第七章 隣の優等生は、看病したいっ

第35話 学級閉鎖

「いすゞさん、大丈夫ですか?」


 熱を出したあたしは、桃亜ももあの家で面倒を見てもらっている。


「実家で看病してもらうから」と断りを入れたんだが、「店をやっているから」と桃亜があたしを自分の家へ連れ帰ったのだ。


 キャンプの翌日が、日曜でよかった。おかげで熱も引き、だいぶ身体もマシになっている。


「そこまで責任を負わなくても、いいんだぞ」


「別に、自責の念に駆られたから、看病しているわけではありません」


 桃亜が、熱冷まし用のシートを貼り替えてくれた。


「そうなん?」


「さっき連絡が入って、学校も閉鎖されてしまったそうです」


「マジで?」


 どうも最近、学校レベルで風邪が流行り始めていたらしい。


 あたしのクラスも、数名がカゼで寝込んでいるという。

 二日ほど、学級閉鎖を行うんだとか。


「人によっては、流行病を併発した人もいるみたいですね」


「ちょっと流行の時期が、早いような気がするけどな」


「一ヶ月ほど、早いですね。ですから、わたしを助けたせいってわけでもないようです」


 あたしも、どこかでウイルスをもらってきていたんだろうな。ひき始めの段階で、まだ症状も軽かったので、よしとするか。


「一度診てもらったほうがいいのですけど、歩けますか? なんでしたら、おぶって病院まで」


「平気平気。あんがと」


 桃亜といっしょに一旦家に帰って、保険証を持った。


 病院で診てもらう。

 

 まあ、軽い熱が出る程度で、食欲はある。そこまで問題があるわけじゃないとのこと。

 ただ風呂は、やめておいたほうがいいみたい。

 

「じゃあ、体を拭きますよ。まだ、お風呂はやめておいたほうがいいって言われましたし」

 

 桃亜がオケに入ったタオルを取り出して、絞る。


「じゃあ、上着を脱いで、背中を向けてください」


 あたしは、パジャマを脱いだ。


 温かなタオルが、背中に当たる。


「おおう」


「かゆいところがあったら、言ってくださいね」


「大丈夫。問題はない」


 背中を拭かれながら、あたしはモジモジした。なんか、くすぐったい。


「拭いてほしいところとかは、ありますか?」


「特にはないかな?」


 ただ、もうちょっとだけこうしていたいかも。


「前も拭きますので」


 桃亜が、あたしを全裸にしようとした。


「こっからは、自分でやるっ。タオルを絞るだけで頼むっ」


 同性なのに、変に意識してしまう。

 

「そうですか? わかりました」


 桃亜はタオルを桶につけなおして、絞る。

 

「では、お昼の用意をしますので。食べられますか?」


「大丈夫。食欲は問題ない。ていうか、なにか腹に入れたい」


 病院の帰りでも、病人だということも忘れて、ファミレスに入りかけた。

 相当、病んでるな。身体は回復しつつあるが、頭が働いていない。


 あたしは全部脱いで、全身を拭き始めた。

 背中以外なら、自分でもできるだろう。


 用意してもらった、替えの服に着替える。


「ややコゲ臭い匂いが」


「あああああ」


 桃亜が、慌ててコンロの火を止めた。

  

「すいません。おかゆを作っていたら、炊き込みご飯みたいにオコゲが」


 硬めのおかゆを作ろうとしたら、水が足らなかったという。


「いいって、いいって。文句は言わんよ」


 あたしは、手を貸さない。

 桃亜のがんばりを、否定してしまいそうなので。


 あちらから手伝ってほしいと言ってくるまでは、手を出さない。


「お、おまたせしました」

 

 一人用鍋に入った、少しコゲているおかゆを、桃亜がテーブルに用意してくれる。


「でも、うまそうじゃん」


「ですが、いすゞさんの作ったものと比べたら、雲泥の差でして」


「こういうのは、人と比べるもんじゃないっしょ」


 小鉢にすくって、いただきます。


「うまい! ちゃんとうまいよ!」


 味は、しっかりしている。オーソドックスな卵粥ではあるが、味が整っている。塩をあまり利かせていない分、漬物の味が引き立ってうまい。


「塩昆布との相性が、最高だ」


 ときどき塩昆布を挟んで、また漬物に。


 酸味と塩気が、身体に染み込んでいく。


 悪いところを修復してくれているのが、よくわかった。

 

「このオコゲが、またいい感じだな」

 

 オコゲを、ザックザックと噛みしめる。


 コゲが逆に、噛み応えがあってよい。


「そんな。失敗したおかゆで満足していただけるとは」


「失敗なもんか。オコゲの粥は、実際にあるからな」


 韓国には、オコゲからおかゆを作る文化もあるし。レシピも、サイトに載っている。


「あれは、最初からオコゲのついたおコメを使うから、おいしいのであって」


「でも、これもうまい。うん。うまい」


 うまいしか、言葉が出ない。ホントに、身体が欲していた味だ。


 朝からゼリー食ばっかりだったから、こういった噛む固形物が欲しかったんだろうな。飯を食っている、って感じがしていい。


「ごちそうさま。うまかった!」

 

「なんでしょう、いすゞさんの食べているところを見ていると、わたしまでお腹が空いてきました」


「オコゲの粥、食ってみたいか?」


「そうですね。意識的に作れたら、楽しそうです」


「見てやろうか? 暇だしな」


「はい。ですが、お手伝いは無用です。自分で、作ってみたいので」


「よっしゃ」


 あたしは、おかゆの出来栄えを監督することに。

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