第8話 逆襲の記憶

ハサミの刃が写真に触れた瞬間、体育倉庫が突如出現した。鉄の匂いと、小さい頃の記憶が洪水のように蘇る。


『パパの匂い』

ロッカーの錆が囁く。

『あの日、男は金庫を開けた』

『ランドセルの中の秘密を…』


「悠人くん!」

綾の声が遠い。「管理局の技よ! 記憶を武器にするの!」


ピエロ死神が踊りながら笑う。

「パパさん実はスパイだったんだよーん? ママさんはそれを隠すために…」


「…違うな」

俺の声に管理局の空間が軋んだ。手に汗でにじんだスマホが熱を持っている。

「お前ら、物の記憶しか読めないだろ?」

画面をかざしながら叫ぶ。「でもな、人間の記憶はもっと汚ねえんだ!」


体育館の壁が突然喋りだした。

『2009年6月17日、男子トイレの落書き』

『高坂父の名刺発見。背番号47』


エアコンの吹き出し口が咳き込みながら証言する。

『金庫の暗証番号は…息子の…』


「バカな…」ピエロ死神が動揺する。「あり得ない…人間の記憶が物と同期してる…!?」


綾の瞳が輝いた。「そうか! 悠人くんの能力、管理局のシステムそのものを…!」


「チャット履歴も検索させてもらったぜ」

俺は冷や汗をかきながら笑う。「父さんが残したメッセージ、全文読んでやろうか?」

空間が激しく震動し始めた。ピエロ死神のハサミが砕け、家族写真が金色の粒子に変わった。


「管理局の皆さん」

俺のスマホが全館放送をハッキングしている。

「このオレの『記憶の価値』、計算できたかーい?」

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