第5話 命の定義
時間が逆流する感覚の中で気づいた。綾のコートの内側に縫い込まれた、無数の名前の刺繍を。冷蔵庫が「あの子毎晩泣いてたぞ」と囁いた声を。彼女が必死に隠していた、死神見習いの真実を。
「思い出した」時空の歪みの中で俺は呟く。「お前さん...俺の幼馴染みの霊と話してただろ? 小六の時、事故で死んだはずの」
綾の目が丸くなる。「なんで...?」
「万物と話せるのはな」俺は苦笑する。「過去の記憶も、物に刻まれてるんだって」
タイムリンプが完了した時、俺たちは再び爆発前の陳列棚前に立っていた。焔の登場まで、あと10秒。
「クソっ...どうしよう」綾が歯噛みする。
「おい」俺の手が自然と彼女の手を握っていた。「死神の試験って、命の価値を測るものか?」
「え? ええ、そうだけど...」
「じゃあ教えてやろう」俺は陳列棚のポテトチップス袋をつかむ。「このオレの『命』の価格は——」
袋のバーコードをスマホで読み込み、画面を焔の眼前に突きつけた。
「98円だったそうでよ!」
「はっ...!?」焔の仮面が初めて動揺した。
その刹那、店内の全商品がけたたましく笑い出した。レジスターの音声案内が「プライスカード勝負ですかー?」と叫び、アイスクリームケースが「私の方が安いわよ!」と噴き出す。
「バカな...」焔が後ずさる。「万物通話で...価値観そのものを...!」
「行くぞ綾!」俺の叫びと共に、彼女の鎌傘が焔の仮面を直撃した。管理局の死神が灰と共に消える直前、悔しそうに呟いた言葉が耳に残った。
『感情など...持たせたのは...お前たちか...』
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