第4話 黄昏の管理局

綾の腕の数字が「03」まで減った晩、異変は起きた。近所のコンビニで買い食いしていたら、店内の全商品がいっせいに叫び始めたのだ。


『逃げろ!』『管理局が来る!』『死神が二人!』


「死神が...二人?」アイスの包装紙が震えながら囁いた言葉に、綾の顔が青ざめた。


次の瞬間、陳列棚が爆発した。黒い灰が渦巻く中から現れたのは、蝶のような仮面をつけた長身の男性だった。胸元に光る銀の名札には《死神管理局・監察課 焔》と記されている。


「見習いNo.1074」冷たい声が店内を覆う。「規定時間を200%超過した異常事態。対象者の即時削除と、お前の資格剥奪を執行する」


「待ってください!」綾が必死に盾になる。「まだ調整できてます!彼の能力が特別なんです、ほら——」


焔の指が弾かれた。俺の胸が突然灼熱に包まれ、膝から崩れ落ちる。視界がゆがむ中、電子レンジの声が遠くで響く。『悠人!アンタの心拍数ヤバイぞ!』

「バカ!離しなさい!」綾の叫びと共に、金属音が鳴り響いた。彼女が放った鎌型の傘が焔の首元をかすめるが、灰の渦に飲み込まれてしまう。


「お前たちの《絆ごっこ》は終わりだ」焔がゆっくり近づく。「この男は既に『死のカウント』を開始している。彼と接触した全ての人間の記憶から、お前の存在も消える」


俺の掌を見下ろす。気づかなかったが、手の甲に時計のような模様が浮かび、針が狂ったように回転している。コンビニのガラスに映った自分は、輪郭が滲んだ幽霊のようだった。


「...違う」綾の声が震えた。「彼が特別なのは、能力のせいじゃない。私が...私が初めて『消したくない』って思ったから...!」


その時、頭の中で電子音が爆発した。万物の声が洪水のように流れ込み、焔の仮面の隙間から漏れる思考まで聞こえてくる。

『任務優先』『感情は不要』『管理局の秩序が全て』


「...っ!」俺の額から汗が滴る。「おい綾、管理局の連中...自分たちの感情まで殺してるんだ」


焔の動作が一瞬止まった。その隙に綾が懐中時計を叩きつける。


「5分巻き戻し!」

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