第3話
ケントくんがジェットコースターに行くと、順番待ちの列がありました。
広い場所の一部分にかかっていましたが、絵が描けないほどではありません。
ケントくんは気にしないで、絵を描くことにしました。
歩いている間に何を描くかは決めていました。怪獣です。
頭から長い尻尾の先までトゲトゲがはえていて、大きな口からキラリと光る、おそろしいキバが見えます。
火をふきます。真っ赤で大きな目で、ぎょろりとにらみつけてきます。
体は恐竜みたいに大きくて、ギザギザのかたいうろこでできています。
長い手をぶんぶんと振り回し、するどい爪がついた長い足で立って、のっしのっしと歩きます。
全体の色は青にしました。
途中でインクがなくならないかと心配しましたが、大丈夫でした。
がんばって最後まで描きあげたケントくんは、離れたところから、超大作をながめました。
とても大きな怪獣ができあがりました。
つかれたけれど、満足のいく絵です。
あとは、この怪獣が動きだしたら、みんなおどろいて、すごいといってくれるでしょう。
『きみは天才だ』
『わたしのために描いてほしい』
そんなふうに言う人が、あらわれるかもしれません。
パパとママも、きっとよろこんでくれるでしょう。
ケントくんはそんな想像をしながら、怪獣がむくむくと立ち上がるのを待ちました。
大きな絵だからか、とても時間がかかっています。
大きな風船に空気が入るときみたいに、ゆっくりゆっくりとふくらんでいきます。
待っているのにあきてしまったケントくんは、またあとで見にこようと思って、移動しました。
いっしょけんめいに描いていたときは気がつきませんでしたが、のどがかわいていました。ジュースを買ってもらおうと、家族をさがします。
そんなとき、迷子の放送がきこえてきました。
「ミズシマケントくん。ミズシマケントくん。お母さんとお父さんが迷子センターでお待ちです。近くにいる、園内スタッフに声をかけてください」
いつから呼ばれていたのかわかりませんが、迷子センターに行けば、パパとママが待っています。
広い遊園地内を走りまわらなくてすむので、ラッキーと思いました。
ジェットコースターのスタッフに声をかけて、迷子センターの場所をききました。
スタッフは無線で誰かと話しをしてから、迷子センターまで連れて行ってくれることになりました。迷子センターは入園ゲートの近くにあります。ジェットコースターからはとても離れていました。
スタッフのお兄さんと、はぐれないように手をつないで歩いていると、後ろから悲鳴がきこえました。
ばたばたと大きな足音が近づいてきて、ケントくんたちを追いこしていきます。
「逃げろ! 早く!」
と言いながら。
とても緊張感のある声です。ネズミのときにきいた悲鳴とはちがいます。
とても怖いことが迫ってきています。
ケントくんはビクビクしながら振り返りました。
恐怖をはりつけた顔で逃げまどう人々。その向こうに、大きな大きな、怪獣が立ち上がっていました。
ジェットコースターの一番高いところよりも大きい怪獣が、ガーとほえました。
空気をふるわせ、ピリピリと音がします。
いきおいに、ケントくんは転んでしまいました。今にも吹き飛ばされそうな、とても迫力のある声です。
ケントくんが想像した以上に、おそろしい怪獣になっていました。
怪獣がドシンと足を一歩動かすだけで、振動がお尻に伝わってきます。
逃げないと、踏みつぶされてしまうかも。
だけど、怖くて立ち上がることができません。
怪獣は火をふきます。逃げないと、丸焦げになってしまいます。
それなのに、足が動きません。
「立って! 逃げないと!」
スタッフのお兄さんがかがんで、ケントくんを助け起こしてくれました。
「走れる?」
きかれて、ケントくんはゆっくりと足を動かしました。一度動かすと、すんなりと動きました。
お兄さんと一緒に逃げ出しました。
みんな向かう場所は同じ、遊園地の出口です。
たくさんの人が走っていきます。ぶつかったり、ぶつかられたり。
そのうちに、お兄さんの手が離れてしまいました。
ケントくんはひとりぼっちになりました。だれもケントくんを気にかけてくれません。
優しい言葉をかけてくれません。一緒に行こうと、手をさしだしてもくれません。
大人の足があたって、転んでしまいました。
「いたいよぉ」
つらくて、いたくて、涙がじんわりと浮かびました。
こうなってしまったのは、自分のせいだ。自分があの怪獣を描いたからだ。
みんなを困らせてやろうと思って描いたわけじゃない。
だけど、人が悲鳴を上げて逃げる姿を想像して楽しんでいた。そして、調子にのってしまった。
こうなる前に、やめないといけなかった。
初めから、やっちゃいけなかったんだ。
今、家族に会えなくて、ひとりぼっちになっているのは、自分が悪いことをしたからだ。
泣いているばあいじゃない。怪獣をなんとかしないといけない。
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