第26話 文化祭当日
舞台の脇で、
「すごいわ、
桃亜の提案のおかげで、佐々木さんも満足げだ。
金銭感覚から姫様の性格を分析して、自分のものにするとは。
桃亜は普段から、終業後に仕事をしている。だからこそ、経済観点からキャラを掴む術を学び取ったのだろう。
いかにも桃亜らしい、キャラの掴み方だ。
「ありがとう、歴史的な背景からシェイクスピアを学び直すなんて、貴重な体験だったわ」
「こちらこそ。知らないことを学ぶ喜びを再確認しました」
あとは、本番を待つばかり。
「どうしましょう、いすゞさん。実際舞台に上がるとなると、やはり緊張しますね」
顔を隠しながらも、どうにか
「しょうがないさ。あたしも、いっしょだ」
「ミスがないように、がんばりますっ」
「家族は?」
あたしが聞くと、桃亜が舞台袖から観客席を覗く。
「来ています」
「ウチもだ。結構前列に陣取ってる」
「うう。やっぱり怖いですね」
しかし、桃亜はまだまだカチコチだ。
「うまくやって帰ったら、唐揚げを作ってやる」
舞台袖で、あたしは桃亜を元気づける。
「唐揚げですか! いいですね」
さっきまでビクビクしていた桃亜が、急に明るい表情に。
実はもう、唐揚げの準備は事前にやっている。今は、下味をつけているところだ。帰ったときには、かなり味が染み込んでいるはず。
「やろう。桃亜。アンタができるってこと、見せてやろう」
「はいっ」
桃亜がリングインするかのように、ノッシノッシと階段を駆け上がる。
「おいおい、桃亜。姫様姫様」
「そ、そうでしたね」
あたしに呼び止められて、舞台に出ていく直前にヒロインオーラを放つ。
控えめに言って、桃亜の演技はすごかった。哀愁というか、優雅というか。振る舞いが、他の演劇部に負けていない。
姫様の性格を金銭感覚から掴んでいくという、独特の練習法が活きていた。
これは、あたしのほうがシャッキリしないとダメだ。そう思わされた。王子様だから、あたしのように料理なんてしないよなあ。
あたしが出ていくと、「おおおお!」と、観客がどよめいた。
そんな、驚くような状況かよ? ドレス姿の桃亜と、ダンスするだけだぞ。
「いすゞさん、すごいです。出てきただけで、観客をトリコにするなんて」
小声でボソッと、桃亜が告げてきた。
「衣装が破れて下着が見えてるんじゃないかって、勘ぐっちまった」
社交ダンスを踊りながら、あたしも返答する。
「大丈夫です。勇ましいです。いすゞさんは、もっと自分の魅力に気づくべきですよ」
「そうかねえ?」
たしかに中学時代、女子からチョコもらったりしているけど。
舞台は、滞りなく終わった。
最後まで、桃亜は緊張がほぐれた状態で、演技ができたようである。
芝居の後、観客にお辞儀ができるくらいまで、意識もはっきりしていた。
「お疲れ様」
佐々木先輩が、あたしたちを迎えてくれる。
「さて、お嬢様がた。その格好のまま、メイドカフェへどうぞっ」
佐々木先輩に連れられて、あたしたちはこのまま佐々木先輩の教室へ。
ドレスの桃亜と軍服のあたしを見て、ギャラリーがどよめいている。
ウチのクラスのジュース屋台も、見えてきた。
「いすゞ~っ。こっちは大丈夫だから、色々回っておいで」
ノノが、エプロンを巻いている。今から、交代で屋台に入るようだ。
「おーう。ノノ! そっちは頼む。午後から交代するから!」
「楽しんできなよ~」
ノノに見送られながら、廊下を歩く。
ここでも、客たちの視線がこちらに集中した。
「みんな。主役のご来店よ!」
佐々木先輩の合図で、メイドさんが集団でお出迎えしてくれた。
「おかえりなさいませ。王子様。お姫様」
ロミジュリだから、死んだんだけどな。
メニューを渡されると、桃亜は速攻で「オムライスを」と頼んだ。
あたしも、同じものを頼む。
「よく考えたら、本物のメイドカフェでオムライスを食べたことがありませんでした」
「といっても、ここも本格的じゃないけどな」
「それでも、ありがたいです。一度、メイドさんが作ったオムライスというものを口にしてみたいなと思っていたいんです」
ケチャップでイラストが描かれたオムライスが、やってきた。
「いただきます……ちゃんと、おいしいですね」
「味は、しっかりしてるな」
ケチャップを入れて炊いた、ピラフタイプか。でもちゃんと味がついていて、うまい。
卵もフワフワだ。
よそのテーブルだと、アフタヌーンティーセットを頼んでいる人もいた。といっても、市販のアソートを三段積みのトレーに並べているだけだが。
「食えそうなら、頼んでみるか?」
食後のコーヒーを飲みながら、あたしは桃亜に聞いてみる。
「ああいうのもいいんですけど、今日は屋台をハシゴなので。色々回りたいです」
オムライスをおいしくいただいて、次の店へ。
「ご両親にあいさつしてこなくて、いいのか?」
「そうですね。連絡します」
桃亜が、スマホを手に取る。
「二人だけで楽しんできなさい、って言われました」
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