第2話 追跡者たち

 僕は走り出した。もちろん、目印はない。ただ、今見えている道を必死に走った。


 また空からの視点だ。


 必死に走る僕以外にも、走っている人たちが見えた。

 彼らの動きを見て確信した。彼らは確実に僕を追いかけている。


 彼らは道を無視して、草木の中を掻き分けて一直線で迫ってきていた。

 周辺の明るさ関係なく、彼らの顔は見えない。

 誰なのか見当もつかない。


 とにかく走った。ぬかるんだ道に足場を盗まれても、僕は必死に先の見えない道を進んだ。

 目視はしていないが、水溜まりを踏む音で彼らはすぐ後ろまで来ている。


 もう無理だ。殺される。


 パニックになっていた僕は道から外れて、草木を掻き分けて進んだ。

 無駄な抵抗かもしれない。葉で手が切れても気づかない。とにかく前進。右足、左足を前へと出した。

 

 あれ?

 

 僕の必死な抵抗もあってか、彼らの足音が聞こえなくなっていた。切れた手が痛む。足も限界に達している。汚れることを気にせず、その場に座り込んだ。濡れた地面の冷たさが、お尻を通してじんわりと伝わってくる。

 再び第三の目に切り替わったときに、あたりに誰もいないことがわかり、肩の力が抜けた。

 

 ——煙?


 気が緩み、無心で夜空を見ていると白い煙が漂っていた。


 僕は再び走った。

 見えた煙が自分にとって良いか悪いかなんて考えはなかった。

 これまで目印となるものは何もなかった。薄暗い巨大迷路をひたすら彷徨っていた。だからこそあの煙が、希望の光に見えた。


 煙が見えた方角に向かって進むと、草木が植えられてない開けた場所が現れた。空から見た限りでは、そんな場所はなかった。


 草木が生い茂る中に突如として現れたその空間には、ひっそりと古びた家があった。

 

 屋根の色は紫色で、玄関前は蜘蛛の巣だらけ。窓ガラスもひびが入って、穴の空いたところからネズミが入っていくのが見えた。

 いかにも魔女が住んでいそうな家だと思った。そんな古びた家の歪んだ煙突から、白い煙が出ていた。


 この世界から出られることに希望を持った僕は、魔女を気にする余裕なんてない。


 足元が無くなりそうな階段を注意して、蜘蛛の巣を避けながら家の中に入った。

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