第3話

「大丈夫かいな?」


「何処をどう見れば大丈夫に見えるッ!!?」


「あ、大丈夫ちゃうんか」




 あわてて男騎士を持ち上げようとし、そして余りの重さに腰が死ぬ。

 より簡単に言えば、男騎士を地面に落としてしまう。

 そして、男騎士の股間の先にはまたもや丁度いい具合の石が埋まっており。




「あ゛ッ♡」




 悶絶、もしくは気絶。

 つまり男の命ともいえる金のタマから伝わる激痛が全身を駆け巡り、騎士の強靭な精神を震わせ気絶させた。

 二度目は悲鳴も上げない、というより上げる暇もなく白目をむき体を痙攣させ泡を吹く。

 顔は青白いを通り越して、もはや死人のソレ。

 南は声を上げて、こう叫んだ。




「コイツ、金玉打って気絶しよったッッツツツ!!!!?」




 その声に、周囲にいた紳士淑女老若男女の視線が。

 主に半分侮蔑、半分憐れみの視線が集まったのは告げるまでもない話だ。




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 男騎士は目が覚める、そこには覗き込む二人の顔があった。

 一人は南だ、間抜な顔面ではあるが心配そうにのぞき込んでいる。

 もう一人は女性であり、男騎士はその顔をみて即座に誰であるのか理解した。




「……、ジュリエッタか」


「中々、良い一物を持ってるのね」


「…………」


「うわっ、急にガンつけんなやっ!!? というか急に起き上がっても大丈夫なんか? タマ痛ぉないんか?」




 アッハッハ、そう横で爆笑するジュリエッタと呼ばれた女性の脛をつねり上げ。

 ついでに南の頭に、軽くこぶしを振り下ろす。

 そして、男騎士は首を振りため息を吐いた。




「痛いに決まってるだろう……、何か。それこそ苦渋草などは無いか? 最悪、茎でもいい」


「良かったねぇ、丁度勇者の1人に作らせてるところさ。とびっきりの、ニガ汁をね」


「……いや、葉か茎でよいのだが……」


「安心しな、あのニガ汁は意識もろともぶっ飛ばしてくるよ」




 クックック、そう笑うジュリエッタの顔を見て徐々に青ざめていく男騎士。

 ニガ汁、そう呼ばれる薬物は痛み消しの薬として知られてるモノだ。

 鈍痛、長く響く痛みを余りの苦さで忘れさせるというコンセプトで作られた粥の一種であり余りにも苦い。

 それこそ、一度作れば一日は動物が寄ってこないほどだ。

 其のためか、獣除けの薬としても知られている。




「やめてぇや、意識を飛ばされたらオレがなんも教われへんなるやんか」


「ハッハッハ、安心しな坊や。この男は根性だけは一流でねぇ、凡才のくせに王族特務まで任されるほどの堅物だ。その程度の薬で気絶するわけもないよ、まぁきっとだけどね」


「ほな、ええか、よろしく頼むわ、上手い具合に治したってくれ」


「おい、貴公は私の味方なのか? それとも敵なのか?」




 ほとほと困った顔でそう告げる男騎士、そんなものを飲まされては暫くはまともな食事を味わえないだろう。

 食べても食べても、それこそゴムか土塊を食べてるような感触しか得られない。

 それほどまでに苦いのだ、ニガ汁というのは。

 眉間に深く皺をよせ、漂う匂いを察知する。

 独特な、甘ったるさと腐敗臭を混ぜたようなにおい。

 ニガ汁の、匂いである。




「なんや、随分と臭っさいなぁ? 誰かがゲロでも吐いたんか?」


「戯け、アレがニガ汁の匂いだ」


「えぇ!? 随分と臭いでッ!!? 例えるとしたらアレや、10年間放置した飲みかけの牛乳やッ!!」


「コレはまた、具体性に欠ける……」




 男騎士は呆れて肩を落とし、再び首を上げた。

 扉が開いた、誰か入ってくる。

 ギィィ、扉の金具が擦れ合う音と共に入ってきたのは彼女。

 南の同級生の、料理上手の家庭系ぽっちゃり巨乳女子である相楽 朋美さがら ともみだ。

 彼女は満面の笑みでドス黒い液体が入ったを南へ見せてくる。

 言うまでもないが、コレがニガ汁だ。


「あ、南くん。三日間見なかったけど何してたの? みんな色々やってるよ?」


「あー……、まぁなんちゅうか。色々あってんや、あんまし気にせんといてくれ……」


「そう? まぁケガしてなくて何よりだね。南くんも、コレ食べる?」


「流石に遠慮させてくれや、見るからにヤバいやんけ。そんなん食うたら戦う前にコロっと死んでまうわ。そもそも医薬品やろ? オレに勧めて大丈夫なんか? 材料の個数とか限りあるんとちゃうん?」




 南の心配を、朋美は笑って受け流す。

 ニガ汁の原材料は基本的に野草、それも毒のない代物が殆どだ。

 つまりは、ただただ苦いだけのスープなのである。




「大丈夫大丈夫、それで食べるの?」


「遠慮したるわ、その代わりこのおっさんにその権利を渡してやってくれ」


「分かった、という訳でどうぞ」


「いや、私も要らないのだが……?」




 そういって、彼女は満面の笑みで男騎士にさしだした。

 男騎士は、股間の痛みを紛らわすためにも其の言葉を断れるはずもなく渋々手を付け。

 最後に、彼が目覚めたのは翌朝であり。

 そして彼が嫌いなものとして、ニガ汁を上げるようになったとここに記そう。

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