第2話 堀ノ内町のある一角
川崎市の喧騒の中、俺は「フルーチェ川崎校」に足を運んだ。この街は昼間は普通だが、夜になると魔界と化す。俺みたいな探偵が必要とされる理由は単純だ――トラブルが絶えない。特に異界絡みの厄介事が。
「フルーチェ川崎校」といえば、ただの風俗店じゃない。川崎と吉原で複数の店舗を経営するフルーチェグループ。その中でも特に人気が高い店舗で、人間と魔族の両方を指名できる世界初の店だ。どちらの客層にも大人気で、川崎のホットスポットとして名を馳せている。
俺がここに来たのは、遊びに来たわけじゃない。昨日盗まれた「金魔羅の秘宝」と呼ばれるアイテム――異界の力を秘めた謎の物品の情報を掴むためだ。
受付で「レイちゃん、本指名で」と告げると、案内係が俺を階段へ誘導した。この店のシステムは至ってシンプルだ。女の子を指名し、部屋に通され、お風呂でまったりしてから――後は想像に任せる。実に健康的だ。
部屋に入ると、セーラー服姿のレイが待っていた。彼女は魔族の血を引いており、風俗嬢であると同時に異界トリビアの生き字引でもある。魔界版Wikipediaと言っても差し支えない。
「佐藤さん、久しぶりね。今日も事件? それとも、ついに私にメロメロ?」
「事件だ。いまどき『メロメロ』って昭和かよ。」
「うっさいわね。じゃあ座って、何があったか話して。」
俺は手短に「金魔羅の秘宝」の話をした。すると、彼女の表情が曇った。
「それ、まずいわね……。『金魔羅の秘宝』って、かまなら祭りの中心的なアイテムなのよ。それが盗まれたら祭りが中止になる。」
かまなら祭りは、江戸時代に川崎宿の遊女たちが病除けを祈ったのが始まりで、男根を模した神輿を担ぐという歴史ある祭りだ。「なんでそんな形?」と聞いて地元のおばあちゃんに30分説教された記憶がある。
「それはさっき神主から聞いた。祭りが中止になると、堀ノ内と南町の女の子がヤバいってことだろ?」
「そういうこと。言っとくけど、かまなら様の祟りは本物よ。」
俺は頭を掻いた。厄介ごとの予感が確信になったようだ。
「ところで一つ、耳寄りな情報があるの。」レイが身を乗り出し、小声で言った。「今夜、川崎富士見公園で『悪魔の大市』が開かれるわ。」
「悪魔の大市?」
「毎年4月に開催される異界のフリーマーケットよ。普通のフリマだと思って行くと、出品物が魔道具や盗品ばっかりで驚くわよ。去年なんか、ドラゴンの鱗や謎の契約書、期限切れのポーションまで売られてたとか。」
「最後のやつ、ただのゴミだろ。」
「しかも裏社会が仕切ってるから、トラブル続出。行方不明者も出てるわ。」
俺は腕を組んで考え込んだ。「なるほど。そこに行けば金魔羅の秘宝についての情報も得られるかもな。ただし、命がいくつあっても足りなそうだ。」
「それでも行くんでしょ? 私もついていくわ。」レイの目に覚悟が宿っていた。
「いやいや、それは危ないだろ。」
「佐藤さん、私は普通の風俗嬢じゃないし、この街の危険を、ほっとけるわけないでしょ?」
こうして俺たちは「悪魔の大市」に向かうことになった。夜の川崎富士見公園は、異界と現世の境界が曖昧になる、不気味な静けさに包まれていた。
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