第27話 ご両親にあいさつ

 屋台の交代時間まで、あたしたちは文化祭を回ることにした。


 桃亜ももあが最初にリクエストしたのは、フランクフルトである。


「おっきいですね、いすゞさん」


「カラシをつけ過ぎじゃないか?」


「これがおいしいんですよ」

 

 デローンとした巨大なフランクに、桃亜はかぶりつく。


「おふぉ! 最高です、いすゞさん! いっぱいカラシをつけてみてください。粒マスタードなので、そんなに辛くありません!」


 ホントかよ、と思いつつ、あたしもいただいてみる。


「うまっ。粒マスタードうま!」


 結構な値段がしたが、それに見合う激ウマ屋台飯だった。


 続いて、どこへ行こうか。


「お団子がありますよ」


 みたらし団子の屋台を、桃亜が見つけた。


「いただきます……これは!」


「うまいか?」


 あたしの問いかけに、桃亜はうなずくだけで答える。言葉にならないうまさのようだ。

 何も聞いていないのに、桃亜はずっと何度もうなずいていた。


 あたしも食べてみる。


 たしかに、こたえられない。


 二人でシンクロうなずき状態に。


「わなげをしましょう」


 食事休憩を挟んで、わなげのコーナーへ。


 九マスの的を狙って、ビンゴを作るたびに景品がもらえるみたいである。


 桃亜は、ひとつしか入らなかった。


「よしよし。あたしがカタキとったらぁ」

 

 あたしが挑戦すると、ビンゴができあがる。


 景品に、小分けのみぞれ玉をもらった。こちらは桃亜に。


「ほむ。うむ。いすゞさんが食べたらよかったですのに」


「あたしはいいんだよ。次に行こう」


 他にもチーズハットグ、クレープ、パンケーキなどを回る。

 

「おでんがある!」


 あたしたちは、おでんの屋台を見つけた。


「しかも、中で食べられますよ!」


 これはいい。歩き疲れていたから、ちょうどよかった。


 桃亜は、おでんにカラシを大量につける。


「大丈夫なのかよ?」


「平気です。偉い人は、『おでんというのは、カラシをおいしくいただくための食べ物だ』と語っていますからね」


 たっぷりカラシを塗った大根を、桃亜は大口で食らいつく。しばらく噛んでいると、ビクンとなった。


「大丈夫かよ!?」


「平気ですっ。これくらい刺激が欲しかったのです」


 楽しい文化祭も終わりが近づき、あたしたちは自分たちのクラスがやっている屋台に。


 インド式かち割り氷ジュースは、もう三度目の仕入れも間に合わないほどだという。寒いのに、かち割り氷ジュースは人気らしい。珍しかったのかな?


 あたしたちは午前中に舞台があったので、クラスの模擬店接客は最後あたりでいいとなっている。


「おかえり~。お前ら、めちゃ目立ってたよ」


 ノノが、あたしたちの格好を見てニヤニヤする。


「ん……!?」


 あたしは、自分の姿に驚愕した。


 まだ、舞台衣装のままだったのである。


 やっちまった。食べ物のシミやらなんやらが結構飛んで、汚れてしまっている。借り物なのに。


「あとでシミ取りをして、お返ししましょう」


「その前に着替えようぜ」


 演劇部に、制服を返してもらわないと。


「いいじゃん。このまま接客してよ。人がめっちゃくるよ」


「ハズいわ!」


「でも、似合ってるよ。そのままでいなよ」


 ノノが、エプロンをあたしに渡す。


 演劇部へは、ノノが連絡してくれるそうだ。


 あたしと桃亜は、ロミジュリの格好をしたまま接客をした。


 ジュースを提供すると、「ひゅあああ!」と黄色い声が上がる。


 繁盛しているなら、いいか。


 あたしの家族が、ジュースを買いに来た。


「芝居よかったぞ!」


「姉ちゃん、かっこいい!」


 父と弟が、あたしの格好を見て喜んでいる。


「こ、こんにちは」


 弟が、恥ずかしげに桃亜にあいさつをした。


「こんにちはっ。今日は見に来てくれて、ありがとうございます」

 

 桃亜が、弟にジュースを渡す。


 照れくさそうに、弟はペコリと頭を下げた。


「おめえ、だめだよ。この子は、姉ちゃんのお嫁さんだからね」


「わかってらあ。このお姉さんが、姉ちゃんとなかよくしてくれているのかって思ったら、妄想がはかどっちゃって」


「あら~」


 母が、弟をからかう。


「んじゃ、店に戻るから」


「おう。気を付けてな」


 うちの一家が、帰っていった。


 入れ替わりで、中年の二人組が、ニコニコしながらこちらに近づく。


「あ、お父さんにお母さん!」


 桃亜の顔が、明るくなった。


 この二人が、桃亜の両親なのか。


「こんにちは。桃亜の父です」


「母です。どうも」


 おみやげ持参で、桃亜のご両親があいさつをしてくれた。

 

尾村おむら いすゞです」


 頭を下げ、ジュースを桃亜のご両親に。


「尾村さん。いつも娘と仲良くしてくれて、ありがとう」


 桃亜のお父様から、感謝の言葉をもらう。

 

 お母様からは、おみやげのまんじゅうを。


「桃亜。あたし席、外そうか?」


「いえいえ。おかまいなく。これより、いすゞさんのお店へあいさつに伺う予定です」

 

「そうなんですね。ありがとうございます。父も喜びます」


 桃亜のご両親はこちらに一礼して、去っていった。


「いい人でよかった」

 

「はい。自慢の両親です」


「さて。衣装を返しに行こうぜ。帰ったら、からあげだ」


「わーい。文化祭の二次会です!」



(第五章 おしまい)

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