第2話



「はァ!!? 金的せぇって!?」




 地面から立ち上がり大声で叫んで、全力で驚きを示す南。

 男騎士は、眉間に皺をよせ難しい顔をする。

 股間を蹴り上げろ、などといえば確かに南の驚きが正解だろう。




「……あまり、大きな声で言うな」


「そんなんやって何になんねん!? お前が痛いだけちゃうんか? 頭大丈夫か?」


「クッ、貴公のために提案したというのに……ッ!! 何という屈辱ッ!!」


「というか、何でそんなことせにゃあかんねん」




 非常に不服そうに男騎士は首を振り、南は心配そうに手を広げる。

 発言の内容だけを切り取れば、ドМにしか聞こえない。

 だが、理由もなしにこんなことを言う訳もない。

 当然、男騎士にも理由があっての発言だった。




「分かっているとは思うが、レベルを上げるには経験値が必要なのはわかるな?」


「確かにゲームでも経験値が必要なモンもあったなぁ、よう知らんけど」


「知らないのか?」


「いや、知っとるけど?」




 キョトンとした顔で平然と言い返す南の顔をみて、怒りと呆れが混在する男騎士。

 南に悪意がないのは分かっている、分かっているのだがこうも話の腰がおられては怒りが沸き上がるという話だ。

 はぁ、深く息を吐き興味津々に見つめてくる南に言葉を紡ぐ。

 眉間によった皺をほぐし、冷静さを保ちながら。




「分かってるのなら話は早い、私のレベルは50を超えている。これだけの差があれば、急所を攻撃することで十分な経験値を得られるだろう」


「なるほど、大体わかったわ!!」


「本当に分かったのか?」


「大体わかった言うとるやろ?」




 自信満々にこぶしを突き上げる南に、男騎士は半信半疑で尋ねる。

 だが胸を張って、肯定する南をみて残る説明を放棄した。

 分からなければ、一々尋ねてくるだろう。

 そうなったときに説明すればいいだけのこと、男騎士はそう飲み込み息を吐く。




「少し待つといい、ゴールデンカップを外す」


「……、もうちょい名前は何とかならんかったんか?」


「私に言うな、そんなこと」


「金のタマを守るからゴールデンカップとか糞ダサいやんけ、ナッツカップとかあるやろ」




 南には50歩100歩という言葉を贈ろう、どちらにせよダサいのには変わりないのだ。

 それに気づいたのか、南もしばらくして黙る。


 鎧を脱ぐためガチャガチャしつつ、軽く物陰に隠れた男騎士に南は質問をする。

 どうせ脱ぐ間は暇なのだ、ならば聞こうに聞けなかった話を聞いてしまおう。

 そう考え、質問を始める。




「というか、あの神サマは罪禍の王とか言ってたけどなんやねんソイツ。RPGで言うところの魔王なんか? ほら、この世界を支配しようとかって言う」


「……いや、そういうのではない。だが、言葉にするのも難しいな。簡単に言えば『人間の原罪』を抱えた存在だ」


「原罪? ソレっていうのは知恵の実を食うたとか言うやつか?」


「其方の神話とは一切の関係がないから安心しろ、この世界で生まれた概念だ。説明をしたいが、そのために何処から説明をすれば良いのかが分からんな……。順序立てて、最初から説明しよう」




 一端、口を閉じ。

 男騎士は脳内で情報を纏めて、そしてまた口を開く。

 国境問わずこの世界に伝わっている、伝説を。




「先ず聞くが、貴公は罪を犯したことはあるか?」


「それはどういう? 信号無視とかはしたことあるけど」


「そういう話だ、例えば虫を殺したり例えば約束を破ったり。そういう些細な罪から、人殺しや放火などもだな。我々は意図、無意図関わらず罪を犯す。この世界に生れ落ちる魔物は、我ら人間が行った罪に対する罰として形となって生れ落ちた存在だ」


「なんや、その怖い話は。というか、何処のどいつが罪とか決めとるんや」




 南の言葉に片を竦め、男騎士は返す。

 男騎士にとってはそう言う物でしかない、それ以上のことを知らないと言い換えてもいい。

 だからこそ、南の質問を切り上げて肩を竦めることで返事とする。


 南は男騎士の動きを見て、それ以上に質問することを辞めた。

 実際に無駄でしかない、という事が理解できたのだ。

 彼もまた息を吐き、話の続きを促す。




「魔物というのは、些細な罪から重大な罪まで。あらゆる罪に対する人類への罰として生れ落ちる、特に迷宮などで発生するのだが……。つまりは魔物というのは我々、が生きるうちに行う罪に対する罰の具現なのだ」


「なるほど」


「『罪禍の王』とは、この世界に生きる全ての人間が背負っている原罪に対する罰だ。それゆえに強大で、この世界の人間では倒しえない。だからこそ、貴公らを呼び倒してもらう」


「大体わかったわ、って言うてもまだまだ気になるところはあるけどな?」




 男騎士は南の言葉を聞かず、鎧を脱いだ姿を見せる。

 中に来ていた装備もすべて脱いだようだ、剣の一つも持っていない。

 そのまま、ガニ股で立つと呼吸を整える。

 蹴られる覚悟を整えている様子だ、金玉を蹴られる覚悟を。


 蹴られた時の衝撃をイメージし、南も眉間に皺を寄せる。

 自分の股にぶら下がるソレ、蹴られればどれほど痛いのか。

 若干沸き上がる冷や汗を拭い、男騎士に確認する。




「良いんよな? 蹴り上げんで?」


「……、ああ。一向にかまわん、全力で蹴り上げろ。そうでなければレベル上げには、ならんからな」


「ほ、ほんまにいくで? 嘘ちゃうで!!」




 一息、次の瞬間に南の足が男騎士の股間に突き刺さる。

 足に感じる重さ、次に男騎士の体が震え。

 そして、地面に転がりのたうち回る。


「ぬ、のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 絶叫、叫び、真っ青になりながら地面にのたうち回る男騎士。

 嫌に感じた感触と、男だからこそ分かる絶望感。

 ソレを、ヒシヒシと感じながら南はステータスを見る。

 そこには、1レベル上昇した自分のステータスがあった。

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