第二話 そっと出た瞬間死んだわ★
ざわつきの中心は徐々にこちらへと近づいてくる。一体何があったっていうんだ。中心に何があるのか見ようとするも、人が多すぎてよく見えない。
そうこうしているうちにざわつきに飲み込まれてしまった。中心に来てやっと視界が晴れた。
中心に人はほとんどいなかった。
「台風の目みたいだな……。」
しかし中心に一人だけ男がいた。よく見るとナイフらしきものを持っている。うん、ナイフか。ナイフね。
「……ナイフ!?」
「……ああン?」
ひっ。こっち見たって!やばいって。逃げろ。逃げろ。逃げろ。
「待てゴルアァァァ!!」
「待つ奴いないだろォォォォォォォォ!!」
全速力で走る。時々曲がったりしながらなんとか撒けないかとやってみるものの、なかなかの運動神経の持ち主で、しぶとく追いかけてくる。
しかし、ついにこの鬼ごっこに嫌気がさしたのか突如男はナイフをぶん投げてきた。
「嘘だろぉぉ!!」
ギリギリでかわす俺かっこいい!
ズシャ……。
「痛っ。」
掠ってたんかい!恥っず!やばいやばいやばい。やばいよやばいよ。言ってる場合か!でももう男にナイフはない!
そう思ったとたん男は上着の中からもう一本ナイフを取り出した。そしてナイフをなめた。
怖。
「まてぇぇ!」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
しかし、再び逃げようとする俺の前に死体が立ちふさがる。まさか、さっきの投げたナイフが刺さったのか?この人が死んだのは俺が避けたせい?嫌だ。嫌だ。嫌だ。
「残念だったな。」
後ろから男の声が聞こえた。
「痛ッッッ!!」
刺されたのか?痛い。痛い。痛い。死ぬのか?俺はここで死ぬのか?まだ俺は三十代だぞ?まだやりたいことがたくさん……ん?やりたい……こと……?意外となくね?そんなこと考えてる……場合……じゃ……ないだ……ろ……。
意識が少しずつ薄れていく。
目の前……の人……はもう逝ったの……か?い……や……自分の心……配をし……ろよ。ああ……苦し……い、痛い、つら……い。嫌だ――。
『死亡を確認した。私は∥∥∥。其方は死んだのだ。そして異世界へと転生し、人生をやり直すのだ。』
あの時の女性の声。まさか。本当に?信じられるわけがない。でも信じるしかない。
「嫌だ、死にたくない。」
『転生するに当たって其方の名前を伺う。名をなんという。』
「死にたくない。嫌だ。嫌だ。嫌だ。」
『っ!?名乗りたくないのか?では其方に名をやろう。其方の名は……ティア=ラーファス。今後、そう名乗るといい。次に転生後の性別について、希望はあるか?』
「嫌だ。嫌だ。嫌だ。死にたくない。嫌だ。」
『……男のままでいいか。』
「嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。」
『なんだ、イヤイヤ期か?次に超重要なスキルについて、特別に望むスキルを十個までなんでもやろう。第二の人生の全てを決めると言っても過言ではないぞ。』
「嫌だ。死にたくない。死にたくない。嫌だ。死にたくない。嫌だ。」
『ッッッ!?スキルも要らないのか?こんな者初めてだ……。お前は面白い。だから特別に一つ、私の独断と偏見でユニークスキルをやろう。』
「嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。」
『これだけは私の判断だから拒否はできないぞ。いいか、お前のユニークスキルは∥∥∥だ。たった今、異世界にティア=ラーファスというお前の存在が現れた。意識を今から移すぞ。少しばかり頭痛がするかもしれないが我慢してくれ。』
「嫌だ。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。」
俺はまだ、死にたくないんだ――。
『安心しろ。お前が選んだ結末なんだから、その後のお前もお前が選べる。好きなように生きろ。』
私はいつでも、お前の傍にいる――。
どれくらいの時間が経っただろうか。俺は森の中で目を覚ました。
これは俺が、最高のラブコメをして、人生を満喫する(予定)の物語だ――。
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