第7話 信号無視

「君を追いかけていたもの。あれは君を侵食している、黒い塊だよ」

「なんのことですか?」

「もう少し、ヒントをあげる。黒い塊は、君の心に住み着いている」


 何を言っているのかさっぱり分からない。

 心に住み着いているってことは、何かの病?インフルエンザのことを言っているのか?



 ——何かに追われている恐怖…。

 


 家主は肘掛けをポンと叩き言った。


「そう、君は心に大きな負担を抱えているんだよ」

「僕に?」

「勉強や部活、あと人間関係はどうなのかな?」

「いや、思い当たることがないですね…」

「——体育祭の準備と文化祭の準備。それに部活動内での揉め事。あとは、英検の勉強と中間試験」

 

 家主と話していて感じていた違和感に気づいた。

 

 もしかして、僕の心の中を読まれている?

 あまりにも自然で気づかなかったが、頭によぎった事柄を全て言われた気がする。

 家主は、やはり魔女なのか?

 

 家主は高らかに笑った。揺り椅子が元気よく揺れている。

 

「魔女じゃないよ——君の心の拠り所かな?」

 

 ————。




 日光は僕に安心を与えてくれる。

 枕元に置いているティッシュ箱から二、三枚ティッシュペーパーを取り出した。夢だったとはいえ、現実に近い感覚だった。涙と鼻水を拭いた。

 体を起こし、眠たい目を擦り、カーテンを開けて日光を全身で浴びた。


 やはり朝はいい。


 上がっていた熱も、解熱剤のおかげで無事に下がった。しばらくはあの夢を見ないで済みそうだ。

 そして僕の予想通り、あの夢を見ることは無くなった。

 

 夢から覚めた今、あのとき何が夢で起こっていたのかよく思い出せない。僕が常に抱えていた不安と、焦りは少し収まった気はした。あの夢が関係していると思う。けど思い出せない。

 覚えているのは山の麓まで続く草木と、縮小感に逃走。そしてお香の香り。

 とにかく悪夢だった。これは間違いない。だから高熱にならないように健康には気をつけようと思った。

 

 



 ————約半年後。



 うわぁ思い出した。まただよ。また、あの場所だよ。


 失っていた記憶が蘇った。この場所に来るとすぐに思い出す。


 ——とりあえず煙突から出る煙を探そう。

 自分が陥る状況を理解しているはずなのに、不安感と縮小感に再び怯える。そして空からの視点を使って必死に逃げる。

 

 それにしても僕を追いかけている人たちは、いったい何者だろうか…?

 悪夢にうなされると目覚めが悪い。でもまぁ、寝不足でもいいか。

 明日も学校に行く気はないから。

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信号無視 清光悠然 @seikou-yuzen

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