ロックの神様

スケアクロウ

第1話

 信じるか信じないかはあなたの勝手だとして、さっきまでこの部屋にはロックの神様がいたんだ。1ヶ月くらい前から俺の部屋に出入りするようになって、神様なのに酒飲んで、偉そうに喋って帰って行くんだ。必ず掃き出し窓から現れて、掃き出し窓から去って行くの。ここ4階だぜ?一体どうやって帰ってるのかいつも不思議に思ってたよ。まぁでも、神様だからそんな事関係ないのか。

 いつもギターケース持って来るんだ。一度も弾いてるところ見た事ないけど。見た目もダサくてさ、ちりちりのロン毛にバンダナ巻いて、破れたTシャツに「ROCK」って書いてあるんだよ。まんまじゃん。例えるとしたら、キース・リチャーズを小さくして、もっと太らせた感じかな。要するに、キースをダサくした感じだよ。神様なだけあって、たまにはいい事言うんだけどね。けど、素直じゃないし、ひねくれ者だね。そんな奴がなんで俺の所に現れるようになったかは、正直俺もわからないよ。ただ必ず、俺がこうして部屋で飲んでる時にやって来るんだ。酔っ払ってる時に。そんで、説教が始まるんだよ。確かに、今の俺は腐ってると思うよ。だって売れないんだもん、役者として。もう何年やってると思ってるの?まだ若いとか言われるけどさ、27なんて若くないよ。周りはどんどん売れてくし。でもさ、おかしいと思わない?俺役者なのにロックの神様って。普通、役者の神様とか、映画の神様とかじゃない?謎だよね。まぁその理由はさ、手紙を読んだらなんとなく伝わっては来たんだけど。もう今日で最後だからって言って、置いてったんだよ、この手紙を。


  売れない役者君へ


『ハロ〜調子はどうだい?飲んでるかい?モテてるかい?で、いきなりだけどさ、俺、お前売れないと思うよ。だって、腐って飲んでるだけじゃん!ただの飲んだくれじゃん!これでお前が売れたら奇跡だよ。世の中どうかしてるね。

 

 どうだい?誰にも相手にされないという気分は?誰にも気づかれないという気分は?辛いか?苦しいか?寂しいか?そりゃそうだよな、だってお前売れてないもん!現状、仕事ナッシングじゃないっすか兄さん。

 

 どうするよ?このまま行くのかい?耐えられるのかい?耐えた先には奇跡が待っているのかい?俺、知らねぇよ。神だけど、そういうのわかんねぇよ。なんつって。じゃ、真面目な話しすんぞ。

 

 俺がロックの神様を辞めた理由は、ロックに神様は必要ないからだ。ロックは、自由奔放なやつだ。好き勝手にどこまでも行く。痛みと共にな。そこに神様がいたとしても、そんな事は関係ない。ロックは神をも越えていく。神の存在など無意味なんだよ。だから、俺は辞めたんだ。後悔はない。ただ、お前に会えなくなるのは少し寂しいがな。少しな。少しだぞ。

 

 お前はなかなかレベルの高いクズだ。そういう奴は、ロック的に言えばおもしろかったりもする。一般社会では通用しないがな。だけど、俺はそんな奴らの味方だ。何かに向かってはいるけれど、世の中に全く相手にされずに立ち止まってる、どうしようもない奴らの味方だ。味方がいなけりゃ勝ち目はない。逆に一人いれば十分だ。余裕で勝てる。お前には最低、俺という味方が一人いる。なっ、余裕だろ?ロックの神様を辞めたからって、味方じゃなくなったなんて思うなよ。

 

 ここら辺でお前に、今のお前の苦しい状況を打破する方法を教えてやりたいんだが、それはできんのだよ。人間に答えを教えてはならないという、神の世界の掟があってな、それを破るわけにはいかないんだ。だから、すまないが答えは自分で見つけてくれないか?その代わり、お前に詞を書いてやった。ギター弾けるだろ?曲はお前がつけろ。神の詞だぞ。あり得ないぞ、普通。

 

 俺の事は心配すんな。少し旅にでも出ようと思ってな。そこで今後の事は考えようと思ってる。ナンパでもしながらな。なんてな。

 

 そんじゃ、あんま長々書いてもしょうがねぇから。近いうちまた飲み行くわ。二度と行くか!この大根役者が!バーカ、バーカ、バーカ!』


 

 人に嫌われたい なぜなら なぜなら

 その方が 僕が僕であれるような気がして


 人に愛されたい 本当は 本当は

 だけど 僕の言葉は皆に届かないんだ


 そばにいてほしい あなたに あなたに

 多分 誰もが皆そう願っているはず



 どこへ行けば正しいのかな

 今僕がいるこの場所は 正しいのかな



 地位も名声も 金とか権力 そんなの

 やっぱりくだらねぇ 同じ人間じゃないか


 ハッピーエンドじゃないかもしれない

 物語の続きを 僕はまだ見たいんだ



 どこへ行けば正しいのかな

 今僕がいるこの場所は 正しいのかな

 

 

 人に嫌われたい なぜなら なぜなら

 その方が 僕が僕であれるような気がして



 携帯が鳴った。マネージャーからだ。


「もしもし」

「お疲れ様です。今大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

「前作の山城監督から連絡が来まして、次回作の主演を柏原さんでお願いしたいと」


「えっ?マジですか?」




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