第4話 消えぬ縮小感

「すげぇ…」

 

 夜空が埋まっていた。

 自分の目で見る夜空は、視力の影響もあって鮮明に見えない。だから窪みに映る夜空に、心が奪われてしまった。

 オリオン座も色の違いがわかる。星空がこんなにも美しいとは知らなかった。「星空は綺麗」というのは周知の事実。周知の事実だけど実際に「綺麗」と心の底から思ったのはこれが初めてだ。

 満月もクレーターがよく見える。


 埋まっている夜空と頭上で広がる夜空を見比べたい。

 夜空を二つ同時に見ることは今後一切ない。


 僕は空を見上げた。



 あれ…、見えない。

 空を見上げたら——僕は布団の中にいた。

 

 あの世界から抜け出せた。

 カーテンの隙間から漏れる日光にほっとする。

 重たい体を起こし、早速着替える。ひどい汗だ。布団にも汗が染み付いている。

 まさか自分がインフルエンザにかかるなんて思ってもいなかった。クラスの中で第一号だ。

 高熱が出ると、なぜかあの場所にいる。

 そして何かに怯え、必死に逃げて…。その後の記憶があまりない。草木が生茂る巨大迷路のような場所。自分が縮小した感覚。そしてとてつもない不安と恐怖が襲ってくる。

 尿意を感じたので眠たい目を擦って、トイレに向かった。

 

 まだ頭がぼやけている。トイレをしながら片手で頭を抱えていると、あの感覚が湧いてきた。

 自分がどんどん縮小していく感覚。縮小感。トイレの個室がどんどん広がっていく。

 鼓動が早くなっている。僕は落ち着くために、目を閉じた。そして、深呼吸をして再び目を開いた。

 

 早くトイレから出よう。

 

 お医者さんには「五日間は家にいるように」と言われた。両親は仕事で外出しているから、僕は家の中で一人だ。

 時々襲いかかってくる縮小感を忘れるために、テレビを見る。旅ロケ番組は恐怖心を忘れるのに丁度いい。のどかな場所だと、より僕の心は安心する。

 ロケ番組が終わると、自分の部屋に戻って勉強を始めた。そして母が帰宅したのを知って、再び夜が来たと不安になる。

 感じていた縮小感はテレビを見ているうちに消えたが、今度は寝てあの世界に行くことが怖い。


 夢の中で「まただ」と夢だと認識しているのに、夢から抜け出せられない。

 あの場所はどうして高熱のときに現れるのか、あの夢の正体が気になる。でもこれ以上、悪夢を見たくなかった。

 熱を下げるために解熱剤も飲んだ。冷えピタを額に、氷枕を頭の後ろに置いた。


 ————。

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