第2話 芸術作品

 珍しく元旦に爺さんの元へ一家で訪れた。何やら機嫌が悪い。赤ら顔で炬燵こたつに入り、お猪口ちょこの酒をあおっていた。

「……学会は有意義だったが、お土産が台無しだ。芸術作品に何たる仕打ち。全く許せん検査だよ」

 茹でだこ状態になっても酒を呑む手が止まらない。ずらりと並んだお節に目もくれず、自分がたこの一品とばかりに呑み続けた。両親はどちらも苦笑いで、仕方ないですよ、となだめた。

 話の全容が一向に見えてこない。具体的な内容を嫌い、わざとぼかしているように思えた。

「なんの話?」

 焦れた私がくと爺さんは天板に手を置いて立ち上がった。ふらふらした状態で納戸に入ると雑誌を手に戻ってきた。

 その直後、私に向かって中を開いて見せた。

「これだよ。酷いにも程がある」

「ちょ、ちょっとお義父さん!」

 母親が慌てて立ち上がる。それもそのはず。全裸の金髪女性がでかでかと写っていた。魅惑的な笑みで股間に焼き海苔を付けていた。よく見ると黒く塗り潰されているようだった。

「僕は医者なんだよ。女性の裸は見慣れている。これは芸術作品で観賞用なんだ。どうして空港の奴らはそれがわからないのか」

「お義父さん、わかりましたから」

「わかればいいんだ。本当に頭が固い困った連中だ」

 爺さんは開いていた頁を閉じた。私の感想としては、ただのエロ本じゃん、となるのだが口にしなかった。お年玉を貰っていないので笑顔で流した。

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