Mémoire 【選択肢Ⅱ】
episode01:朝焼けと君
「…………そっちの方がいい」
「え?」と小さい声で聞き返す。
「君のことは知らない。どういう人生を送って、何に悩んでるかなんて僕には関係ない。僕に関心があるのは、僕の人生の中に踏み込んできた君だけだ。
距離感がおかしいのに、変に空気は読めて。人を不快にしないように言葉を選んで。だけど、計画性のない計画に僕を巻き込んで。矛盾した感情、一貫性のない行動ばかりで振り回されてるはずなのに、……一緒にいるのは苦じゃなかった」
「…………」
「『今』、ここにいる君は嫌いじゃない」
過去の出来事が積み重なって今の彼女を作り上げている。それは彼女が間違いながらも、迷いながらも、自分のやり方を探しながら生きてきた結果だ。
だから――
「君はそのままがいいよ」
ハッキリとした口調で伝える。これは彼女に聞いてもらわないといけない言葉だと思ったから。
「はぁーーっ」と大袈裟に息を吐き、両手で顔を覆う。「ずるい」とか「もう」とか良く分からない声を上げた。
いくつか声を上げ、満足したのか大人しくなった。
そして再び膝に置かれた腕を枕にするような体勢へと戻り僕を見て、
「楓くんはわるい人だ」
ぽつりと呟いた。
もう太陽が昇るのだろう。
いつのまにか僕らを照らしていた月は消え、目の前の海はキラキラと輝きを浮かべる。
不在であるのに自身を主張するように太陽の光は海を、雲を照らす。青とオレンジが混ざり合い、空と海の境目が分からなくなった。
朝日が昇り、彼女との時間が終わる。そんなことは分かりきっていることだった。
だけど初めて見る幻想的な景色に、もう一度夜が来ることを夢想してしまう。
もう少し彼女との時間を重ねたかった。
朝焼けに照らされる彼女の顔はとても、綺麗だったから。
「もうちょっと一緒にいよう」
彼女からの提案に静かに頷いた。
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