第4話
第 三夜
魔弥矢は今 飛行機の中だ。
いや、魔弥矢の媒体が乗っていると云う方が正しい。
今回も望んだジャンプではない。ジャンプする直前まで行く所全て壁で塞がれ
身動き出来なくなった所へ例の小鬼がわらわら現れて鬱陶しかった。
小鬼などは今や魔弥矢の敵ではないが鎌の怪人には今だ手こずっている。
できれば避けたい相手である。
魔弥矢は立ちはだかる壁の隙間を猛スピードですり抜けジャンプした。
そして、媒体が健康な若い女性で魔弥矢はホッとしたが、しかし、何故だか
魔弥矢がジャンプする媒体は 基本どれもこれも死の淵に立っているのだから油断はできない。
女性は隣に座っている男性と手を重ね合わせ 時折見つめ合い幸せのオーラに包まれていた。ファーストクラスを利用していると云う事は 何か特別な記念なのか、単に
余裕があると云う事か とにかく羨ましい限りである。
が、異変はすぐに起きた。女性が何かの用事で座席から離れた瞬間 二列前の座席にいた男二人に拉致され人質に取られた。ハイジャックである。
二人の男は一体どんな方法で持ち込んだのか銃を持っていたが魔弥矢にはどうする事もできない。とにかく、女性の生命があるうちにジャンプしなければ共に滅びる運命にある。そして二度と蘇る事はできない。魔弥矢はその決められた謎が知りたかったが未だに不明のままである。
機内が騒然としていた中、男性のキャビンアテンダントが犯人に手向かった事で
あっさり射殺されてしまい、犯人の脅しが単なる脅しではない事を見せつけられた乗客たちは犯人の指示通り両手を頭の上に組んで貝のように口を噤んだ。
犯人の要求は指定する建物に突っ込めと云う自爆テロであった。
魔弥矢は、あぁ……やっぱりこうなるのか、と、がっかりした。危機一髪の現時点から首尾よくジャンプしたとしても、次の媒体も死の淵に立っている事は避けられない。いい加減にしろと言いたい。しかし、「皆で死ねば怖くない」……とは思わぬが
運命共同体と云う無責任な格言もあるくらいだから ここはひとつ賭けてみようか
と、一瞬だができもしない事を考えた。そんな事できっこないのは魔弥矢もよくよく承知している。死ぬ勇気はないしまっぴらだ、と云うのが本音だから。
ここはもう、ジャンプした先がどうであろうと飛ばなければならないと決めた刹那
突然目の前に真っ白なロングヘアーをなびかせた何者かが現れて魔弥矢の腕を掴むと
真っ暗闇の空間へ飛んだ。一瞬の出来事である。
「またお前か…」 瞬時に移動した所には麒麟慈が立っていた。
魔弥矢は目が回りそうになった。
と云うのも全体が激しく渦を巻いて回転していたからである。 渦の中は一目で怨念と分かる悪鬼で埋め尽くされていた。
「不知火(シラヌイ)そいつに関わるな、戻してこい」 不知火と呼ばれた白のロングヘアーはチラと魔弥矢に目をくれたが 同情の色は一切ない。
不知火が魔弥矢の腕を掴む寸前 間一髪逃れた魔弥矢は麒麟慈に問いかけた。
「戻るのはいいよ、でもさ、その前にひとつだけ教えて、あ、ふたつかな…」
「なんだ今更」 「今更?イミわからん……まぁ…いいや」 魔弥矢は不知火の手を払いながら麒麟慈に尋ねた。「あのね、私は何でここにいるの?それと、あの鎌の怪人
ムカつくんだけど アイツ死神?」
麒麟慈はあからさまに侮蔑の色を成して魔弥矢を見下ろした。
あれ?麒麟慈ってこんな大きかったっけ?いや、もしかしたら自分が縮んでいる?
魔弥矢は全身を確認する様に撫でまわした。
「コントロールができなくなったのか?」 「コントロール?」 「おとぼけはやめろ、全てお前が望んだ。これがひとつ目。ふたつ目、鎌の怪人は死神じゃない。
ただの処刑人だ。ちゃんと名前もある、サイスだ」 サイス? まんまじゃないかと
魔弥矢は思ったが、それじゃあ死神は? ……小鬼の雑魚はありえないし、などと考えていると 「死神は我々、他にもワンサカいると思え」と言った麒麟慈の答えに
魔弥矢の脳裏に二夜のシーンが蘇ってきた。
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