第8話
第 七夜
グルコンの戦闘力は魔弥矢の想像を遥かに超えていた。
腕を軽く振るだけで(魔弥矢にはそう見えた)電磁波の様な鋭利な気流が生まれる。グルコンが放つジェット気流は魔弥矢の全身に裂傷の刻印を刻み続けた。
魔弥矢は今になって、無防備状態でグルコンに挑んだ事を後悔し始めていた。
いや、後悔と云うより反省である。
グルコンの情報をもっと集めるべきだった。一時的な感情に流されてしまった。との
反省である。 しかし、全く収穫がなかった訳でもない。
闘いのさなか 「お前たちには自分が見えるのに閻魔に見えない理由を教えてくれ」と言った時グルコンの攻撃が一刻(いっとき)フリーズした。
二人顔を見合わせ怪訝な表情を見せた。四柱の事を持ち出したら顕著に攻撃の手を緩めた。魔弥矢はその隙に瓦礫の中に身を隠し 瓦礫と一体化してやり過ごしていたが、しかし、これではいつまで経っても真相には辿り着けない事も知っていた。
グルコンと正面から向き合うとなると 今よりもっとずっと鍛えなおす必要がある。
それか、取引だ。
死神たちは誰一人魔弥矢を傷つけはしなかった。それなのにグルコンは小鬼やサイスの様に攻撃をかけてくる。自分が見えている、と、云う部分は共通しているのに、この差は何なんだ?しかも、これらを統括する閻魔にだけ見えないのはどう考えても解らない。取引なんて威勢のいい事を云っても やはり自分の命を賭けるしか手立てがないのだ。それでも、命にかえても真実が知りたい…知りたい…知りたい
ところが、豈図らんや(あにはか)突然グルコンの姿は搔き消え その後も二人の行方は杳として知れないでいる。
それどころか、魔弥矢の行く所は闇から砂漠に舞台を変えていた。
生物の類は見当たらない。魔弥矢はここに至って、グルコンにも見捨てられたのではないかと思い始めていた。
「だれか、だれか‼」 と叫んでも目の前の砂の海は深々とした静けさで 空っぽになった魔弥矢の心に追い打ちをかけてくるだけであった。 だったが……
魔弥矢の視界を鋭く過ぎ去った影を魔弥矢は見逃さなかった。
砂漠だから毒蛇かもしれないが 今の魔弥矢には毒蛇でさえ親しみを感じる。
魔弥矢は動いた影の方に近付き目を凝らした。見たところ何もなさそうだが、
小腰を屈めた時、突然背後から肩を掴まれ飛び上がった。みっともない位の慌てぶりに肩を掴んだ影も魔弥矢自身も 暫し、紐が緩んだ様な顔を見合わすばかりだった。 「……まったく……見慣れないモノと出くわす、今日の星占いは当たっていた……オマエはナンだ?」 と、先に口火を切ったのは影の方である。
身長は麒麟慈くらいか……不知火の様に白い衣装を纏っているが 所々に七色の差し色が見られる。銀髪のショートカットでやはり美形である。魔弥矢は、ひょっとしたら死神か?と思う程ビジュアル的に近いものを感じた。
「オマエはナンだ?」 影が再び訊いてきた。
ナンだとは何だ!せめてナニモノか、くらい言えないのか? と、魔弥矢は腹の中で毒づいたが、影から見て自分は一体ナニに見えているのか知るチャンスと気付き
「魔弥矢」とだけ答えた。
「マミヤ?……知らんなぁ…何処から来た?」 「それを探している」「………」
影は無言で魔弥矢を見つめていたが やがてクルリと背を向けた。魔弥矢は慌てて言った。 「四柱に会いたい‼何処に行けば会える⁈」 半分姿が消えかかっていた影が足を止め、振り返り言った。「四柱?」 魔弥矢は大げさなくらい頷き急いで言った。「四柱‼ 麒麟慈、不知火、壱丹、幻浄……それから、それから…こっちは出来れば今は会いたくないけど…グルコンとは何処に行ったら会える?」
「………ナンだオマエ…」影は又同じ事を繰り返した。
影は、しおらしく頭を下げている魔弥矢と上空を交互に見やりながら思案の態である。 「お願いします!麒麟慈は多分全てを知っている‼」魔弥矢は必死だった。
必死に頼み込んで頭を下げ続けた。
「ドロ人形だな…」 影がポツリと言った。 え?と顔を上げた魔弥矢に影は「オマエ
自分の姿を知ってるのか?」
魔弥矢はやっとここで気付かされたのである。
自分の姿を見た事がない事を。目に見える腕や足は常にシミだらけの布に覆われている。サイスに切り刻まれる姿は最早姿かたちがほとんど無い状態である。
魔弥矢と云う名前も気付けば符号の様に付いていたにすぎない。麒麟慈は魔弥矢を生身の人間ではないと言った。と、いう事は一応 姿かたちは人間なのだろう。
影が言った「ドロ人形」の様な……
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