8【織部志野の手記】

第33話

   【織部志野おりべしのの手記】


『八月三日』

 ・十八時二十六分

 再誕の儀式を執り行う最中の不踏の竹藪より、複数名の叫声が起こっているとの報告あり。ただならぬ気配にやむなく島民六名にて神域へと踏み込むと、祭壇前にて、意識を途絶させた教主と、地下牢に監禁状態であった筈の天海唯が、失神した状態で倒れているのを発見する。天海唯と共に地下牢に囚われていた白沢榮治の姿はそこになく、母体である黒塚累の姿も見当たらなかった。祭壇には夥しい血痕が残されていた。そこから続く何かを引きずっていった形跡も、神域裏の薮の途中で途切れている。

 祭壇側にて白沢榮治の物であると思われる縁の無い眼鏡を発見する。

 ・十八時三十六分

 天海唯を再び教主殿地下牢へと監禁し、二十四時間の監視下に置く。処分については教主の覚醒を待ち、保留する事とした。また地下牢では、後頭部を殴られた事による失神状態であった船越頼子の姿が見つかる。比較的軽症でありその場で覚醒するも、意識の混濁が見られる為、手当を施し安静にさせる。頼子曰く、地下牢に踏み入って来た黒塚菊織の襲撃を受けたとの事である。

 ・十八時四十八分

 天海唯が覚醒する。彼女に関しては外傷こそ無いが、心的疲労著しく混乱様の発言が続く。その後の詰問にて、教主に外傷を負わせて御神体並びに母体を連れ出したのは黒塚菊織である事が判明する。

・十九時

 島内放送にて事態の周知を行い、黒塚菊織並びに白沢榮治の行方を追う。

 ・十九時十八分

 杉沢集落側の山内にて何かを引きずっている黒塚菊織と思われる白いワンピース姿の少女が目撃される。また、近隣の納屋から鋸が紛失しているとの報告受ける。

 ・十九時二十三分

 教主――天獄団十郎が病室で目を覚ます。教主の命によりマガツコを持ち去ったと言う黒塚菊織の行方を追う事となる。また地下牢に監禁状態である天海唯への処罰は保留を継続する事となる。

 ・十九時四十二分

 教主の命により、島の若い男達総出で子山の山狩を決行するが成果を得ず。


『八月四日』

 早朝より月集落近隣にて黒塚菊織の目撃情報多数あり。同時に白沢榮治と思しき容姿の特徴をした男の目撃情報も二件ある。白い少女の目撃された時刻の数分後に同地点での目撃例が続く事から、白沢榮治は黒塚菊織の後を追う様な経路で逃走を続けているとの見解に至る。

 ・十時

 母山に分け入っていく白い少女を見たとの有力情報を元に母山の山狩が行われる。

 ・十一時四十九分

 杉沢集落近隣のビニールハウスで当時一人で農作業中であった所沢英夫が、「後生だから眼鏡を貸してくれ」と不審な男に声を掛けられ背後から眼鏡を奪い去られる。かなりの近眼である所沢は前後不覚となり、走り去る男の姿を見ている事しか出来なかった。その後の所沢の「小豆色の妖怪に襲われた」との談から、臙脂色のスーツを着ていた白沢榮治が、所沢の眼鏡を強奪したものと考えられる。

 ・十六時二十三分

 成果を得ず山狩りを中止とする。

 ・十七時二分

 各地に祀ったマガツ様への供物が無くなっているとの報告あり。


『八月五日』

 ・五時四十二分

 島内南西部海岸側に浮かぶ火葬用の小島――「焼島」にて、首の無い遺体が発見される。身体に残された形跡より、死体は黒塚累のものであると断定される。

 ・七時七分

 港東側船着場に係留してある島民用の手漕ぎ和舟が一隻無くなっているとの報告あり。未だ見つからず。

 ・十一時五十五分

 近隣に住む少年より、山野を駆けて行く白い少女の目撃情報あり。黒塚菊織であると思われる。

 ・十六時二十分

 月集落用水路側の農道にて横転したスーパーカブを発見する。側には頭を強く地面に叩き付けた巌秀作の遺体がある。今回の件との関連性は不明。事故死であると思われる。

 ・十八時三分

 月集落から虫喰崖に向かう通路に祀られたマガツ様の石像が破壊されているとの報告あり。側には供物を食い荒らした痕跡あり。


『八月六日』

 ・十時十五分。

 杉沢集落側の果樹園より谷口昌弘が鈍器で胸を複数回打たれた意識不明の重体で発見される。発見したのは共に農作業中であった妻の遥香であり、夫の言い争う声を聞いて駆け付けた所、果樹の下で仰向けの体勢で事切れている昌弘を発見する。またその際に樹木の間を東側に向けて走り去っていく白いワンピースの少女を目撃しているが、遥香はあれは菊織ではなく累だと言っている。錯乱した様子あり。今尚心神喪失状態である。

 ・十二時四十五分 

 杉沢集落側の共用農具の納屋が荒らされているのを発見する。鉄製の鍬と小ぶりな鎌が無くなっている。近隣のマガツ様の石像が数点破壊されているとの報告あり。

 ・十五時十三分

 畑の草刈りをしていた田畑義徳が不意に男の声に呼び掛けられて振り返ると、藪の中に身を潜めた真っ赤な目と視線が合う。悲鳴を上げると髪をボサボサにした白いワンピースの少女が山側に走り去っていく。手には鎌が握られていたと言う。尚、紀夫に声を掛けた声の主は不明である。焦燥した様子の田畑も、あれは黒塚累であると語っている。


『八月七日』

 ・十二時三十二分

 杉沢集落山側に位置する茶畑で夫の緒方和夫と共に農作業中であった妻、紀子が鍬で襲撃されて死亡する。和夫も頭部に深い裂傷を負って診療所へと搬送されたが、後に死亡が確認された。その間に和夫は朧げな意識ではっきり見たという犯人の容姿を告げたが、それは生前の黒塚累としか思えない特徴を捉えていた。

 ・十五時五分

 教主殿二階居室へと何者かによる投石行為あり。雨戸を打ち破り窓ガラスの一枚が破壊される。教主に怪我は無いが呆然とした様子あり。

 ・十六時七分

 船着場の手漕ぎ和舟がもう一隻無くなっているとの報告あり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る