第4話
広大な広間の中央に真紅のカーペット敷かれており、左右の壁際には屈強な男、妖艶な女、フードを被って顔が分からない者、銀色にも似た白髪の長髪に2本の剣を背中に交差して携えている女、女子高生が着るであろう制服のセーラー服に鬼のように角が2本生えている女など、多種多様な者が並んでおり、部屋の奥にある段差の先には座っている者の圧を増すかのような存在感を放つ玉座が鎮座されている。
玉座に近い位置にはアシュリン、セリーナ、クロウフォードなどハデスルノアの居城に向かった6人の姿がある。
見る者が見れば、6人以外のこの場にいる全員がその場に立っているだけなのにも関わらず、感じざるを得ない威圧感を垂れ流し状態で放っていた。
意識して放っているわけではない。
それがかえって相手の力量を測ることのできる者に更なる恐怖感を与える一助になっていた。
ある種の緊迫感が場を支配している中、玉座に座るムーアに向かい片膝をつき、頭を下げている女は報告をしているところだった。
「ターラ、間違いないんだな?」
金髪にボブスタイルヘアーで服装は黒のロングコートに襟を立てている片膝をついたターラと呼ばれた女に、玉座に座るムーアは改めて問う。
「はい、間違いありません。フラタニティの地下にボルテルという男が身寄りのない子供たちを使って何かをしており、そこにアルヴァー騎士団が総員で向かったとのことです。」
「ボルテルとは何者なんだ?」
「元々はドラグザーク国の傭兵をやっていたそうです。現在はある人物から雇われてフラタニティにいるそうで、まずはこちらをご覧ください」
ターラは空間に映像を映し出した。
「この映像はボルテルがドラグザークで傭兵をしていた時の映像です」
そこには鉄で出来たような仮面を身につけ、左右の隆起した腕をむき出したボルテルが敵と戦闘をしている映像が映し出され、その場にいる全員が見ていた。
「早いスピード、鍛え上げられた肉体、強い何かしらの想いが詰まったような力を感じます」
「何かしらの信念がこいつにはあるのだろう。相当に強い信念が。こいつを雇った者がいると言ったな?誰だ?」
「その人物は・・・」
ムーアがその名を聞き、ほくそ笑む。
「よく調べた。さすがだなターラ」
「お褒めにあずかり光栄です」
恍惚とした表情を浮かべながらムーアに頭を下げるターラを見て、一本取られ面白くないとでも言いたげな顔をするアシュリン、セリーナ、ケイリン。
報告を聞き、しばし思案しているムーアを見て広間の後方辺りの壁際に並んでいた1人が声を上げる。
「ムーア様、よろしければ私がすぐにでも首を取ってご覧にいれましょう」
その言葉を聞いた周りの者が我こそはと声を上げ始めた。
「それなら俺も!」
「私が!」
自分こそが手柄を上げるんだと声高らかに叫んでいると怒号が飛んだ。
「静かにしろ!!!」
クロウフォードの怒声に喧騒が一気に鎮まる。
「主、大変失礼いたしました。差し支えなければ騒いでいた者の首を今すぐに狩ってきます」
「やめておけ」
「はっ!」
ムーアに止められたクロウフォードは頭を垂れた。エゴンは後方を睨みつけており、クロウフォードの一声が後1秒でも遅ければ騒いでいた全員の首をはねる気満々の目を浴びせていた。
次騒いだ者は容赦しないと言わんばかりの形相に、先ほど声を上げた者たちが竦み上がる。
「アルヴァー騎士団とボルテルの行く末を静観する。ターラは状況を逐一報告しろ」
「かしこまりました」
報告を終えたターラは踵を返して広間の左右の列に加わった。
玉座から立ち上がり、広間を出ようと部屋の中央をムーアが歩き始めると、左右に並んでいた全員が一斉にムーアに向かって頭を垂れた。
これだけの強者達がたった1人の男に、敬意と尊敬を持って従う姿は圧巻の一言に尽きる光景であった。
■
アルヴァー騎士団はコリーの案内で歩を進めていると、騎士団総出の光景に市民達は何かあったのかと彼方此方で井戸端会議を行っていた。
スラム街の路地裏へ入ると、アルヴァー騎士団の姿を見た貧民達が素早く逃げ込んだ。
捕まったらボロが出るようなことをしているから逃げ去ったのは一目瞭然だが、証拠もなく憶測でしかないのと、今は別の目的があるため追うようなことはせずにコリーの案内に続いていた時、とあるマンホールの前でコリーが止まる。
「ここから僕は出てきました」
コリーは自身が出てきたマンホール前で止まり、ここから出てきたことをメラヘルに伝える。
「案内ご苦労。シェラーク」
「はい!」
メラヘルはシェラークを呼ぶ。
「全員が入るには狭すぎる。お前が半分の隊を率いて中に入り、コリーと共に進め。俺と残りの者は時間を空けて中に入る」
「かしこまりました」
「中は相当暗いだろう。どういうルートか皆目見当もつかない。気をつけろよ」
メラヘルの指示を聞いて頷くシェラークは、隊の半分を率いてコリーと共にマンホールの中へと進む。
「コリー、案内頼んだぞ」
「は、はい」
「みんな、しっかり付いてくるんだぞ。周りの警戒も怠るな!」
シェラークの指示に返事する隊員を横目に、コリーは自分が進んできた道を案内していく。
灯りがあるのだが、かなり距離が離れた間隔での設置なので視界は決していいとは言えない。
「コリー、僕が離れずに傍にいるから安心してくれ」
怯えながら歩くコリーを見たシェラークは、少しでも安心させるように自分が傍にいることを伝える。
シェラークの優しい言葉遣いに、張りつめていた緊張が少しほぐれたのか、はたまた気を紛らわすためなのか、コリーはシェラークに気になっていたことを告げる。
「あの、シェラークさんってなんで騎士になったんですか?」
「僕が騎士になった理由?」
「はい。僕はずっとこの地下でしか生活をしてこなかったので、騎士という誰かのためになるような仕事をしている人に興味があって」
「そっか。僕はね、コリーと同じように元々は身寄りのない子供だったんだ」
シェラークは自身が騎士になった理由、そして騎士になるまでの道のりがどういうものだったのかを語り始めた。
「コリーも地上でこの道を通ってくる道中で、この路地裏のスラム街の人々を見ただろ?家もなく、食べる物もなくてじっと座るだけの人々を」
「はい」
「僕も元々はスラム街の人間だったんだ。運がよくて養護施設には入ったんだけど、それもミリナ様のおかげなんだ。ミリナ様が倒れている僕を拾ってくれてね。親の顔なんて当然知らないし、毎日なんで自分は生まれてきたんだろ?なんで生きてるんだろ?そんなことを考えて、虚無感で満ちた惰性で生きている人間だったんだ。僕は自分を救ってくれたミリナ様の力に少しでもなりたいと思って、ミリナ様の護衛騎士になりたいと思ったのがきっかけで鍛錬を始めるようになった。1人で黙々と木の棒で素振りしてたよ。その姿を見たミリナ様が、お付きの騎士に僕を指南してあげるようお願いしてくれて、騎士募集の知らせを聞いた時に真っ先に応募したんだ。そして今がある。ミリナ様はこの国の貧困を何よりも解決しなければいけない問題だと考えていて、1人でも多くの人を救いたいと思っているんだ。だから施設にも定期的に顔を出してくれていた。この現状からも分かるように、問題はまだ解決していない。かと言って、一気に全員を救うことも出来ない。でも少しずつでも、1人また1人と貧困に苦しむ人を救っているんだ。そして生きて行けるように、自立できるように仕事をあてがう。僕は騎士の素質があると判断されて騎士になった。アルヴァー騎士団の何人かもミリナ様に拾って頂いた者がいるよ。僕はそんなミリナ様を守りたい。力になりたい。だから騎士をやっているんだよ」
「シェラークさんはミリナ様が好きなんだね!」
コリーは屈託のない笑顔を見せて言う。
「な、なんてことを言うんだい!?」
「シェラークさんも焦ることあるんだね」
他愛のない会話を繰り広げていると、突如後方から爆発音が鳴り響いた。
「コリー!」
シェラークは慌てて爆風からコリーを守るように胸元へと抱き寄せる。
轟音が鳴り止み、爆風が過ぎ去ると今度は銃撃の音が鳴り響いた。
先ほどの爆発に巻き込まれたのか、銃撃でやられたのか、何人かは絶命しその場で倒れ伏している。
「コリー!僕の背後に隠れているんだ!」
「はい!」
シェラークはコリーを背後に、隠し後方に向き直って剣を構える。
後方にいた他の騎士達も既に剣を構え、銃撃を斬り避けて敵に向かって進んで行っていた。
敵の数が相当多いのか、銃撃が鳴り止む気配はなく、絶え間なく鳴り響く弾丸の嵐はシェラーク一行を襲っていく。
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