第2話
ケントくんは個室から飛びだしました。
後ろから「なんだこれ!?」と声が聞こえてきましたが、気にしません。ケントくんの頭の中は、なにを描こうかでいっぱいだからです。
てはじめに、トイレの建物に沿って、お花を描いてみました。
黄色や青のチューリップ、赤やオレンジのヒマワリ、茎と葉っぱを描くと、ぽよーんと起き上がりました。
「わ! お花」
キヨカちゃんぐらいの年の女の子が、嬉しそうな声をあげてくれました。
おじいさんやおばあさんも、立ち止まって見つめてくれます。
ケントくんは、オレが描いたんだぜと言わなかったけれど、少しだけ、えっへんと思いながら、トイレから離れました。
次はなにを描こうかなとキョロキョロしていると、
「ケント!」
パパが走ってきました。
「迷子になってるのかと思ったよ。おそかったけど、なにかあったのか?」
「なにもないよ」
ケントくんは、パパに不思議なペンを拾ったことを言いませんでした。ポケットにそっとしまいこみます。
このペンはもう自分のもの。パパに言ったら取り上げられてしまう。そう思ったからでした。
しばらくは家族について行って、キヨカちゃんに合わせた乗りたくないアトラクションに乗っていました。
汽車に乗って草花が植わっているところを行くだけ。キヨカちゃんは動物の置物を見つけて喜んでいるけれど、ケントくんは楽しくありません。
メリーゴーランドも、上下に動きながら、くるくると同じところを回るだけ。汽車よりおもしろくありません。
観覧車に乗りたくてパパに言ってみたけれど、キヨカちゃんが怖がるから、もう少し大きくなってからみんなで乗ろうと言われてしまいました。
「もういい! オレひとりで遊んでくる。閉園時間に出口のゲートに集合でいいだろう!」
「待ちなさい!」
ちっとも楽しめないケントくんは、パパの静止の声も聞かず、だっとかけだしました。
ひとりでジェットコースターに乗ろうとして、身長制限で止められてしまいます。
ひとりで観覧車に乗ろうとしたけれど、フリーパス券はパパが持っているので、乗れません。
いまさら、家族のところに戻ることもできなくて、むしゃくしゃしました。
アトラクションで遊ぶのは諦めて、絵を描こう。ポケットからペンを取り出しました。
そこで思いついたのです。楽しくなかったメリーゴーランドに仕返しをしてやろうと。
五人連れの家族にくっついて、隠れて潜り込みました。
馬のお尻の部分でしゃがんで、フンの絵を描いてやりました。
馬のフンがどういう形なのか知らないケントくんは、マンガで見かける巻き巻きなフンを描きました。
ピンクや黄色・紫や緑。それはもう現実ではありえない、カラフルなフンをたくさん。
メリーゴーランドが動く合図の音がする前に、キャーという大きな悲鳴があがりました。
ひとりが気づくと、あちこちで「なんだこれ」「イヤー!」という声がわき起こります。
乗り物からつぎつぎと人が降り始めました。騒ぎに遊園地のスタッフがやってきました。
出口にお客たちが案内されていきます。
メリーゴーランドは点検のため、停止します。とアナウンスされました。
ケントくんは馬車の陰に隠れて、人が慌てる様子を見ていました。
子供だけではなく、大人たちも大騒ぎしています。その姿がおかしくて、仕方がありませんでした。
自分がやったことで、たくさんの人が慌てふためいている。
オレすげえー、と思いました。
花なんかで人をよろこばせるよりも、大騒ぎして困って様子を見ている方が楽しいと思いました。
メリーゴーランドから出て、次はネズミを描きました。色とりどりのカラフルなネズミたちです。
ネズミがちょろちょろと走っていくと、メリーゴーランドの騒ぎよりも、もっと大きな悲鳴が上がりました。
足元のネズミのせいで、ぐるぐる回っている人がいます。
飲み物や食べ物が宙を舞います。
そんな人たちを見て、ケントくんは笑いながら、移動しました。
小さい絵をたくさん描いてきたけれど、大きな絵を描きたくなってきました。大作に挑戦したい気持ちが、むくむくとわき上がってきたのです。
大きな絵を描くためには、広さが必要です。人があまりいなくて、物も少ない場所がいいです。
芝生広場に行ってみました。ここは休憩をしている人がたくさんいました。それに、芝生にうまく描くことができません。
噴水の上がる水辺の広場も同じでした。
広い場所というと駐車場を思いつきましたが、さすがに危ないとわかります。けがをしたくありません。
園内マップを眺めて、いい場所がないかなと探していると、ジェットコースターの付近が広い広場だったことを思い出しました。
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