第一章 女神様

第三話 転生しても平凡だった件

 どれくらいの時間がたっただろうか。俺は森の中で目を覚ました。


 もう一度言おう。これは俺が最高のラブコメをする(予定)の物語だ――。



 ん。そういえば俺転生して、その後の世界なんだよな。この世界って多分元の世界とは違う世界だよな。女の人が異世界って言ってたし。


『女の人、とは失礼だな。』



「あ、女の人っ!」



『……私は女神だ。』


頭の中から声がする。なんでだ?



「なあ、なんで頭の中から声がするんだ?」



『私は其方のスキルによってここにいるのです。』



「ふーん。え!スキル!?」



『私が其方に与えたのだ。』


え、待っていつの話してんの?


『私が名を聞いても、性別を聞いても、ほしいスキルを聞いても嫌だの一点張りであったぞ。』


そういえば、痛みにもがき苦しんでた時女神の声が聞こえたような……。あ、死ぬのが嫌で、ずっと嫌だって言ってたっけ。まさか、あの嫌だ、が全てを拒絶してしまったのか?


『そういうわけで其方はスキルを有していないのだ。』



「え、ガチで?」



『ああ。』


ん?でも女神が俺の頭の中にいるのはスキルって言ってなかったか?


『ユニークスキル、”神者”は無理矢理私が与えた。』



「信者?」



『神に選ばれし者、神者だ。』



「ていうかその言葉遣いやめてくんない?普通に敬語でさぁ。」



『……わかりました。私はあくまでも化身です。女神本体は別にいます。』


 あくまでも化身を頭の中においておけるのか。意外と便利そうだな。ま、他のスキルないらしいけど。



「え、でも流石に戦闘向きスキルの一つや二つくらいあるでしょ……。」



 そう言って俺は脳内にステータスを表示させる。


 ない……。どこを探してもない……。



「これじゃ頭ン中に女神がいる以外平凡な人間じゃねぇかよォォォォォ!」



『その時点で平凡ではありません。』


 あれ、ちなみに俺に名前ってあんの?


『あります。ティア=ラーファスです。』


 なんか女神が名づけてくれたような気がしないでもないぞ。


『私が付けました。』


 というかさっきからしゃべってないのに答えてくれてない?


『私は脳内の存在なのであなたが脳内で言葉を発するだけで私に意は伝わります。』


 え、意外と万能じゃね?女神、俺の親は?


『あなたは今15歳の少年です。ティアが生まれてからあなたの意識が入るまでの記憶を送信します。』


 そう言って女神は少し黙り込んでいると俺の頭に次々に知らない記憶が入って来る。その途中で何度も頭痛がした。女神によると脳が急なデータ量増加に順応するのに時間がかかるそうだ。


『成功しました。』


 おお、わかるわかるわかる!まずここの森林はグドの森。色んな魔物がいるのか。で、俺はここの森の敷地のほとんどを持つ田舎の貴族の出身。森から離れた家。毎日抜け出して森で遊びふける俺。顔は上の下ってとこか。


 え、かなり成績酷いな。えっと……今年受験じゃねぇか!ふざけんな!


(女神、なんでこんなタイミングで飛ばしたんだ?)


『進学先を選びたいかと。』


 最悪だ……。受験から始まる俺の第二の人生。俺は絶対にラブコメして見せる!


 前世の俺は酷く陰キャだったもので、とても恋愛などできなかった。


 だが!今の俺は!生まれ変わった!今の俺は陰キャだった遠藤大輝じゃなくて、転生者のティア=ラーファスだから、ラブコメできんじゃね!?ってことだ。


 唯一俺が前世に残した未練、果たして見せる!


『その前に受験ですが。』


(うるさいな。年齢的に高校受験だろ?義務教育じゃないじゃん)


『残念ですがこの国、レイク王国では高校までが義務教育です。』


(まじかよ。じゃあ高校の年数とかが前世より短かったり?)


『教育の過程については前世とほぼ同じ世界に転生しました。』


(なんでだよ!)


『その方が生きやすいかと……。』


(んなわけねぇだろ!)



 そういうわけで俺のラブコメは高校受験から始まった――。



「ティア~。ご飯よ~。」


「は~い。」



 食卓に並ぶ料理はどれも前世では見たことのないものだったが、記憶からおいしいことは実証済みだ。



「いただきま~す。」



パクッ。



「美味ッッッ!?」


「え?いつもはそんなこと言ってくれないのに~。急にどうしたの?」


「そうだぞ。ティア、頭でも打ったのか?」



 はっ。そういえばもとのティアはそっけない奴だったんだっけ。まぁなんか適当に言い訳を……。



「……ほら、反抗期?終わったんじゃないかなぁ~?」


「……それ本人が言うのか?」



父さんが怪しんだ目を向けてくる。やばいやばい。



「まぁ、言われて悪い気はしないわねぇ。」



『この食事は栄養価的にもバランスがよくとれていて、味付けも親しみやすいように工夫されており……。』


(お前が褒めても俺の脳内に響くだけだよ!)



「そう言えばティア、受験、どこ受けるの?」



 そうだったー!!!!!!!!!食事で忘れてたー!!!!!!!!!やべぇどーしよ。いや待てよ。前世の俺は社会人。つまり俺の脳は大人なわけだ。あれ?受験で争うまでもなくないか?だったらいっそ超難関校行ってみたいな……。


(女神、レイク王国で一番の学校は?)


『王立学園です。』


(王立のなんて学園?)


『王立学園という名前です。』


 じゃそこでいっか。



「王立学園……とか?」


「「王立学園!?」」



おお。そこまで驚くほどなのか。



「お前のどこにそんな知能が……?」



 え、酷。そういや俺成績悪かったんだっけ。まあ中身が変わっちゃったもんでね。俺は意外と頭だけは前世から良かったんだよ。一つ苦戦するかもしれないのは王国の歴史と地理についてかな……。まぁいけるだろ。



「まぁ、目指すというのなら私は反対しないわ。でももう10月よ?すぐ本番だけど。」



 え。


 転生したらタイミングが最悪だった件。



 女神様、助けて――。

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