんで一応仕入れたんですが、体が強い訳でもないし、幼いから夜伽にすら使えない。しかもエルフだから全然成長しない。つまりずっとこの幼い体のまま!だから全然売れなくてね。他の奴隷を買った人に付け合わせであげようとしてるんですが、誰にも受け取って貰えず……。」と返ってきた。

しかし一応女だし、風呂にでも入れればかわいい気もする。夜伽に使えないとは思えないが……と聞いたが「冗談じゃない!こんな貧相な体、裸を想像しただけで鳥肌が立ちますよ!」と怒られてしまった。どうやら幼女趣味は受け入れられないらしい。

そこまで聞いた上で、なぜ殺したりどっかに置いてきたりして処分しないのかとふと思った。するとそんな考えを察したのか「この国では奴隷は登録制でね。勝手に捨てたり殺したりすると罪に問われるんです。この国の全てのものは王族の恩寵であるという鉄の掟があるんで。」と答えてくれた。そうかそうか、つまりこの奴隷は買われもしないし、処分も難しい、『買われることを諦めている商品』であり、しかも持っていかれても何ら残念でない商品なのか。なら話は早い。この世界を生き抜くパートナーが欲しい私、この奴隷を何とか手放したい奴隷商、Win-winの関係ということだから、さっさと【ボーンヘッド】で持って帰ってあげよう。この奴隷が実際に役に立つかは分からないが、しかし何となく私には、この奴隷を手に入れる責任があるように感じられた。それは奴隷商へのささやかな手助けのつもりなのかもしれないし、あるいはエルフの少女に同情してるのかもしれない。


「じゃあこの奴隷、持って帰ってあげるよ。」

「本当ですか、そりゃありがたい!他の奴隷はどうされます?お礼ということで安くしますよ。」

「いやお礼は要らないよ。」

「なぜでしょう?」

「欲しいのはこの奴隷だけだからだ。」

【ボーンヘッド】を発動させ、この奴隷を手に入れた。

1人で歩くには、世界はあまりにも広い。一緒に歩いてくれる人を調達出来たのは、この前途多難な異世界生活を少しは楽にするはずだ。


少しでも早く『ノーベル』になるため、この子と一緒に頑張ろうと思った。

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『現代日本で偉人を目指した少女が、異世界で偉人になるべく頑張る話』 トアニ @jkon4778

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