第7話
第 六夜
魔弥矢はムチャクチャに暴れまわっていた。あれから四柱の誰とも遭遇しないのに
相変わらず小鬼どもとサイスとのバトルは続いている。小鬼どもは最早魔弥矢の敵ではない。魔弥矢は更に腕を上げてサイスにも 余程油断をしない限り負ける事はなくなった。全身青銅色のサイスが筋を浮き上がらせて悔しがる貌が痛快だった。
しかし、ざま~みろ!と大いに溜飲を下げていた魔弥矢の前に突如現れたニューエネミーは双子の怪物で、戦闘に関してはサイスより何段も格上のやり手だった。
この双子は常に阿吽の呼吸で動き回り魔弥矢の逃げ道を塞いでくる。
だが魔弥矢は、サイスとのバトルにも少々飽きがきていたので寧ろ、死ぬ気で楽しんでやれ、などと物騒な心理状態に陥っていた。と、云うのも、四柱と別れてから、
いや、見捨てられてから随分時間が経つが 魔弥矢は未だあの時の救いようのない
孤独感を引き摺っていたのだ。どんなにジャンプを繰り返しても四柱の誰とも遭遇する事は叶わぬ虚しさを小鬼やサイスとバトルことで発散していたのだ。バトっている
最中だけは虚しさが薄らぐのである。だが今や、小鬼などは石ころの様なものでサイスさえそれに近い怪人となりつつあって 余裕の隙間にふっと湧く空虚感が魔弥矢を途轍もなく寂しがらせるのである。
ある日魔弥矢は、一人逃げ遅れて物陰に隠れていた小鬼をつまみ出して双子の情報を強引に吐かせた。
双子の怪物は処刑の際、閻魔大王の両袖を固める指南役であるらしい。
やれやれ……サイスは切り刻むだけ、、、切り刻まれた処刑人の血を吸う小鬼…
そのうえ指南役とは…… 「エゲツないね~」と、魔弥矢は思わず独り言ちた。
指南役の双子は金色の腰布を巻いた方がイーグル、銀色の方がコンドル、ユニットで
「グルコン」と云うらしい。らしい、と云うのは小鬼の情報だから信用度が低い……
だが、「ふざけた名前つけやがって」と、思いながらも魔弥矢は一応受け止める事にした。 小鬼の話では、指南役は極悪人とは言い難いが限りなく黒に近い罪人を選り分ける事である。だが、最終決定は閻魔大王の裁量にかかっている。
小鬼は、魔弥矢が以前体験したハイジャック事件の事を取り上げ、グルコンの判断は最高値のレベル5ではなくレベル3に留まり大王もこの決定を許可したと言った。
魔弥矢は眉間に深い皺を寄せた。
「あれだけの大罪人が極悪じゃなくて何なんだ‼」 小鬼はオドオドしながら首を横に振った。 そうだよね……お前たちが知る訳がない。魔弥矢は、ここは直接グルコンに訊いたが早いと気持ちを切り替えチャンスを窺う事にした。
それにしても……四柱もそうだったが、グルコンも見栄えは悪くない。
浅黒く焼けた肌に引き締まった体躯。腰布一枚で勝負している潔さ、と、云うか自慢かもしれない。顔立ちも四柱に負けず劣らず美形である。
だが……これはあくまでも仮の姿なのだ。麒麟慈と壱丹の本当の姿を見てしまった以上 どんなに見栄えを良くしても仮面の下の真の姿を想像すると滅入る。
その点、小鬼とサイスはビジュアル的に見れば貧乏くじを引いた様な塩梅である。
まぁ…小鬼は最下層で次がサイスだからなぁ…と魔弥矢は考えながら頭の隅で四柱の整った面々を懐かしがっていた。そこへ、降ってわいた様にある疑問が頭の中を埋め尽くした。 魔弥矢は、自分は何処で生まれてどの様に成長して今があるのか見当もつかないでいる。気付いたら媒体の中で小鬼に踏みにじられていたのだ。
訳も分からず逃げ惑うしかなかった。だが――日を追うごとに魔弥矢は成長し 繰り返される小鬼とのバトルを通して力をつけていった。
何度倒されても翌日は何事もなかった様に甦っている自分は一体何処から来て何処へ向かっているのかも解らぬまま あるイミ気楽に、無責任に媒体から媒体へジャンプする日々が続いていたのである。麒麟慈に遭遇するまでは……
イルカの媒体から「民宿かるべ」の媒体にジャンプした時が死神との初めての出会いである。そう云えば……あの「民宿かるべ」の主人らしき男、あれからどうなったのか……麒麟慈が居たと云う事は極悪人? いやいや、そんな人間には見えなかった。グルコンに訊けば解るだろうか……そして最大の謎、閻魔大王に自分が見えないのは何故か……
そう云う訳で、魔弥矢はどうしてもグルコンと接触しなければならないと覚悟を決めた。
どうせいつか死ぬんだ!いっちょやったれ‼
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