最終章 君が紡ぐ未来

崩壊する管理局の空間を必死に走る。綾のコートの裾が光の粒になり始めていた。


「悠人くん、もう戻れないよ」

彼女は泣きながら笑う。「私が管理局から盗んだもの…《感情の種》を君に預けるね」


掌に押し付けられた小さな瓶には、色とりどりの光が渦巻いている。近くの柱が囁いた。

『あの子の89個の命は、自分の感情と交換したんだ』


突然全てが理解できた。綾が腕に刻んでいた数字の意味。彼女が死神でありながら、なぜ涙を流せるのか。


「バカ…!」

俺は瓶を握りしめた。「こんなものより…!」


「だめ」

綾の指が俺の唇に触れる。「私が初めて《消したくない》って思ったものだから」

管理局の崩壊が加速する中、彼女は最後の力を振り絞って鎌傘を振るった。鏡の扉が開き、現実世界への道が現れる。


「行って!」

綾の足から光の粒子が舞い上がる。「私の…誇りある死神見習いを…!」


その時、懐中のスマホが熱くなった。万物の声が一斉に歌い始める。


『少年よ』

『瓶を割れ』

『星々の声を聞け』


迷わず瓶を地面に叩きつける。七色の光が爆発し、管理局の時空を飲み込んだ。


「何を…!?」

綾が目を見開く。


「物真似の死神ごっこは終わりだ」

光の奔流に抱かれながら宣言する。「お前さんを《人間》に戻してやる」


彼女の銀髪が黒く染まり始めた時、俺たちは最後の囁きを聞いた。


『―――君たちの未来は、もう誰にも盗めない―――』

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