川崎が異界と繋がってしまったので探偵として街の平和を護ります4

@CircleKSK

消えたかまなら様の謎

第1話 消えたかまなら様の謎

 川崎市川崎区。人口約23万人で政令指定都市の中心部。異界と現世が入り交じる奇妙な街。川崎という土地は常に奇妙な事件と隣り合わせである。俺はこの街で探偵業を営んでいる。事務所は川崎の仲見世通りにあるカラオケボックス「レインボーブリッジ」の裏手にある雑居ビルの二階。


「かなまら祭りが危機に瀕している?」


 事務所の狭い空間に、不釣り合いなほどの重低音が響いた。目の前に座っているのは金山神社の宮司、宮坂明彦。白髪混じりの短髪に鋭い目つき、どこかテレビドラマで見かける神職役のようだ。ただ、彼の癖なのか、話すたびにメガネをクイっと押し上げる仕草が妙に目に付く。

 

「そうです。金山神社のご神体である『金魔羅かなまらの秘宝』が何者かに盗まれてしまったのです」


「金魔羅の秘宝」――川崎で4月の第1日曜に行われる「かなまら祭り」の象徴である。地域一帯が「かまなら様のご加護」とやらで持ちこたえているという。神社の宮司がここまで取り乱す理由は分かるが、俺にはその背後にある「事情」までピンときていなかった。


「まぁ、大変なことだとは分かりますが……その秘宝がなくなると、そんなにまずいんですか?」


 俺が尋ねると、宮坂さんはさらに深刻な表情になり、神妙な口調で語り始めた。


「佐藤さん、かなまら祭りはただの祭りではありません。この祭りには、遊女の守り神としての重要な役割があります。ご存じでしょうか、かつて川崎には多くの遊郭がありました。その時代、この祭りが遊女たちの健康と安全を祈る場として根付いたのです」

「ああ、なんとなく聞いたことはありますね」

「ですが、その背後には恐ろしい話があります。昔、祭りが途絶えた時、多くの遊女が病で苦しんだ記録があります。」

「かまなら様の祟り、ってわけですか。」

「そうです。秘宝には神のご加護が宿っています。それが失われれば、同じことが起きるかもしれません。」

 

 俺は内心ため息をつきながら、宮坂さんの話を聞き続けた。


「金魔羅の秘宝は、かつて遊郭で働く女性たちの健康と安全を祈る象徴でした。それが失われたら、再び呪いのような災厄が降りかかるかもしれません。」

「つまり、祭りが止まれば堀ノ内と南町が危険だと?」

「その通りです!特に、現代は蒲田や横浜にまで風俗店が拡がっている。呪いの再来ともなれば、被害は甚大なものとなるでしょう」


 宮坂さんの表情には切実なものが込められていたが、俺はただ頭を掻くしかなかった。この状況、どう考えても普通の事件じゃない。


「分かりました。じゃあ、その盗まれた時の状況を詳しく教えてもらえますか?」

「はい。昨夜、深夜2時ごろでした……」


 宮坂さんは続けて、異変のあった夜の出来事を語り始めた。


「深夜2時ごろ、妙な風の音がして目が覚めました。ただの風音じゃないんです。呪文を唱えるような、不気味な音で……」

「……呪文のような音、ね。で、様子を見に行ったら秘宝が消えてた?」

「はい。近くの地面には、焼け焦げた跡が残っていて……」

「で、その音がした後、様子を見に行ったら、秘宝が消えてた、と」

「そうなんです。そして、近くには何やら地面が焼け焦げたような跡が……」

「地面が焼け焦げ?」


 俺は顎に手を当てて考え込む。どうやらこれはただの「地域のマニアが秘宝を持ち帰った事件」ではないらしい。そう、これは……異界絡みの匂いがプンプンする案件だ。


「宮坂さん、この件、人間だけじゃなくて、何かもっとややこしい奴らが絡んでる可能性がありますよ」

「ま、まさか……異界の者が……?」


 宮司はビビりまくりながら声を震わせた。その震えが余計に話を怪しい方向に進めるのだが、まぁ、ここは一旦乗っておくべきだろう。


「ええ、可能性は高いです。で、その焼け焦げた跡、何か形とか残ってませんでした?」

「何か円形を描いたような焼け焦げた跡が残っていました。表面には奇妙な模様が浮き出ていて、まるで何かの儀式跡のように見えました。」


 宮坂さんの震える声を聞きながら、俺は呟いた。


「分かりました。俺が何とかします。」


 こうして俺は、この奇妙な事件の真相を追う羽目になった。異界の扉が、少しずつ開き始めているのかもしれない……。

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