第36話 友だちの家へ、お見舞い
熱が下がった! 身体も軽い。正直、いつも以上なのでは? と思わされる。
しかし、学級閉鎖になっている以上、学校には行けない。
「習い事などは、基本的に禁止されてはいませんね。しかし、不要不急の外出は避けること、と校則には書かれています」
「バイトする?」
しばらく桃亜は考えていたが、首を振った。
「今は特に、急ぎの注文はありません。いつもどおり、夕方に発注があるはずです。それまでは、家でおとなしくしておこうかと」
「おっけ」
ノノにも、連絡を入れてみるか。
「起きてるか、ノノ?」
「いすゞ? ゴホゴホ。ウチは今、カゼひいたよ~」
元気そうではあるが、ノドの調子は悪そう。
どうやら、友だちにうつされたんだとか。
「ウチはしばらく、家でじっとしてるよ~」
「わかった。見舞いに行くから待ってろ」
「ごめ~ん。面倒かけるね~」
「いいって。こういうときは、お互い様だろ」
「ありがとね~」
「おー。じゃあ待ってろ」
あたしは、スマホを切った。
「ノノがカゼ引いたって」
「では、なにか消化にいいものを買っていきましょう」
「だな!」
としたら、あそこだな。
あたしたちは、商店街の方へ向かう。
目指すは、プリン!
カゼ引いているときのプリンって、どうしてあんなにうまいのだろう?
桃亜が買ってくれたところのプリンが、すさまじくうまかった。
「こちらです」
あたしは桃亜に連れて行ってもらい、洋菓子店へ。
プリンしか売っていない。
「最近、商店街にできたそうですよ」
「これだよ。牛乳瓶に入ったプリン!」
普通のカラメル入りプリンだけじゃない。コーヒー牛乳味や、いちごミルク味なんてのもある。
あたしは早速、人数分購入した。インフレの影響で多少お高かろうが、関係はない。こういう名産に投資しないで、なにが投資か。
「ほら食え。桃亜も」
あたしは、包みを桃亜に押し付けた。
「いすゞさん。わたしの分まで。ありがとうございます」
牛乳瓶プリンを受け取って、桃亜が恐縮する。
「いいってことよ!」
看病してくれたんだ。これくらい、どうってことない。
それにしても、いい香り。プリンだけで勝負するって度胸も、すさまじいな。
「モールで出しても、売れるのではないですか?」
桃亜が、店員に質問をした。
「あっちは最近ねぇ、絞ってきてるんですよねぇ」
どうも、モールのテナント料が、恐ろしく跳ね上がっているという。
インフレの波による打撃は、商店街だけではない。モールにも着々と及んでいた。
このまま、景気が良くなってくれたらいいけどね。
スーパーでスポドリとおかゆのパウチを買って、ノノの家に。
つっても、すぐ近くなんだが。
あたしたちがたどり着いたのは、ビルである。
一階コンビニ、二階が法律事務所、三階がネコカフェ、四階は学習塾だ。
今回、あたしたちが向かうのは、地下である。
「ここ、なんですか?」
「ジャズバー」
あたしが教えてあげると、桃亜が「ほえー」と驚く。
「お邪魔しまーす。おばちゃーん、ゆい、起きてますかー?」
「ええ、いるわよ」
線の細い女性が、カウンターからこちらに手を振ってきた。朝なのに、酒臭い。
「こちらの方が、ノノさんの」
「そう。ノノのおばちゃん。ジャズバーを運営してるんだよ」
どうやらノノのおばちゃんは、カウンターでお客と相談ごとをしているみたいだ。早々に、引き上げるか。
「あらどうも」
「あっ」
桃亜が、マダムにペコリをあいさつをする。
「こんにちは。えっとオーナーさんですか?」
あたしも、頭を下げた。
「そうなの。尾村さんところのお嬢さんよね。よろしくね」
恰幅のいいマダムから、握手を求められた。
あたしと桃亜も、手を差し出す。
「お見舞いに来ました」
「ありがとう。ゆいはまだ寝てると思うから、行ってあげて」
「はーい」
あたしたちは、奥の方へ。
本当は地上からでも、ノノの家には直接迎える。とはいえ、おばちゃんにあいさつはしておきたかった。
商店街の一部のビルと民家は、地下通路で繋がっている。商店街がまるまる火災に遭ったとき用に、避難経路になっているのだ。
おそらく、さっきのマダムのアイデアなんだろうな。
鉄製の非常階段を登って、ノノの家に。
ノノの実家は、昔ながらの古民家である。「
「おお~。来てくれたん?」
チャイムを鳴らすと、ノノはすぐに出てきてくれた。
二階へ通してもらう。
「すごい数のお面ですね」
「じいちゃんが、古典芸能やってるよ~」
おばあちゃんが、お花をやっているんだっけ。
「でもオヤジは、ママの影響でジャズにハマっちゃってさ~」
ノノがあはは~と笑う。
「大ゲンカしたけど、結局情熱は止められねーっつって、ジャズバーを運営し始めたんだよ~」
ちなみに、ノノの両親の仲人こそ、あのマダムさんだったとか。
木の階段を、ノノといっしょに登る。
ギイ、ギイと、木のしなりが小気味良い。
「おおおほおお」
桃亜が、うめき声を挙げる。
アニソンアーティストのポスターが、ノノの部屋にはビッシリだ。
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