第3話

「君はどうして追いかけられていたんだ?あの少年は友達か?」


「友達ではないけど、一緒に働いていました。何人かで逃げ出したんですけど、追手に追われて僕以外の奴は全員死にました。あの子も一緒にここまで逃げてきたんだけど、力尽きて倒れました」


「どこから逃げてきたんだ?君のような幼い子がやる仕事とは?」


「地下の下水道から。仕事はそこで工事のようなことをしていたてゴミや瓦礫の撤去作業などをしていました」


「なぜ下水道で仕事を?」


「僕みたいな身寄りのない子供は、地下に行けば仕事があって生活ができるって噂が出回っていて。だから生きていくために、僕のような子供は地下に生活を求めて行きます」


「逃げ出そうと思った理由はなんだい?」


「食事は最低限しか出ないし、仕事でミスをすると簡単に殺されます。奴隷のように扱われ死んだら次の子供が来て、また死んだら次と繰り返されるような環境で、遅かれ早かれこのままここにいたら死ぬと思って、何人かで結託して脱出しようと計画していました。ですが、見張りの人が結構多いので逃げ出すことは簡単ではなく、結果追手に見つかり今に至るという感じです。これまで逃げ出した人も、見せしめにみんなの前で殺されてましたので、逃げ出す人は多くはないんです」


「ただの下水工事ではないのは間違いない。そこで子供達を集めてやっている作業の目的は分かるかい?」


「それは分からないです。僕たちは言われたことしかやらないし、必要なことしか教えられませんので」


「そうか。どんな奴がボスか分かる?」


「名前はボルテルと呼ばれていました。黒い仮面を被っていて顔が分からないです」


「黒い仮面を被ったボルテルか。コリー、君はその作業場所まで僕を案内できるかい?」


「できるけど行かない方がいいです。さっきはお兄さんが追手を倒して助けてくれましたが、あそこにはもっと人がいるし、みんなボルテルに怯えていました。強そうな人をたくさん従えているので、きっと相当強い人なのだと思います」


「大丈夫だ。僕はこの国のアルヴァー騎士団。このことを報告して騎士団総出で向かうから安心するといい」



 騎士団総出という言葉を聞いてもコリーは全く安堵した顔をしないので、シュラークはボルテルに対して一層警戒心を強くした。



「コリー、とりあえず君を保護するから一緒に来てもらえないか?大丈夫、君の安全は僕が保証する。だから騎士団全員をその場所まで案内して欲しい」


「……分かりました」



 怯えた表情で渋々了承したコリーを連れて、シュラークは王城に向かうことにした。





 シュラークは団長メラヘルにコリーが体験した出来事を伝え、直接ミリナに説明するよう言われ謁見の間へと来ていた。

 片膝を地面につけたシュラークはミリナへと報告する。



「以上が、このコリーが見た状況です。一刻も早く対処する必要があるかと思います」


「そうね。この話が本当だとするなら急いで対処しないとまずいわね。コリー、そのボルテルという人がどういう人か、どんな些細なことでもいいから知っていることを教えてくれないかしら?」


「は、はい!ボルテルは常に黒い被り物をしているので顔を見たことはありません。そして使えないと思った人はすぐに殺します。周りの人はボルテルが怖くて誰も逆らおうとしません。逆らえば自分がどうなるか考えただけでも怖いから・・・。なので今回僕と亡くなった人達も命がけで脱走しました。僕の知っていることはこんなことだけです。あまりお役に立てなくて申し訳ありませんが・・・」


「そんなことないわ。あなたが命がけで脱出できたおかげで、これから残りの人達を救うことが出来るんだもの」


「だといいのですが・・・」


 最期にコリーが小声で言った言葉は、隣にいたシュラークにしか聞こえなかった。


「メラヘル、アルヴァー騎士団総動員でボルテルを討って。そしてそこで働いている達人を全員保護して連れてきて。急いで」


「かしこまりました」



 メラヘルがミリナへ敬礼をし、シュラークへ顔を向ける。



「お前も急いで準備して来い」



 メラヘルは準備のために早々に謁見の間を去る。



「ではミリナ様、私もコリーと共に準備してきますので、失礼いたします」



 立ち上がり敬礼したシュラークを見て、コリーも慌ててミリナへ敬礼して謁見の間を去っていく。

 そのコリーの後ろ姿を見たミリナは、幼き過去に経験した出来事を思い返し、独り言ちる。



「あのようなことを、二度起こすようなことは絶対に許しません」




 アルヴァー騎士団全員が広場に集まっており、前方に立つメラヘルを刮目する。

 メラヘルは全員を見渡し、声をかけた。



「諸君、今回の敵はあまり情報がなく 敵の数、規模など謎に包まれていることが多々ある。そして地下に根城を築き、力のない者を集めては使い捨ての道具のように扱っていることだけは分かっている。このような凶行は絶対に許してはならないし、我々の強さは決してどのような悪にも屈しない。相手がどれだけ強大であろうとも、我らの勝利が揺らぐことはない。皆の者、行くぞ!」


「おー!!」



 全員が腰に携えている剣を頭上に掲げ、号令の合図が響く。

 地鳴りにも等しい凄まじい光景に圧倒されるコリーを横目に、メラヘルは告げる。



「コリー、道案内を頼む」


 うなずくコリーを見て、メラヘル、シュラークに続いて団員が進軍を開始した。

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